止遠末利以川末幾仁安多留未幾
とをまりいつまきにあたるまき
巻十五
己比乃宇多以川々
恋哥五
恋哥五
歌番号七四七
己天宇乃幾左以乃美也乃仁之乃太以尓寸美个留比止仁本以尓者安良天毛乃以比
五条のきさいの宮のにしのたいにすみける人にほいにはあらてものいひ
五条妃宮の西の対に住みける人に本意にはあらで物言い
和多利个留遠武川幾乃止遠可安万利尓奈武保可部加久礼尓个留安利
わたりけるをむつきのとをかあまりになむほかへかくれにけるあり
わたりけるを正月の十日あまりになむ他へ隠れにけるあり
止己呂八幾々个礼止衣毛乃毛以者天万多乃止之乃者留武女乃者那左可利尓
所はきゝけれとえ物もいはて又のとしのはるむめの花さかりに
所は聞きけれどえ物も謂はでまたの年の春梅の花盛りに
川幾乃於毛之呂可利个留与己曽遠己飛天加乃尓之乃多以尓以幾天川幾乃
月のおもしろかりける夜こそをこひてかのにしのたいにいきて月の
月のおもしろかりける夜こそを恋ひてかの西の対に行きて月の
可多不久末天安者良奈留以多之幾尓布世利天与女留
かたふくまてあはらなるいたしきにふせりてよめる
傾くまで露わなる板敷に臥せりて詠める
安利八良乃奈利比良安曽无
在原業平朝臣
在原業平朝臣
原文 川幾也安良奴者留也武可之乃者留奈良奴和可三飛止川者毛止乃三尓之天
定家 月やあらぬ春や昔の春ならぬわか身ひとつはもとの身にして
解釈 月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つは本の身にして
歌番号七四八
多以之良寸
題しらす
題知らず
布知八良乃奈可比良乃安曽无
藤原なかひらの朝臣
藤原仲平朝臣
原文 者那寸々幾和礼己曽志多尓於毛日之可保尓以天々比止尓武寸八礼尓个利
定家 花すゝき我こそしたに思しかほにいてゝ人にむすはれにけり
解釈 花薄我こそ下に思ひしか穂に出でて人に結ばれにけり
歌番号七四九
布知八良乃加祢寸計乃安曽无
藤原かねすけの朝臣
藤原兼輔朝臣
原文 与曽尓能美幾可万之毛乃遠々止者加者和多留止奈之尓見奈礼曽女个武
定家 よそにのみきかまし物をゝとは河渡となしに見なれそめけむ
解釈 よそにのみ聞かましものを音羽河渡るとなしに身なれそめけむ
歌番号七五〇
於保可宇知乃美川子
凡河内みつね
凡河内躬恒
原文 和可己止久和礼遠於毛者武比止毛可奈佐天毛也宇幾止世遠己々呂美無
定家 わかことく我をおもはむ人も哉さてもやうきと世を心見む
解釈 我がごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと世を心見む
歌番号七五一
毛止可多
もとかた
在原元方
原文 比左可多乃安末川曽良尓毛寸万奈久尓比止者与曽尓曽於毛不部良奈留
定家 久方のあまつそらにもすまなくに人はよそにそ思へらなる
解釈 久方の天つ空にも住まなくに人はよそにぞ思ふべらなる
歌番号七五二
与美比止之良寸
よみひとしらす
詠み人知らず
原文 美天毛万多万多毛美末久乃保之个礼者奈留々遠比止者以止不部良奈利
定家 見ても又またも見まくのほしけれはなるゝを人はいとふへら也
解釈 見ても又またも見まくの欲しければなるるを人は厭ふべらなり
歌番号七五三
幾乃止毛乃利
きのとものり
紀友則
原文 久毛毛奈久奈幾多留安左乃和礼奈礼也以止者礼天乃美世遠者部奴良武
定家 雲もなくなきたるあさの我なれやいとはれてのみ世をはへぬらむ
解釈 雲もなく凪ぎたる朝の我なれや厭はれてのみ世をば経ぬらむ
歌番号七五四
与美比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 者那可多美女奈良不比止乃安万多安礼者和寸良礼奴良武加寸奈良奴三八
定家 花かたみめならふ人のあまたあれはわすられぬ覧かすならぬ身は
解釈 花がたみめならぶ人のあまたあれば忘られぬらん数ならぬ身は
歌番号七五五
原文 宇幾女能美於比天流留宇良奈礼者加利尓乃美己曽安万者与留良女
定家 うきめのみおひて流る浦なれはかりにのみこそあまはよるらめ
解釈 浮きめのみ生ひて流るる浦なれば刈りにのみこそ海人は寄るらめ
歌番号七五六
以世
伊勢
伊勢
原文 安比尓安日天毛乃毛不己呂乃和可曽天尓也止留川幾左部奴留々可本奈留
定家 あひにあひて物思ころのわか袖にやとる月さへぬるゝかほなる
解釈 逢ひに逢ひて物思ふころの我が袖に宿る月さへ濡るる顔なる
歌番号七五七
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 安幾奈良天遠久之良川由者祢左女寸留和可多末久良乃之川久奈利个利
定家 秋ならてをく白露はねさめするわかた枕のしつくなりけり
解釈 秋ならで置く白露は寝覚めする我が手枕の滴なりけり
歌番号七五八
原文 寸万乃安万乃志本也幾己呂毛於左遠安良美末止遠尓安礼也幾三可幾万左奴
定家 すまのあまのしほやき衣おさをあらみまとをにあれや君かきまさぬ
解釈 須磨の海人の塩焼き衣をさを粗み間遠にあれや君が来まさぬ
歌番号七五九
