昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

なるほど!と思う日々(497)カズオ・イシグロ「記憶こそ死に対する勝利」

2017-10-10 03:31:36 | なるほどと思う日々
 今年のノーベル文学賞はイギリスのカズオ・イシグロが受賞した。
 
 期待した村上春樹ではなかったが、日本で生まれた作家ということで大きなニュースになった。
 
 恥ずかしながら、ボクの全く知らない作家だ。
 早速朝一番で図書館に向かった。案の定、彼の棚は空っぽだった。
 で、彼に関わりのありそうな資料を探した。

 受賞理由は「感情に強く訴える小説で、世界とつながっているという我々の幻想の下に隠された闇を明るみに出した」とある。
 「人間が意思を通わせることの難しさや記憶の不確かさを浮き彫りにする作品」という評価もあった。         
 なかでも、生物学者、福岡伸一が評価している内容に惹かれた。
 福岡は「複製の概念が命の本質を押しつぶそうとする戦慄の小説」という書評に惹かれて読んだ『わたしを離さないで』を採り上げている。
 
「ここでは生命操作の問題を取り上げているが、近代科学のことを批判することではなく、他のイシグロ作品と同様、ここで扱われるのは<記憶>の問題です」
 そして生物学者らしく解説している。
「私たちの体を構成する分子は絶え間なく入れ替わっています。私たちの自己同一性を担保するものは、少なくとも物質レベルでは何一つありません」
「では、何がアイデンティティとして私たちを支え、私を私たらしめるのか。それが<記憶>だとはいえないでしょうか」
 
「もちろん<記憶>も時間とともに変化します。私たちの体が最終的にはエントロピー増大の法則に屈し、崩壊せざるを得ないように、<記憶>も儚いものです。そのつど更新され、変容していきます。けれど、人が亡くなったとき、その<記憶>はちりじりになって別の人々の<記憶>のなかに宿り、時を超えて生き続けていくことが出来る・・・」
「<記憶>も、過去と現在、人と人、人と場所や物の間に生じる関係性です」
「その不確かさにもかかわらず、ときには何にも増してそれが人を支えるということを、イシグロは巧みに物語にしてみせるのです」
 ・・・なるほど!・・・

 福岡は日本でイシグロと面会したことがあるそうです。
「<記憶>を問う私に、イシグロは、この小説を執筆中にジョージ・ガーシュインの曲を思い出したことを話してくれました」
 
 ・・・誰もそれを私から奪い去ることはできない・・・
「そしてこう言ったのです。<記憶>は、<死>に対する部分的な勝利なのです」

 <好奇心コーナー>
 
 
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 課題はいろいろとありそうだが・・・。