昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

言葉(30)時間

2016-04-22 05:41:03 | 言葉
 風薫る季節となりました。
 みなさまにはいかがお過ごしでしょうか。
 桜の季節もあっという間に終わり、今は爽やかなハナミズキがピンクや白の花を咲かせています。
 
        

「いかがお過ごしですか」いいことばではないか。
 私たちも万物も時間に寄生している。
 
 時間は、宇宙のはじまる以前からある。宇宙の滅亡後もつづく。
 でありながら、時間は、それ自体として目にも見えず、手にもとれない。そのくせ、すべてを支配し、すべてに命令し、すべての生殺与奪する。・・・
 なにげない慣用句だが、じつに哲学的である。
 考えようによっては、これ以上に宗教的な言いまわしもない。
 真理としての人の生を、ただ一行で言いあらわし、しかも見えざるものへの感謝がこめられている。
 万巻の経巻よりも、仏教の心理はこの一行で尽くされているではないか。
 上のあいさつことばをくどく国語解釈すると、「時間は絶対の権力者です」ということからはじめなければならないだろう。
「私どもおたがい、その大いなるものから、わずかな時間を借り、身をゆだねて生きています」という意味が入っている。
 ・・・「同じく時に寄生しているあなたさまもこのおよろこびを感じて下さることと存じます」・・・
 ついでながら、日本人が時間を感じた例として、壮大な表現がある。
 九世紀、死を前にした空海が、人類への自分の素願はながく尽きない、という意味のことを、次のように表現した。
 
「虚空尽キ、衆生ツキ、涅槃尽キナバ、我が願いも尽キナン」
 
 言葉の響きがいい。
 大意は、宇宙が尽き、人類も死に絶え、真理もなくなるほどの未来になれば、自分の役割も終わる。
 それまでは自分の思想は真理でありつづける、ということである。
 以上は日本人が「いかがお過ごしですか」と互いに言い合っていることの背景である。
 (司馬遼太郎「風塵抄」)より。


 こういう言葉が身に沁みる歳になりました。



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