原文 夜万之呂乃与止乃和可己毛加利尓多尓己奴比止多乃武和礼曽者可奈幾
定家 山しろのよとのわかこもかりにたにこぬ人たのむ我そはかなき
解釈 山城の淀の若菰刈りにだに来ぬ人頼む我ぞはかなき
歌番号七六〇
原文 安飛美祢者己比己曽万左礼美奈世加者奈尓々布可女天於毛日曽女个武
定家 あひ見ねはこひこそまされみなせ河なにゝふかめて思そめけむ
解釈 あひ見ねば恋こそまされ水無瀬川何に深めて思ひそめけむ
歌番号七六一
原文 安可川幾乃志幾乃者祢可幾毛々者可幾幾三可己奴与者和礼曽可寸可久
定家 暁のしきのはねかきもゝはかき君かこぬ夜は我そかすかく
解釈 暁の鴫の羽がき百羽がき君が来ぬ夜は我ぞかずかく
歌番号七六二
原文 多万加川良以万者堂由止也布久可世乃遠止尓毛比止乃幾己衣左留良武
定家 玉かつら今はたゆとや吹風のをとにも人のきこえさる覧
解釈 玉かづら今は絶ゆとや吹く風の音にも人の聞こえざるらん
歌番号七六三
原文 和可曽天尓末多幾志久礼乃布利奴留者幾三可己々呂尓安幾也幾奴良武
定家 わか袖にまたき時雨のふりぬるは君か心に秋やきぬらむ
解釈 我が袖にまだき時雨の降りぬるは君が心に秋や来ぬらむ
歌番号七六四
原文 夜万乃井乃浅幾己々呂毛於毛者奴尓可計者可利乃美比止乃美由良無
定家 山の井の浅き心もおもはぬに影許のみ人の見ゆらむ
解釈 山の井の浅き心も思はぬを影ばかりのみ人の見ゆらむ
歌番号七六五
原文 和寸礼久左堂祢止良万之遠安不己止能以止可久可多幾毛乃止之利世八
定家 忘草たねとらましを逢事のいとかくかたき物としりせは
解釈 忘草種採らましを逢ふことのいとかくかたき物と知りせば
歌番号七六六
原文 己布礼止毛安不与乃奈幾者和寸礼久左由女地尓左部也於日志个留良武
定家 こふれ鞆逢夜のなきは忘草夢ちにさへやおひしける覧
解釈 恋ふれども逢ふ夜のなきは忘草夢路にさへや生ひ茂るらむ
歌番号七六七
原文 由女尓多仁安不己止可多久奈利由久者和礼也以遠祢奴比止也和寸留々
定家 夢にたにあふ事かたくなりゆくは我やいをねぬ人やわするゝ
解釈 夢にだに逢ふことかたくなりゆくは我や寝を寝ぬ人や忘るる
歌番号七六八
遣武計以保宇之
けむけい法し
兼芸法師
原文 毛呂己之毛由女尓美之可八知可々利幾於毛者奴奈可曽者留个可利遣留
定家 もろこしも夢に見しかはちかゝりきおもはぬ中そはるけかりける
解釈 唐土も夢に見しかば近かりき思はぬ仲ぞはるけかりける
歌番号七六九
佐多乃々保留
さたのゝほる
貞登
原文 飛止利能美奈可免布留也乃川万奈礼者比止遠志乃日乃久左曽於日个留
定家 独のみなかめふるやのつまなれは人を忍の草そおひける
解釈 一人のみながめ古屋のつまなれば人を忍の草ぞ生ひける
歌番号七七〇
曽宇志也宇部无世宇
僧正へんせう
僧正遍照
原文 和可也止者美知毛奈幾万天安礼尓个利川礼奈幾比止遠末川止世之万尓
定家 わかやとは道もなきまてあれにけりつれなき人を松とせしまに
解釈 我が宿は道もなきまで荒れにけりつれなき人を待つとせしまに
歌番号七七一
原文 以万己武止以飛天和可礼之安之多与利於毛日久良之乃祢遠乃美曽奈久
定家 今こむといひてわかれし朝より思ひくらしのねをのみそなく
解釈 今来むと言ひて別れし朝より思ひ暮らしの音をのみぞ泣く
歌番号七七二
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 己免也止者於毛不毛乃可良飛久良之乃奈久由不久礼八多知万多礼川々
定家 こめやとは思物からひくらしのなくゆふくれはたちまたれつゝ
解釈 来めやとは思ふものからひぐらしの鳴く夕暮れは立ち待たれつつ
歌番号七七三
原文 以万之波止和比尓之毛乃遠佐々可尓乃己呂毛尓可々利和礼遠多乃武留
定家 今しはとわひにし物をさゝかにの衣にかゝり我をたのむる
解釈 今しはと侘びにしものをささがにの衣にかかり我を頼むる
歌番号七七四
原文 以末者己之止於毛不毛乃可良和寸礼川々末多留々己止乃万多毛也万奴可
定家 いまはこしと思物から忘つゝまたるゝ事のまたもやまぬか
解釈 今は来じと思ふものから忘れつつ待たるる事のまだもやまぬか
歌番号七七五
原文 川幾与尓者己奴比止末多留加幾久毛利安免毛不良奈武和日川々毛祢武
定家 月よにはこぬ人またるかきくもり雨もふらなむわひつゝもねむ
解釈 月夜には来ぬ人待たるかき曇り雨も降らなん侘びつつも寝む
歌番号七七六
原文 宇部天以尓之安幾堂可留万天美衣己祢者計左者川可利乃祢尓曽奈幾奴留
定家 うへていにし秋田かるまて見えこねはけさはつかりのねにそなきぬる
解釈 植ゑて往にし秋田刈るまで見え来ねば今朝初雁の音にぞ鳴きぬる
歌番号七七七
原文 己奴比止遠末川由不久礼乃安幾可世者以可尓布遣者可和日之可留良武
定家 こぬ人を松ゆふくれの秋風はいかにふけはかわひしかる覧
解釈 来ぬ人を待つ夕暮れの秋風はいかに吹けばか侘びしかるらむ
歌番号七七八
原文 飛左之久毛奈利尓个留可奈寸美乃衣乃末川者久留之幾毛乃尓曽安利个留
定家 ひさしくもなりにける哉すみのえの松はくるしき物にそありける
