(童話)万華響の日々

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読書「猫の泉」日影丈吉 その印象

2010-12-17 20:28:17 | 読書

読書「猫の泉」日影丈吉(1908-1991)
 創元推理文庫 2005年発行 日本怪奇小説傑作集2 
 

 南フランスを旅行中であった動物や風景のカメラマンの主人公は、ある旅行者からヨンという聞いたこともない町のことを聞いた。その町にはチベット猫がたくさん居るという。そのことに興味を覚えた主人公は、その町を訪ねてみようと決心した。

 いろんな人にその町の場所を尋ねるが、なかなか分からず、やっとのことでその町に辿り着く。その町は中世の世界そのままであり、町の中央には時計塔がそびえていて小さな教会と役場らしい建物が広場を囲んでいた。

 町は全体が谷間にあり、小さな民家がいくつか存在していた。彼はそこでこの町の町長と書記とにあった。彼らは外来者に、大時計の時報を聞き、その音からこの町に関する予言を聞きだして欲しいと依頼される。
 

 時計塔ができて三百年たち、その間、外来者は主人公で三十番目だという。主人公は時計塔に登って広場を見ると、涸れたような泉があり、その周りに数匹の猫が集まっているのを発見した。何回か時計の時報を聞いたが、ただの機会音にしか聞こえなかった。

 しかし、ある日の夜ついにあるメッセージとしての言葉を聞いた気がした。その言葉は”洪水”というように聞こえた。集まっている猫は次第に増え、三十匹ぐらいにはなった。夜なので月明かりはあったが写真の撮影は無理であった。

 時計が鳴り終わると、猫たちは一斉に主人公の方を見て何かを期待しているようである。彼は時計の言葉を猫たちに語った。一匹の猫がミャオーと鳴き、一斉にその猫を先頭にして時計塔の中を登った。主人公も猫たちと共に時計塔ですごし彼は寝てしまった。朝起きると、町は水浸しとなり、一切の人影もなかった。
 

 この作品は実に幻想的である。事実か夢か、どちらとも着かない。南フランスの忘れられたような小さな町に伝承された言い伝えは、その町の運命を予言する外来者がいつか必ず訪れ、時計の時報によって解き証をなすのだという。

 町の住民は昼は人間であるが、たぶん夜はチベット猫に姿を変えて広場に集まるのであろう。時計塔とは過ぎゆく時を告げるものである。その町を救うものはよそから訪れる予言の力を持つ旅人である。猫たちは洪水を避け無事この町を脱出したようである。何とも神秘的な神話のような作品である。
 

 ともかく、猫たちはまたどこかで人間の姿に変わって生活を始めたのであろうか。
 謎が多い作品である。どうしてフランスのこの小さな町にチベット猫が集団で居るのであろうか。チベット猫とはどのような種類の猫であろうか。などなど・・・・・。
 

 とにかく、猫好きには実に興味のある作品である。



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