読書「その木戸を通って」山本周五郎 創元推理文庫
2005年発行 日本怪奇小説傑作集2
城の会計監査役をしている平松正四郎は老職の田原権右衛門から家老の娘との見合いを薦められていた。しかるに、正四郎の家に記憶喪失をした若い娘が正四郎を訪ねてきた。
彼にとって見たことも聞いたこともない見知らぬ娘であった。一時はこの娘を追い出そうとした正四郎であったが、押し切れず家で面倒を見ることにした。娘は自分の名前も家も過去の記憶一切を忘れていた。
しかし、品も好く、字も旨く礼儀正しく、由緒ある家柄の家に育ったと思われる娘に正四郎は惹かれ、薦められた見合いを断って、彼娘と婚姻を結んだ。やがて、可愛い女の子も産まれ、しばらくは幸せな日々が過ぎた。
結婚して4年が経ち子供も3歳になっていた。そんな春先のある日、妻は突然記憶を取り戻し、正四郎や家人が知らない間に、始めに来たときと同じように忽然と立ち去ってしまい、どんなに手を尽くして四方八方を捜索しても行方は全く掴めなかったという。
本作品は、一人の侍と彼を取り巻く人々の生きざまが、それが潔くも、人情味細やかに語られ、そのなかにこの奇怪な出来事が妖しく織り込まれている。山本周五郎という作家の魅力が実に如実に示されていたと思う。
この物語には”神隠し”という恐ろしくも不可思議な伝承が主題として扱われている。 正四郎は突然訪れた謎の記憶喪失の娘に哀れを覚えて、自宅にて面倒を見る内に、情がわき、自分の出世と関わる縁談を断り、娘を妻とする。子供もできる。しかし、妻は4年ほど経って忽然と居なくなってしまう。その消え方も不可思議で、異次元への扉をくぐったかとも思われる得体の知れない行方不明である。
これと似たような民話があり、「鶴の恩返し」、「雪女」、その他、蛇、蛙、などいろいろである。いずれも、人間以外のものが人間の男と情を通じ、ひとたび人間の女と化け妻となり、子供をもうけるが、夫に固く約束させたことが破られたとき、子供を残して元いた世界に帰ってしまう、というものである。
「かぐや姫」などもその類かもしれない。竹の中にいた幼い姫は老夫婦の娘となり結婚はせず少女のままで月の世界へ天人となって帰ってしまう。
これらの変化は人の目から見れば一種の”神隠し”に見えたのではなかろうか。今まで居なかったものが急にそこに現れ、ある時、忽然と再び居なくなる。異次元へ消え去ったとも思えるし、人以外の存在の姿に戻ってしまったとも思える。ある意味で、生きていたものの”死”ということも、そう考えられなくもない。
本作品が映画化されれば反響を呼び、おもしろいのではないかと思う。
TVの後の余韻でPC検索して貴殿のこの記事に当たりました。文末にお書きのように「おもしろい」作品になっています。是非ご覧になられることをお勧めします。
(すでにご存知でしたら悪しからず)
失礼しました。 S拝
ありがたいコメンオ感謝します
そのDVDはついぞ知りません
ツタヤにでも行って在庫有無を聞いてみましょう
ご感想(原作と映像)を是非教えてください。
私は63の終わりの爺です。ここまで昭和から生きてくると江戸時代の空気や時間、季節歳時などにあこがれが強くなりました。そこでおすすめなのが山田洋次3部作のうちの「隠し剣 鬼の爪」です。松たかこ、緒方拳の演技をご覧になってください。 S拝
ぜひDVDを見つけて観てみたいと思います
すぐには見つけられないかもしれませんが
隠し剣はたしか観たような記憶があります
過去記録を探してみます