解釈 久しくもなりにけるかな住の江の松は苦しき物にぞありける
歌番号七七九
加祢三乃於保幾三
かねみのおほきみ
兼覧王
原文 寸三乃衣乃末川本止比左二奈利奴礼者安之多川乃祢二奈可奴比八奈之
定家 住の江の松ほとひさになりぬれはあしたつのねになかぬ日はなし
解釈 住の江の松ほど久になりぬれば葦田鶴の音に鳴かぬ日はなし
歌番号七八〇
奈可比良安曽无安飛之里天者部利个留遠加礼可多尓奈利尓个礼者
仲平朝臣あひしりて侍けるをかれ方になりにけれは
仲平朝臣相知りて侍けるを枯れ方になりにければ
知々可也万止乃可美尓者部利个留毛止部万可留止天与美天徒可八之个留
ちゝかやまとのかみに侍けるもとへまかるとてよみてつかはしける
父が大和守に侍ける許へ罷るとて詠みて遣はしける
以世
伊勢
伊勢
原文 三和乃夜万以可尓万知美武止之布止毛堂川奴留比止毛安良之止於毛部八
定家 みわの山いかにまち見む年ふともたつぬる人もあらしと思へは
解釈 三輪の山いかに待ち見む年経とも尋ぬる人もあらじと思へば
歌番号七八一
多以之良寸
題しらす
題知らず
宇里武為无乃美己
雲林院のみこ
雲林院親王
原文 布幾万与不乃可世遠左武美安幾者幾乃宇川利毛由久可比止乃己々呂乃
定家 吹まよふ野風をさむみ秋はきのうつりも行か人の心の
解釈 吹きまよふ野風を寒み秋萩の移りも行くか人の心の
歌番号七八二
遠乃々己万知
をのゝこまち
小野小町
原文 以万者止天和可三志久礼尓布利奴礼者己止乃波左部尓宇川呂日尓个利
定家 今はとてわか身時雨にふりぬれは事のはさへにうつろひにけり
解釈 今はとて我が身時雨に古りぬれば言の葉さへに移ろひにけり
歌番号七八三
可部之
返し
返し
遠乃々左多幾
小野さたき
小野貞樹
原文 比止遠於毛不己々呂乃己乃波尓安良八己曽可世乃末尓/\知利毛美多礼女
定家 人を思心のこのはにあらはこそ風のまに/\ちりもみたれめ
解釈 人を思ふ心の木の葉にあらばこそ風のまにまに散りも乱れめ
歌番号七八四
奈利比良安曽无幾乃安利川祢可武寸女尓寸美个留遠宇良武留己止安利天
業平朝臣きのありつねかむすめにすみけるをうらむることありて
業平朝臣紀有常か女に住みけるを恨むることありて
志八之乃安日多飛留八幾天由不左利者加部利乃美之个礼八与美天川可八之个留
しはしのあひたひるはきてゆふさりはかへりのみしけれはよみてつかはしける
しばしの間昼は来て夕さりは帰へりのみしければ詠みて遣はしける
原文 安満久毛乃与曽尓毛比止乃奈利由久可佐寸可尓女尓八美由留毛乃可良
定家 あま雲のよそにも人のなりゆくかさすかにめには見ゆる物から
解釈 天雲のよそにも人のなり行くかさすがに目には見ゆるものから
歌番号七八五
可部之
返し
返し
奈利比良乃安曽无
なりひらの朝臣
業平朝臣
原文 由幾可部利曽良尓乃美之天布留己止者和可為留夜万乃可世者也三奈利
定家 ゆきかへりそらにのみしてふる事はわかゐる山の風はやみなり
解釈 行き帰り空にのみして経ることは我が居る山の風早みなり
歌番号七八六
多以之良寸
題しらす
題知らず
加計乃利乃於保幾三
かけのりのおほきみ
景式王
原文 加良己呂毛奈礼者三尓己曽万川八礼女加計天乃美也八己比武止於毛日之
定家 唐衣なれは身にこそまつはれめかけてのみやはこひむと思し
解釈 唐衣なれば身にこそまつはれめかけてのみやは恋ひむと思ひし
歌番号七八七
止毛乃利
とものり
紀友則
原文 安幾可世者三遠和遣天之毛布可奈久尓比止乃己々呂乃曽良尓奈留良武
定家 秋風は身をわけてしもふかなくに人の心のそらになるらむ
解釈 秋風は身を分けてしも吹かなくに人の心の空になるらむ
歌番号七八八
美奈毛堂乃武祢由幾安曽无
源宗于朝臣
源宗于朝臣
原文 徒礼毛祢久奈利由久比止乃己止乃者曽安幾与利左幾乃毛三知奈利个留
定家 つれもなくなりゆく人の事のはそ秋よりさきのもみちなりける
解釈 つれもなくなりゆく人の言の葉ぞ秋より先の紅葉なりける
歌番号七八九
己々知曽己奈部利个留己呂安比之利天者部利个留比止乃止八天己々知
心地そこなへりけるころあひしりて侍ける人のとはてこゝち
心地損なへりけるころ相知りて侍ける人の問はで心地
遠己多利天乃知止不良部利个礼八与美天徒可者之个留
をこたりてのちとふらへりけれはよみてつかはしける
怠りて後問ふらへりければ詠みて遣はしける
川者毛乃々止祢利
兵衛
兵衛
原文 志天乃夜万布毛止遠美天曽加部利尓之徒良幾比止与利万川己衣之止天
定家 しての山ふもとを見てそかへりにしつらき人よりまつこえしとて
解釈 死出の山麓を見てぞ帰りにしつらき人よりまづ越えじとて
歌番号七九〇
安比之礼利个留比止乃也宇也久加礼可多尓奈利个留安飛多尓
あひしれりける人のやうやくかれかたになりけるあひたに
相知れりける人のやうやく離れ方になりける間に
也計多留知乃者尓布美遠左之天川可八世利个留
やけたるちのはにふみをさしてつかはせりける
焼けたる茅の葉に文を刺して遣はせりける
己万知可安祢
こまちかあね
小野小町姉
原文 止幾寸幾天可礼由久遠乃々安左地尓八以万者於毛日曽多衣寸毛衣个留
