トマトは夏のもの、そりゃ誰だって知ってる。あっ、もしかすると都会の若い奴らわかってないかもな。いつだって売ってるからね、スーパー行けば。サラダって言えばトマト、とんかつ定食ならトマト、やっぱりあの際立つ真っ赤、食卓に華やぎをもたらすからね。
でも、お味の方は、いつ食っても同じってわけじゃない。季節外れのトマトなんか、彩りが狙い、これ飾りでしょのパセリと同様、添え物の立ち位置にまで貶められている。味薄いし、酸っぱいし。まっ、栄養はありそうだから、我慢して食べようか、的な。だから、トマト嫌い!って人、少なくない。
そんな人には夏場のトマト、それも完熟したもぎたてを味わってごらんって言いたいね。妖艶とさえいえる色合い、濃厚な旨み、トマトの常識がひっくり返るはずた。だいたいスーパーに出ている完熟てのは、もいでから何日か置いて追熟させたものだから、色は濃くなっても味の方はそれに伴わないんだ。やっぱねぇ、もぎたてなんだよ。樹上完熟なんだよ。で、それを食べられるのは、自分で作ってる人だけってこと。家庭菜園がブームになるのも当然すぎる。
トマトは雨に弱い、露地栽培だとどうしても病気が出て長く収穫ができない。地這いの加工トマトは別だけど。それは結構知れ渡ってきていて、家庭菜園派でも、簡易のビニール屋根なんかかけて作っている人が多い。横から雨風は吹き込むが、ないよりははるかにましだ。我が家はイネの育苗ハウスがそのままトマト用に移行する。雨が当たらない分、散水チューブで時折水やりをして育てている。
さて、夏も終わりともなれば、食べる側の興味も離れ、それを知ってかトマトも元気を失っていく。いつしか水やりも忘れ、ついには完全な放っぽらかし状態にまで堕落する。そんな遊び飽きたゲーム機同様のつれない仕打ちを受けつつも、トマトは最後まで命の営みを忘れない。そして、その最後の営為は、最高に糖度の乗った完全完熟完璧トマトとなって輝く。そうなんだ、この時期のトマトの甘さは、もう最高級スイーツの域に達しているのだ。めげずに実らせたなけなしの果実たち。
そのつやつやとした表情が、誇らしげに誘ってくる。籠に盛られたミニトマトたち、そのそばを通るたび摘まんでは、その都度驚き感嘆する。そして、密かにほくそ笑むのだ。ふふふ、こんなに美味いトマトの秘密、知っているのは、自ら作る人間だけなんだよなってね。
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