旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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みかん・かまぼこ・秋の風

2007-11-15 12:16:18 | ノンジャンル
★連載NO.314

 「真夏日」という気象用語は、全国の平均気温で決めたらしいが、沖縄には当てはまらないようだ。
 平成19年も11月半ばを過ぎて、街のクリスマスツリーに光の花が咲き始めたというのに、気温は25度をキープ、街中を半袖姿が歩いている。とは言っても朝夕は確かな手応えで(寒さ)ではない(肌に快い)北風を楽しむことができる。
 味覚の秋。
 沖縄本島北部・本部町伊豆味<もとぶちょう いずみ>では、恒例の「みかん狩り」が始まった。夏場に実った温州みかんとカーブチー<在来の早稲種>は、そろそろ役目を終えるが、代わって登場しているのがオートー<在来種>である。

 ひところまでオートーは、普通に農家の庭先に植えられていた。11月、12月が食べごろだが、まだ青い9月、10月の実は、酸味を効かす料理用として古くから重宝してきた。台風にも害虫にも強く、しかるべくして沖縄に根づいているのだ。緑と黄色がかって熟したそれは、人間ばかりではなくガラサー<からす>など野鳥も好物。日ごろは森や山の端でしか見られないガラサーやスーサー<ひよどり>たち、野鳥の行動を庭先でじっくり観察したのもオートーの木の下であった。
 地元情報によれば、今年のオートーは台風被害が少なく独特の甘さが増して豊作ということだ。さらに、本部町の八重岳に寒緋桜が咲き始める1月初旬、食べごろになるのがタンカンだ。
 タンカンは、中国を原産地とする柑橘類の1種。ポンカンとオレンジの自然交配で生まれたとしている。「タンカン」の名称には、それらしい説がある。
 昔、中国の最南部で収穫されたミカンを行商人たちが、短い桶に入れて担ぎ、各地方に売り歩いていたことから「短い桶に入ったミカン」・短い桶「短桶=たんかん」と呼ばれるようになったという。「短拑」とも記されるそうな。「拑」には「はさむ。はさんでもつ」の語意がある。
 国内では沖縄、奄美大島、屋久島が主な産地。栽培には昼と夜の温度差が重要で、その差があまりない南西諸島が最適なのだろう。糖度が高く甘味濃厚。後味清涼。普通のミカンの2倍ものビタミンCが含まれている。2月まで楽しめるとあって、沖縄正月<うちなぁ そうぐぁち。旧正。平成20年は2月7日>の来客のもてなしには欠かせない。

タンカン

 この時期の山の幸をミカンとするならば、海の幸に「かまぼこ」がある。
 海人<うみんちゅ。漁業を生業とする人>の町・沖縄南部の糸満市では、11月17日土曜日「いとまん海人かまぼこフェア」を開催。市内11の製造業者が出店。冠婚葬祭に用いる伝統的な赤いかまぼこ・白いかまぼこ。グンボー<ごぼう>、チデークニー<黄大根・にんじん>を魚のすり身でこねて揚げた庶民的なチキアギー<付け揚げ>やクーガ<卵>を合わせたカシティラーかまぶく<菓子のカステラ様>。それに新しく造り出した「かき揚げかまぼこ」「てんぷらかまぼこ」などを売り出している。いずれも、本土のそれとは異なり、板に乗ってないのが沖縄かまぼこの特徴だ。そして、私的に好物の「くがに丸・黄金丸」と命名したそれもある。テニスボール大のくがに丸は、白飯・寿司飯・炊き込み飯をかまぼこで包んだものや、細かく切った野菜と卵を中身としている。20年余前ごろ那覇の公設市場に姿を現した同様なものは形からして、その名も「爆弾」と称し、ピクニックや寄り合いや運動会にも重宝されている。

かまぼこ


バクダンおにぎり

 1昨年だったが、友人と糸満市内での用件をすませて「かまぼこ屋」に立ち寄り、チキアギーとカシティラーかまぼこを家人へのチトゥ<つと。みやげ>に買ったことだが、家に着いたときは、チキアギー2枚がなくなっていた。車中の世間ばなしの合間にちぎっては口に運んでいたのである。チキアギーは包丁を入れるよりも、手でちぎって食した方がよりうまい。

 せっかくの味覚の秋に水をさすようだが・・・・。
昭和22年<1947>10月31日。琉球軍政府情報部は、つぎのような発表をしている。
 「米国は、日本や沖縄を含むアジア諸国及びヨーロッパ諸国の飢餓国民に食料を供給するため、穀物や油類等の節約運動を実施する。米軍人も沖縄人も協力するように。このことについてトルーマン大統領は、全米国民に対し要望事項を発している。◇火曜日を肉なしデーとすること。◇水曜日を鶏肉、卵なしデーとすること。◇毎日、パン1枚を節約すること。◇レストランでは、バター付パンは、客の要望があった場合のみ出すこと」

 みかん、かまぼこが食せる日々はしあわせだ。勝戦・敗戦にかかわらず戦争のあとにくるものは飢餓である。
 ・・・・ちょっとセンチな締めくくりになった。これも、秋の風のせいだろう。

次号は2007年11月22日発刊です!

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