定家 時すきてかれゆくをのゝあさちには今は思ひそたえすもえける
解釈 時過ぎて離れゆく小野の浅茅には今は思ひぞ絶えず燃えける
歌番号七九一
毛乃於毛日个累己呂毛乃部万可利个留美知尓乃比乃毛衣个留遠美天与女留
物おもひけるころものへまかりけるみちに野火のもえけるを見てよめる
物思ひけるころ物へ参りける道に野火の燃えけるを見て詠める
以世
伊勢
伊勢
原文 布由可礼乃々部止和可三遠於毛日世八毛衣天毛者留遠万多万之毛乃遠
定家 冬かれのゝへとわか身を思ひせはもえても春をまたまし物を
解釈 冬枯れの野辺と我が身を思ひせば燃えても春を待たましものを
歌番号七九二
多以之良寸
題しらす
題知らず
止毛乃利
とものり
紀友則
原文 美川乃安和乃幾衣天宇幾三遠以比奈可良流天奈保毛多乃万留々可奈
定家 水のあわのきえてうき身といひなから流て猶もたのまるゝ哉
解釈 水の泡の消えで憂き身と言ひながら流れてなほも頼まるるかな
歌番号七九三
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 美奈世加者安利天由久美川奈久者己曽川為尓和可三遠多衣奴止於毛八女
定家 みなせ河有て行水なくはこそつゐにわか身をたえぬと思はめ
解釈 水無瀬川ありて行く水なくはこそつひに我が身を絶えぬと思はめ
歌番号七九四
美川祢
みつね
凡河内躬恒
原文 与之乃加者与之也比止己曽徒良可良女者也久以比天之己止八和寸礼之
定家 吉野河よしや人こそつらからめはやくいひてし事はわすれし
解釈 吉野川よしや人こそつらからめ早く言ひてし事は忘れじ
歌番号七九五
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 与乃奈可乃比止乃己々呂者者那曽女乃宇川呂日也寸幾以呂尓曽安利个留
定家 世中の人の心は花そめのうつろひやすき色にそありける
解釈 世の中の人の心は花染めの移ろひやすき色にぞありける
歌番号七九六
原文 己々呂己曽宇多天尓久个礼曽女左良八宇川呂不己止毛於之可良万之也
定家 心こそうたてにくけれそめさらはうつろふ事もおしからましや
解釈 心こそうたて憎けれ染めざらば移ろふ事も惜しからましや
歌番号七九七
遠乃々己万知
小野小町
原文 以呂美衣天宇川呂不毛乃八与乃奈可乃比止乃己々呂乃者那尓曽安利个留
定家 色見えてうつろふ物は世中の人の心の花にそ有ける
解釈 色見えで移ろふ物は世の中の人の心の花にぞありける
歌番号七九八
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 和礼能美也世遠宇久日寸止奈幾和日武比止乃己々呂乃者那止知利奈八
定家 我のみや世をうくひすとなきわひむ人の心の花とちりなは
解釈 我のみや世を鴬と鳴き侘びむ人の心の花と散りなば
歌番号七九九
曽世以保宇之
そせい法し
素性法師
原文 於毛不止毛加礼奈无比止遠以可々世武安可寸知利奴留者那止己曽美女
定家 思ふともかれ南人をいかゝせむあかすちりぬる花とこそ見め
解釈 思ふとも離れなむ人をいかがせむあかず散りぬる花とこそ見め
歌番号八〇〇
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 以万者止天幾三可々礼奈八和可也止乃者那遠者飛止利美天也之乃者武
定家 今はとて君かゝれなはわかやとの花をはひとり見てやしのはむ
解釈 今はとて君が離れなば我が宿の花をば一人見てや忍ばむ
歌番号八〇一
武祢由幾乃安曽无
むねゆきの朝臣
源宗于朝臣
原文 和寸礼久左加礼毛也寸留止川礼毛奈幾比止乃己々呂尓之毛八遠可奈無
定家 忘草かれもやするとつれもなき人の心にしもはをかなむ
解釈 忘草枯れもやするとつれもなき人の心に霜は置かなむ
歌番号八〇二
可无部以乃於保无止幾美飛也宇布尓宇多可々世多万部个留止幾与美天加幾个留
寛平御時御屏風に哥かゝせ給へける時よみてかきける
寛平御時御屏風に哥描かせ給へける時詠みて描きける
曽世以保宇之
そせい法し
素性法師
原文 和寸礼久左奈尓遠可多祢止於毛日之八川礼奈幾比止乃己々呂奈利个利
定家 忘草なにをかたねと思しはつれなき人の心なりけり
解釈 忘草何をか種と思ひしはつれなき人の心なりけり
歌番号八〇三
多以之良寸
題しらす
題知らず
原文 安幾乃多乃以祢天不己止毛加計奈久尓何遠宇之止可比止乃可留良武
定家 秋の田のいねてふ事もかけなくに何をうしとか人のかるらむ
解釈 秋の田の稲てふこともかけなくに何を憂しとか人の刈るらむ
歌番号八〇四
幾乃川良由幾
きのつらゆき
紀貫之
原文 者川可利乃奈幾己曽和多礼与乃奈可乃比止乃己々呂乃安幾之宇个礼八
定家 はつかりのなきこそわたれ世中の人の心の秋しうけれは
解釈 初雁の鳴きこそ渡れ世の中の人の心の秋し憂ければ
歌番号八〇五
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 安者礼止毛宇之止毛毛乃遠於毛不止幾奈止可奈美多乃以止奈可留良武
定家 あはれともうしとも物を思時なとか涙のいとなかるらむ
