昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(222)第25回読書ミーティング(4)

2017-10-25 04:19:12 | 三鷹通信
  「カズオ・イシグロの作品」(3)
 「忘れられた巨人」
  
 時代は、ブリトン人を率いてサクソン人の侵攻を撃退した伝説の人「アーサー王」が亡くなってから少し経つ、5~6世紀のことで、舞台はブリテン島である。
  
 物忘れの霧と噂される奇妙な霧がその島を覆いつくしていた。
 その霧は雌竜が吐く息らしく、その霧のせいで島の人々は過去のことを断片的にしか覚えていなかったり、思い出せないでいた。
 ブリトン人の老夫婦アクセルとベアトリクスも例外ではなかった。
 なぜ息子が出て行ってしまったのか、どこで暮らしているのかもよく思い出せないまま息子を訪ねる旅に出る。
 途中、サクソン人の若い戦士や竜退治を唱えるアーサー王の老騎士、高徳の僧・・・様々な人に出会い、時には命の危機にさらされながらも老夫婦は互いを気づかい進んでいく。
 最後に霧が晴れ、記憶が蘇り、ベアトリクスが不実な行いをした過去が明かされ、その影響で息子は家を出て、その後流行病ですでに亡くなっていることも明かされる。
 最後は、これは老夫婦の死への旅路だったことを暗示して物語は終わる。

 <産経新聞の書評>
「どんな国の歴史にも光り輝く思い出と一緒に、<忘れ去られた巨人>が埋まっている。日本も含めて世界各地で、いま巨人が動き出しているのではないか。現実と重ねずにはいられない生々しいことがある」

 *「カズオ・イシグロ作品の名翻訳家・土屋政雄」
  <日の名残り>、<わたしを離さないで>。そして<忘れられた巨人>は土屋政雄の名訳と言われている。
  彼がイシグロ作品に出合ったのには意外なエピソードがあった。
   
 (講演会でのイシグロ氏と土屋氏)
  1989年、土屋さんは知人のパーティーの福引で偶然フィンランド旅行の機会を得た。
  そのフィンランドで、当時の日本では手に入らなかった無修正の<PLAYBOY>を買い求めようとして・・・、最後の瞬間に恥ずかしくなって、思わず隣にならんでいた<NewsWeek>を買ってしまった。たまたまその号の書評に<日の名残り>が載っていたんです。その書評を読んで、私もいつかはこういう本を翻訳してみたいなと思いましたね。・・・旅行から帰って数日後、中央公論社からそのオファーの電話があったときは、何か運命的なものを感じました。・・・たまたま予定していた飛田茂雄さんの都合が悪くて自分にまわってきたというわけで・・・」

 ・・・土屋さんの翻訳文はすっと頭の中に日本語が入り、情景がうかんでくるキレイな文章である。・・・