旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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くすり・クスリ・薬

2009-10-15 00:20:00 | ノンジャンル
 日本語大辞典を引いてみる。
[くすり・薬]=広くは動物・植物一般に、特殊な働きを示す物資。狭い意味では、病気の予防や治療の目的で利用する物資。法律上は、薬事法により医薬品と医薬部外品が定義されている。数え方=一服・一包み・一袋・一カプセル。
 「薬、人を殺さず 薬師、人を殺す」という。薬で死んだとしても、それは薬のせいではなく、それを調合した薬師のせい。モノは使い方によって、毒にも薬にもなる例えの慣用語だ。
 使い方と言えば、モルヒネなどは、激痛を伴う病気の人の負担をやわらげるため、治療薬として開発したものだが、それがいろいろ用途を広げ、戦争の前線にいる兵士の極限状態の恐怖をマヒさせるために使用されたことから、今日も芸能界のみならず、一般人をも汚染している。またぞろ、辞典を引く。
 [まやく・麻薬]=鎮痛、麻酔作用があり、習慣性をもちやすい薬物。アヘン・コカインなど。医療では鎮痛、麻酔薬として使用。嗜好的使用は害があるので禁止されている。
 麻薬の輸出入、製造、所持などの取り締まりと取り扱い免許や中毒患者の措置などについて定めた「麻薬取締法」は、昭和28年〈1953〉に公布されているが本来、健全な社会を創出するため、医療用とする目的の麻薬は、いまや闇の世界のスラングでは簡単に[クスリ]としてはびこっている。辞典に明記された[くすり・薬]の定義は、どこへ行ったしまったのだろうか。

  

 10月5日付の新聞に「薬、人を殺さず 薬師、人を殺す」を思わせるような調査報告が掲載されている。
 全国906の薬局で4~6月の3ヶ月間に、薬剤の数量を誤るなど、医療事故につながる恐れがある事例が175件あったことがこのほど、日本医療機能評価機構の調査で分かった。機構が初めて、薬局の[ヒヤリ・ハット事例]をまとめた調査結果をホームページで公表したほか、都道府県など自治体に送付し、薬局への周知を要望。「薬局の職員らで情報を共有し、医療の安全推進に役立ててもらいたい」としている。6月までに徳島県を除く、46都道府県の906薬局が情報収集事業に登録した。集計によると、175件のうち166件が調剤に関するものだった。うち最も多かったのは、錠剤などの数を誤って患者に渡すなどした「数量間違い」で46件だった。〈沖縄タイムス朝刊〉

 ところで。
 某所大型スーパーの表にこんな掲示を見た。
 [薬はじめました]
 一瞬、ドキッとした。社会に蔓延している薬ではないクスリを売り始めたのかと、あらぬ思考をしてしまったのだ。もちろんスーパーとしては栄養ドリンク、胃腸薬、目薬、傷薬などなどの他に包帯、マスクなどの「ドラッグコーナーを設けました」という案内なのは言うまでもない。ノリピーたら称するものや押尾学たらなど、反社会的芸能人のクスリ所持、使用による逮捕ニュースに、すっかり毒されてしまっている自分に気づき「クスリッ」と、笑うしかなかった。

   
 
 慣用語を拾ってみる。
 薬より養生=健康には薬を飲むより、普段の養生、健康管理が大切であるということ。
 薬が効き過ぎる=効き目が強すぎる。このことから、よかれと思ってした説教が、逆に相手を追い込むことになったときなどに使うことば。
 日本には「薬喰い」という言葉があって非常に寒い日など、躰を温めるためにイノシシやシカなどの獣肉を食する風習があるそうな。沖縄的には「耳薬=みみぐすゐ」なる言葉があり、いい響きを発して使われている。人さまとの語らいや講演などで、いい話を聞いた場合、また、すばらしい歌三線・音楽を聴いたときは「耳薬なたん=耳の薬になった。耳を通して心にしみた」として、感動を表している。
 このようにして薬はいろいろな使い方があるものだが、薬は薬でも狂歌に出てくる薬は深刻である。

 symbol7好かん刀自起くち ムヌ食まなゆいか にじてぃ寝んじゅしどぅ 腹ぬ薬
 〈しかんトゥジ うくち ムヌかまな ゆいか にじてぃ にんじゅしどぅ わたぬ くすゐ〉

 倦怠期どころかすっかり冷め切った夫婦。夫が夜遅くまで働いて帰宅しても、妻は本寝か狸寝入りか、起き出す気配さえない。夫は思う。愛の欠片もなくなった妻を起こして食事をとるよりは、空腹でも我慢して睡眠をとったほうが、腹の薬というものサ~《ため息》
 思い当たる御仁は・・・・いないか。