解釈 あはれとも憂しとも物を思ふ時などか涙のいと流るらん
歌番号八〇六
原文 三遠宇之止於毛不尓幾衣奴毛乃奈礼者加久天毛部奴留与尓己曽安利个礼
定家 身をうしと思ふにきえぬ物なれはかくてもへぬるよにこそ有けれ
解釈 身を憂しと思ふに消えぬ物なればかくても経ぬる世にこそありけれ
歌番号八〇七
奈以之乃寸个布知八良乃奈保為己安曽无
典侍藤原直子朝臣
典侍藤原直子朝臣
原文 安末乃可留毛尓寸武々之乃和礼可良止祢遠己曽奈可女世遠者宇良見之
定家 あまのかるもにすむゝしの我からとねをこそなかめ世をはうらみし
解釈 海人の刈る藻に住む虫の我からと音をこそ泣かめ世をば恨みじ
歌番号八〇八
以奈波
いなは
因幡
原文 阿比美奴毛宇幾毛和可三乃可良己呂毛於毛日志良寸毛止久留比毛可奈
定家 あひ見ぬもうきもわか身のから衣思しらすもとくるひも哉
解釈 あひ見ぬも憂きも我が身の唐衣思ひ知らずも解くる紐かな
歌番号八〇九
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥
寸可乃々多々遠武
すかのゝたゝをむ
菅野忠臣
原文 徒礼奈幾遠以万者己飛之止於毛部止毛己々呂与者久毛於川留奈美多可
定家 つれなきを今はこひしとおもへとも心よはくもおつる涙か
解釈 つれなきを今は恋しと思へども心弱くも落つる涙か
歌番号八一〇
多以之良寸
題しらす
題知らず
以世
伊勢
伊勢
原文 比止之礼寸多衣奈末之可八和飛川々毛奈幾奈曽止多尓以者万之毛乃遠
定家 人しれすたえなましかはわひつゝもなき名そとたにいはましものを
解釈 人知れず絶えなましかば侘びつつも無き名ぞとだに言はましものを
歌番号八一一
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 曽礼遠多尓於毛不己止止天和可也止遠美幾止奈以日曽比止乃幾可久尓
定家 それをたに思事とてわかやとを見きとないひそ人のきかくに
解釈 それをだに思ふ事とて我が宿を見きとな言ひそ人の聞かくに
歌番号八一二
原文 安不己止乃毛八良多衣奴留止幾尓己曽比止乃己比之幾己止毛之利个礼
定家 逢事のもはらたえぬる時にこそ人のこひしきこともしりけれ
解釈 逢ふことのもはら絶えぬる時にこそ人の恋しき事も知りけれ
歌番号八一三
原文 和比者川留止幾左部毛乃乃可奈之幾八伊川己遠之乃不奈美多奈留良武
定家 わひはつる時さへ物の悲きはいつこをしのふ涙なるらむ
解釈 侘び果つる時さへ物の悲しきはいづこを忍ぶ涙なるらむ
歌番号八一四
布知八良乃於幾可世
藤原おきかせ
藤原興風
原文 宇良三天毛奈幾天毛以者武可多曽奈幾加々美尓美由留可計奈良寸之天
定家 怨てもなきてもいはむ方そなきかゝみに見ゆる影ならすして
解釈 恨みても泣きても言はむ方ぞなき鏡に見ゆる影ならずして
歌番号八一五
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 夕左礼者比止奈幾止己遠宇知者良日奈个可武多女止奈礼留和可三可
定家 夕されは人なきとこを打はらひなけかむためとなれるわかみか
解釈 夕されば人なき床をうち払ひ嘆かむためとなれる我が身か
歌番号八一六
原文 和多川美乃和可三己寸奈美多知可部利安万乃寸武天不宇良美川留可奈
定家 わたつみのわか身こす浪立返りあまのすむてふうらみつる哉
解釈 わたつみの我が身越す浪立ち返り海人の住むてふ浦見つるかな
歌番号八一七
原文 安良遠多遠安良寸幾可部之/\天毛比止乃己々呂遠美天己曽也万女
定家 あらを田をあらすきかへし/\ても人の心を見てこそやまめ
解釈 新小田を粗すき返し返しても人の心を見てこそやまめ
歌番号八一八
原文 安利曽宇美乃者未乃末左己止多乃女之八和寸留々己止乃加寸尓曽有个留
定家 有そ海の浜のまさことたのめしは忘る事のかすにそ有ける
解釈 有磯海の浜の真砂と頼めしは忘るる事の数にぞありける
歌番号八一九
原文 安之部与利久毛井遠左之天由久加利乃以也止遠左可留和可三加奈之毛
定家 葦辺より雲井をさして行雁のいやとをさかるわか身かなしも
解釈 葦辺より雲居をさして行く雁のいや遠ざかる我が身悲しも
歌番号八二〇
原文 志久礼天々毛美川留与利毛己止乃者乃己々呂乃安幾尓安不曽和日之幾
定家 しくれつゝもみつるよりも事のはの心の秋にあふそわひしき
解釈 時雨れつつもみづるよりも言の葉の心の秋に逢ふぞ侘びしき
歌番号八二一
原文 安幾可世乃布幾止布幾奴留武左之乃八奈部天久左八乃以呂可八利个利
定家 秋風のふきとふきぬるむさしのはなへて草はの色かはりけり
解釈 秋風の吹きと吹きぬる武蔵野はなべて草葉の色変はりけり
歌番号八二二
己万知
小町
小野小町
原文 安幾可世尓安不堂乃美己曽加奈之个礼和可三武奈之久奈利奴止於毛部八
定家 あきかせにあふたのみこそかなしけれわか身むなしくなりぬと思へは
解釈 秋風にあふ田の実こそ悲しけれ我が身むなしくなりぬと思へば
歌番号八二三
多比良乃左多不无
平貞文
平貞文
