映画「英国王のスピーチ」
評価度★★★★
内向的で国王になど金輪際なりたくなかった王子がドモリを克服して歴
史的な演説を成功させ、国民に勇気と感動を与える国王となった。
またその陰には王のドモリ(吃音症)を矯正した町の民間療法士のオー
ストラリア人の熱意と友情があったことが物語られる。
ジョージ六世の兄のジョージ五世は政治より恋愛好きな性格で二度も
離婚したシンプソン夫人と結婚した。そのため父王が逝去した後も一端
王位に就くがイギリス憲法に違反しているとして失墜し、王位は弟のジョ
ージ六世に回ってきた。この当たりはよく聞いた話だ。時はナチス・ヒット
ラーの台頭してきた時代であり、イギリス王はナチスに対する国家の対
応を決断しなければならない立場にあった。国会と教会とがその政治的
姿勢を国王にいわせるという構図が見える。中世の王ではあるまいし、
国王が政治を牛耳った時代ではない。
ライオネル・ローグはどうやって内気と吃音で悩む国王を矯正したのだろうか。
国王と平民という上下の関係はいわずもがな、患者と医者という関係を
も拒絶し、友達という対等な関係を要求し、自分への信頼に基づき、独特
な矯正方法を編み出す。その一つは、音楽を聴かせながら王に本を読ま
せる、音量を多くしてかなりの大音響の中で負けないように大声で本を読
むのである。王はあきれて帰ってしまうが、後で録音を聴いた途端自分
が驚くような流暢さで朗読していたことを知る。
それが、初めてローグへの信頼感を抱いた時であった。しかし、そう簡
単には吃音を克服できない。いやが上にも、王としての責任を課せられま
さに清水の舞台から飛び降りる気持ちで望んだ一世一代の国民への放
送で、彼は自分の内気に打ち克ったといえる。放送の最中、ローグはま
るで指揮者のごとくに王の前に立ち、崩れ落ちそうとする王の気持ちを
落ちつかせ奮い立たせ続けた。放送が終わった後で、ローグは初めて王
を陛下と呼んだ。
英王室の開かれた環境がなければ、この映画も作られなかったであろ
うと思う。
また、病を癒す者が、癒される側の者よりも、上でもいけないし、下でも
いけないという、セラピーという仕事にとってこれが最も大事な条件であ
ることを教えられる。敷衍していえば、愛する者は愛される者より上でも
下でもないともいえる。同様にボランテイアは奉仕を受けるものにとって、
対等の立場であることもいえる。情けをかけるとか、かけられるというの
は、何となく上下関係を生みやすい。そうであってはならないということで
あろう。相手が国王であれば、平民のローグはさぞかし緊張したのであ
ろうが、ローグはこの基本を揺るがすことなく、全力で当たり誠意を尽くし
たからこそ、王の吃音を矯正できたのだと確認できる。
イギリス/オーストラリア 2010年
監督: トム・フーパー
製作: イアン・カニング、 エミール・シャーマン、 ギャレス・アンウィン
製作総指揮: ジェフリー・ラッシュ、 ティム・スミス、 ポール・ブレット
マーク・フォリーニョ 、 ハーヴェイ・ワインスタイン 、 ボブ・ワインスタイン
脚本: デヴィッド・サイドラー
音楽: アレクサンドル・デスプラ
音楽監修: マギー・ロドフォード
出演: コリン・ファース ジョージ6世
ジェフリー・ラッシュ ライオネル・ローグ
ヘレナ・ボナム=カーター エリザベス ガイ・ピアース エドワード8世
ティモシー・スポール ウィンストン・チャーチル
デレク・ジャコビ 大司教コスモ・ラング
ジェニファー・イーリー ローグ夫人
マイケル・ガンボン ジョージ5世
映像:Allcinemaより
劇場:TOHOシネマズ