ステージおきたま

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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

やっぱ井上ひさしは凄い!『馬喰八十八伝』

2013-08-19 07:48:02 | 本と雑誌
 年金生活者となって、新刊本とはほぼ縁が切れた。台本書きの資料はアマゾンの中古書店で探し、時間つぶし本はブックオフ、ちょっとわびしいが、まっ、それが分相応ということだろう。だって、こっちだって中古品、賞味期限切れなわけだから。古本利用は出版業界や著者に痛手って部分もあるけど、これまで大量に新刊本買い続けてきたから、そろそろ勘弁してもらってもいいだろう。

 さて、今回ブックオフで手に入れたのは、横山秀夫『半落ち』、三崎亜紀『失われた町』、パトリシア・コードウェル『検屍官』、そして井上ひさしさんの『馬喰八十八伝』の四冊。共通項は、価格105円(消費税込み)ってことだ。もちろん、以前から気になっていた本達なので、えっ!いいのこの値段で!って驚きつつもありがたく買い求めてきた。

 で、井上さんの『馬喰八十八伝』だ。実はこんな本を書いているってことも知らなかった。だから、100円コーナーで見つけた時は、おっ!もうけっ!って気持ちと、はぁ、ちょっと二、三流の本なのかな?なんて失礼な感想を持ってしまった。本を開けば、週間朝日に連載したものだって書いてあるし、やっぱなぁ、気楽に書き流した評価の低い作品なんだぁ、なんて先入観を持って読み始めた。

 ところがどっこい!これがなかなか凄い!井上さんのエッセンスがぎっちり詰まった興味深い本だった。一気に引き込まれた。話しは、馬の種付けを生業とする若者が、なけなしの種牡馬をだまし取られた上に、訴え出た代官からは棒叩きの刑にされる。88回叩かれた時、一気に開き直って、己の得意技:嘘で世の中渡り通してやると決意、口から出任せの嘘で悪者たちを翻弄し、ついには領地の殿様とも対決するってなんとも痛快な嘘八百いや、嘘八十八!本だ。

 まず、この嘘が凄い!読み手にまったく先を読ませぬ奇想天外な秘策が次から次とあふれ出てくる。物語の面白さここにありと言う感じで読者を引きずり込む。30町歩もの田んぼに一枚の小判を埋めて、欲に駆られた悪党どもに全面掘り起こさせて、遅れていた田の粗起こしをさせるとか、簀巻きにされてあわや放り込まれんとした河童淵で、願掛けて飛び込めば盲目が治ると巧みに騙し窮地を脱するとか、まあまあ、よくぞこんな出任せを考えつくものだと、ほとほと感心ししてしまう。

 次に楽しいのが、井上さん特有の蘊蓄だ。嘘についての禅問答やら哲学談義、馬や馬捕らえに関する珍知識、など盛りだくさんだ。これが井上さんのちょっとうっとおしい部分でもあるのだけど、今回は何故か鼻面を引き回してもらって心地よかった。

 さらに、ストーリーの緻密さ。悪徳名主、代官、大泥棒、殿様との対決も、かみ合い、もつれ合い、絡み合いつつすべてがきっちり完結する見事さ、!これぞストーリーテラーの面目躍如だなぁ。それと、井上さんのスケベ心も満載!あまりにあけすけなのでエロなんか通り越して人間賛歌にさえ感じてしまう。

 そして、衝撃のラストシーン!なんて映画の売り口上みたいだが、これがなんとも凄い!なんせ主人公を含め100人近くが生き埋めの上のこぎり引きの刑で果てる!ってんだから。最期の最期まで、いや、なんとか得意の口先八丁で絶体絶命を逃れるんだよね、思いかげないハッピーエンド、用意されてるんだよね、ってほとんど祈る気持ちで読んで行ったが、・・・・井上さんのもう一つの顔がくっきりと顔を出している。痛め続けられる人々、負け続ける民衆。『十一匹のネコ』もそうだった。希望はない。苦心惨憺の果てに待ち受けるのは絶望!こんに闇を抱えつつ、抱腹絶倒の物語を紡ぎ続けたんだ、井上さん。





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