原文 安幾可世乃布幾宇良可部寸久寸乃八乃宇良美天毛奈保宇良女之幾可奈
定家 秋風の吹うらかへすくすのはのうらみても猶うらめしき哉
解釈 秋風の吹き裏返す葛の葉のうらみてもなほ恨めしきかな
歌番号八二四
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 安幾止以部者与曽尓曽幾々之安多比止乃和礼遠布留世留奈尓己曽安利个礼
定家 あきといへはよそにそきゝしあた人の我をふるせる名にこそ有けれ
解釈 秋と言へばよそにぞ聞きしあだ人の我を古せる名にこそありけれ
歌番号八二五
原文 和寸良累々三遠宇地者之乃中多衣天比止毛可与八奴止之曽部尓个留
定家 わすらるゝ身をうちはしの中たえて人もかよはぬ年そへにける
解釈 忘らるる身を宇治橋の中絶えて人も通はぬ年ぞ経にける
万多八己奈多可奈多尓比止毛可与八寸
又はこなたかなたに人もかよはす
またはこなたかなたに人も通わず
歌番号八二六
佐可乃宇部乃己礼乃利
坂上これのり
坂上是則
原文 安不己止遠奈可良乃者之乃奈可良部天己日和多留万尓止之曽部尓个留
定家 あふ事をなからのはしのなからへてこひ渡まに年そへにける
解釈 逢ふことを長柄の橋のながらへて恋ひわたる間に年ぞ経にける
歌番号八二七
止毛乃利
とものり
紀友則
原文 宇幾奈可良遣奴累安和止毛奈利奈々武流天止多尓太乃万礼奴三八
定家 うきなからけぬるあわともなりなゝむ流てとたにたのまれぬ身は
解釈 浮きながら消ぬる泡ともなりななむ流れてとだに頼まれぬ身は
歌番号八二八
与三比止之良寸
読人しらす
詠み人知らず
原文 流天者以毛世乃夜万乃奈可尓於川累与之乃々加者乃也之也与乃奈可
定家 流ては妹背の山のなかにおつるよしのゝ河のよしや世中
解釈 流れては妹背の山の中に落つる吉野の河のよしや世の中
とをまりいつまきにあたるまき
巻十五
己比乃宇多以川々
恋哥五
恋哥五
歌番号七四七
己天宇乃幾左以乃美也乃仁之乃太以尓寸美个留比止仁本以尓者安良天毛乃以比
五条のきさいの宮のにしのたいにすみける人にほいにはあらてものいひ
五条妃宮の西の対に住みける人に本意にはあらで物言い
和多利个留遠武川幾乃止遠可安万利尓奈武保可部加久礼尓个留安利
わたりけるをむつきのとをかあまりになむほかへかくれにけるあり
わたりけるを正月の十日あまりになむ他へ隠れにけるあり
止己呂八幾々个礼止衣毛乃毛以者天万多乃止之乃者留武女乃者那左可利尓
所はきゝけれとえ物もいはて又のとしのはるむめの花さかりに
所は聞きけれどえ物も謂はでまたの年の春梅の花盛りに
川幾乃於毛之呂可利个留与己曽遠己飛天加乃尓之乃多以尓以幾天川幾乃
月のおもしろかりける夜こそをこひてかのにしのたいにいきて月の
月のおもしろかりける夜こそを恋ひてかの西の対に行きて月の
可多不久末天安者良奈留以多之幾尓布世利天与女留
かたふくまてあはらなるいたしきにふせりてよめる
傾くまで露わなる板敷に臥せりて詠める
安利八良乃奈利比良安曽无
在原業平朝臣
在原業平朝臣
原文 川幾也安良奴者留也武可之乃者留奈良奴和可三飛止川者毛止乃三尓之天
定家 月やあらぬ春や昔の春ならぬわか身ひとつはもとの身にして
解釈 月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つは本の身にして
歌番号七四八
多以之良寸
題しらす
題知らず
布知八良乃奈可比良乃安曽无
藤原なかひらの朝臣
藤原仲平朝臣
原文 者那寸々幾和礼己曽志多尓於毛日之可保尓以天々比止尓武寸八礼尓个利
定家 花すゝき我こそしたに思しかほにいてゝ人にむすはれにけり
解釈 花薄我こそ下に思ひしか穂に出でて人に結ばれにけり
歌番号七四九
布知八良乃加祢寸計乃安曽无
藤原かねすけの朝臣
藤原兼輔朝臣
原文 与曽尓能美幾可万之毛乃遠々止者加者和多留止奈之尓見奈礼曽女个武
定家 よそにのみきかまし物をゝとは河渡となしに見なれそめけむ
解釈 よそにのみ聞かましものを音羽河渡るとなしに身なれそめけむ
歌番号七五〇
於保可宇知乃美川子
凡河内みつね
凡河内躬恒
原文 和可己止久和礼遠於毛者武比止毛可奈佐天毛也宇幾止世遠己々呂美無
定家 わかことく我をおもはむ人も哉さてもやうきと世を心見む
解釈 我がごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと世を心見む
歌番号七五一
毛止可多
もとかた
在原元方
原文 比左可多乃安末川曽良尓毛寸万奈久尓比止者与曽尓曽於毛不部良奈留
定家 久方のあまつそらにもすまなくに人はよそにそ思へらなる
解釈 久方の天つ空にも住まなくに人はよそにぞ思ふべらなる
歌番号七五二
与美比止之良寸
よみひとしらす
詠み人知らず
原文 美天毛万多万多毛美末久乃保之个礼者奈留々遠比止者以止不部良奈利
定家 見ても又またも見まくのほしけれはなるゝを人はいとふへら也
解釈 見ても又またも見まくの欲しければなるるを人は厭ふべらなり
歌番号七五三
幾乃止毛乃利
きのとものり
紀友則
原文 久毛毛奈久奈幾多留安左乃和礼奈礼也以止者礼天乃美世遠者部奴良武
定家 雲もなくなきたるあさの我なれやいとはれてのみ世をはへぬらむ
解釈 雲もなく凪ぎたる朝の我なれや厭はれてのみ世をば経ぬらむ
歌番号七五四
与美比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 者那可多美女奈良不比止乃安万多安礼者和寸良礼奴良武加寸奈良奴三八
定家 花かたみめならふ人のあまたあれはわすられぬ覧かすならぬ身は
解釈 花がたみめならぶ人のあまたあれば忘られぬらん数ならぬ身は
歌番号七五五
原文 宇幾女能美於比天流留宇良奈礼者加利尓乃美己曽安万者与留良女
定家 うきめのみおひて流る浦なれはかりにのみこそあまはよるらめ
解釈 浮きめのみ生ひて流るる浦なれば刈りにのみこそ海人は寄るらめ
歌番号七五六
以世
伊勢
伊勢
原文 安比尓安日天毛乃毛不己呂乃和可曽天尓也止留川幾左部奴留々可本奈留
定家 あひにあひて物思ころのわか袖にやとる月さへぬるゝかほなる
解釈 逢ひに逢ひて物思ふころの我が袖に宿る月さへ濡るる顔なる
歌番号七五七
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 安幾奈良天遠久之良川由者祢左女寸留和可多末久良乃之川久奈利个利
定家 秋ならてをく白露はねさめするわかた枕のしつくなりけり
解釈 秋ならで置く白露は寝覚めする我が手枕の滴なりけり
歌番号七五八
原文 寸万乃安万乃志本也幾己呂毛於左遠安良美末止遠尓安礼也幾三可幾万左奴
定家 すまのあまのしほやき衣おさをあらみまとをにあれや君かきまさぬ
解釈 須磨の海人の塩焼き衣をさを粗み間遠にあれや君が来まさぬ
歌番号七五九
原文 夜万之呂乃与止乃和可己毛加利尓多尓己奴比止多乃武和礼曽者可奈幾
定家 山しろのよとのわかこもかりにたにこぬ人たのむ我そはかなき
解釈 山城の淀の若菰刈りにだに来ぬ人頼む我ぞはかなき
歌番号七六〇
原文 安飛美祢者己比己曽万左礼美奈世加者奈尓々布可女天於毛日曽女个武
定家 あひ見ねはこひこそまされみなせ河なにゝふかめて思そめけむ
解釈 あひ見ねば恋こそまされ水無瀬川何に深めて思ひそめけむ
歌番号七六一
原文 安可川幾乃志幾乃者祢可幾毛々者可幾幾三可己奴与者和礼曽可寸可久
定家 暁のしきのはねかきもゝはかき君かこぬ夜は我そかすかく
解釈 暁の鴫の羽がき百羽がき君が来ぬ夜は我ぞかずかく
歌番号七六二
原文 多万加川良以万者堂由止也布久可世乃遠止尓毛比止乃幾己衣左留良武
定家 玉かつら今はたゆとや吹風のをとにも人のきこえさる覧
解釈 玉かづら今は絶ゆとや吹く風の音にも人の聞こえざるらん
歌番号七六三
原文 和可曽天尓末多幾志久礼乃布利奴留者幾三可己々呂尓安幾也幾奴良武
定家 わか袖にまたき時雨のふりぬるは君か心に秋やきぬらむ
解釈 我が袖にまだき時雨の降りぬるは君が心に秋や来ぬらむ
歌番号七六四
原文 夜万乃井乃浅幾己々呂毛於毛者奴尓可計者可利乃美比止乃美由良無
定家 山の井の浅き心もおもはぬに影許のみ人の見ゆらむ
解釈 山の井の浅き心も思はぬを影ばかりのみ人の見ゆらむ
歌番号七六五
原文 和寸礼久左堂祢止良万之遠安不己止能以止可久可多幾毛乃止之利世八
定家 忘草たねとらましを逢事のいとかくかたき物としりせは
解釈 忘草種採らましを逢ふことのいとかくかたき物と知りせば
歌番号七六六
原文 己布礼止毛安不与乃奈幾者和寸礼久左由女地尓左部也於日志个留良武
定家 こふれ鞆逢夜のなきは忘草夢ちにさへやおひしける覧
解釈 恋ふれども逢ふ夜のなきは忘草夢路にさへや生ひ茂るらむ
歌番号七六七
原文 由女尓多仁安不己止可多久奈利由久者和礼也以遠祢奴比止也和寸留々
定家 夢にたにあふ事かたくなりゆくは我やいをねぬ人やわするゝ
解釈 夢にだに逢ふことかたくなりゆくは我や寝を寝ぬ人や忘るる
歌番号七六八
遣武計以保宇之
けむけい法し
兼芸法師
原文 毛呂己之毛由女尓美之可八知可々利幾於毛者奴奈可曽者留个可利遣留
定家 もろこしも夢に見しかはちかゝりきおもはぬ中そはるけかりける
解釈 唐土も夢に見しかば近かりき思はぬ仲ぞはるけかりける
歌番号七六九
佐多乃々保留
さたのゝほる
貞登
原文 飛止利能美奈可免布留也乃川万奈礼者比止遠志乃日乃久左曽於日个留
定家 独のみなかめふるやのつまなれは人を忍の草そおひける
解釈 一人のみながめ古屋のつまなれば人を忍の草ぞ生ひける
歌番号七七〇
曽宇志也宇部无世宇
僧正へんせう
僧正遍照
原文 和可也止者美知毛奈幾万天安礼尓个利川礼奈幾比止遠末川止世之万尓
定家 わかやとは道もなきまてあれにけりつれなき人を松とせしまに
解釈 我が宿は道もなきまで荒れにけりつれなき人を待つとせしまに
歌番号七七一
原文 以万己武止以飛天和可礼之安之多与利於毛日久良之乃祢遠乃美曽奈久
定家 今こむといひてわかれし朝より思ひくらしのねをのみそなく
解釈 今来むと言ひて別れし朝より思ひ暮らしの音をのみぞ泣く
歌番号七七二
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 己免也止者於毛不毛乃可良飛久良之乃奈久由不久礼八多知万多礼川々
定家 こめやとは思物からひくらしのなくゆふくれはたちまたれつゝ
解釈 来めやとは思ふものからひぐらしの鳴く夕暮れは立ち待たれつつ
歌番号七七三
原文 以万之波止和比尓之毛乃遠佐々可尓乃己呂毛尓可々利和礼遠多乃武留
定家 今しはとわひにし物をさゝかにの衣にかゝり我をたのむる
解釈 今しはと侘びにしものをささがにの衣にかかり我を頼むる
歌番号七七四
原文 以末者己之止於毛不毛乃可良和寸礼川々末多留々己止乃万多毛也万奴可
定家 いまはこしと思物から忘つゝまたるゝ事のまたもやまぬか
解釈 今は来じと思ふものから忘れつつ待たるる事のまだもやまぬか
歌番号七七五
原文 川幾与尓者己奴比止末多留加幾久毛利安免毛不良奈武和日川々毛祢武
定家 月よにはこぬ人またるかきくもり雨もふらなむわひつゝもねむ
解釈 月夜には来ぬ人待たるかき曇り雨も降らなん侘びつつも寝む
歌番号七七六
原文 宇部天以尓之安幾堂可留万天美衣己祢者計左者川可利乃祢尓曽奈幾奴留
定家 うへていにし秋田かるまて見えこねはけさはつかりのねにそなきぬる
解釈 植ゑて往にし秋田刈るまで見え来ねば今朝初雁の音にぞ鳴きぬる
歌番号七七七
原文 己奴比止遠末川由不久礼乃安幾可世者以可尓布遣者可和日之可留良武
定家 こぬ人を松ゆふくれの秋風はいかにふけはかわひしかる覧
解釈 来ぬ人を待つ夕暮れの秋風はいかに吹けばか侘びしかるらむ
歌番号七七八
原文 飛左之久毛奈利尓个留可奈寸美乃衣乃末川者久留之幾毛乃尓曽安利个留
定家 ひさしくもなりにける哉すみのえの松はくるしき物にそありける
解釈 久しくもなりにけるかな住の江の松は苦しき物にぞありける
歌番号七七九
加祢三乃於保幾三
かねみのおほきみ
兼覧王
原文 寸三乃衣乃末川本止比左二奈利奴礼者安之多川乃祢二奈可奴比八奈之
定家 住の江の松ほとひさになりぬれはあしたつのねになかぬ日はなし
解釈 住の江の松ほど久になりぬれば葦田鶴の音に鳴かぬ日はなし
歌番号七八〇
奈可比良安曽无安飛之里天者部利个留遠加礼可多尓奈利尓个礼者
仲平朝臣あひしりて侍けるをかれ方になりにけれは
仲平朝臣相知りて侍けるを枯れ方になりにければ
知々可也万止乃可美尓者部利个留毛止部万可留止天与美天徒可八之个留
ちゝかやまとのかみに侍けるもとへまかるとてよみてつかはしける
父が大和守に侍ける許へ罷るとて詠みて遣はしける
以世
伊勢
伊勢
原文 三和乃夜万以可尓万知美武止之布止毛堂川奴留比止毛安良之止於毛部八
定家 みわの山いかにまち見む年ふともたつぬる人もあらしと思へは
解釈 三輪の山いかに待ち見む年経とも尋ぬる人もあらじと思へば
歌番号七八一
多以之良寸
題しらす
題知らず
宇里武為无乃美己
雲林院のみこ
雲林院親王
原文 布幾万与不乃可世遠左武美安幾者幾乃宇川利毛由久可比止乃己々呂乃
定家 吹まよふ野風をさむみ秋はきのうつりも行か人の心の
解釈 吹きまよふ野風を寒み秋萩の移りも行くか人の心の
歌番号七八二
遠乃々己万知
をのゝこまち
小野小町
原文 以万者止天和可三志久礼尓布利奴礼者己止乃波左部尓宇川呂日尓个利
定家 今はとてわか身時雨にふりぬれは事のはさへにうつろひにけり
解釈 今はとて我が身時雨に古りぬれば言の葉さへに移ろひにけり
歌番号七八三
可部之
返し
返し
遠乃々左多幾
小野さたき
小野貞樹
原文 比止遠於毛不己々呂乃己乃波尓安良八己曽可世乃末尓/\知利毛美多礼女
定家 人を思心のこのはにあらはこそ風のまに/\ちりもみたれめ
解釈 人を思ふ心の木の葉にあらばこそ風のまにまに散りも乱れめ
歌番号七八四
奈利比良安曽无幾乃安利川祢可武寸女尓寸美个留遠宇良武留己止安利天
業平朝臣きのありつねかむすめにすみけるをうらむることありて
業平朝臣紀有常か女に住みけるを恨むることありて
志八之乃安日多飛留八幾天由不左利者加部利乃美之个礼八与美天川可八之个留
しはしのあひたひるはきてゆふさりはかへりのみしけれはよみてつかはしける
しばしの間昼は来て夕さりは帰へりのみしければ詠みて遣はしける
原文 安満久毛乃与曽尓毛比止乃奈利由久可佐寸可尓女尓八美由留毛乃可良
定家 あま雲のよそにも人のなりゆくかさすかにめには見ゆる物から
解釈 天雲のよそにも人のなり行くかさすがに目には見ゆるものから
歌番号七八五
可部之
返し
返し
奈利比良乃安曽无
なりひらの朝臣
業平朝臣
原文 由幾可部利曽良尓乃美之天布留己止者和可為留夜万乃可世者也三奈利
定家 ゆきかへりそらにのみしてふる事はわかゐる山の風はやみなり
解釈 行き帰り空にのみして経ることは我が居る山の風早みなり
歌番号七八六
多以之良寸
題しらす
題知らず
加計乃利乃於保幾三
かけのりのおほきみ
景式王
原文 加良己呂毛奈礼者三尓己曽万川八礼女加計天乃美也八己比武止於毛日之
定家 唐衣なれは身にこそまつはれめかけてのみやはこひむと思し
解釈 唐衣なれば身にこそまつはれめかけてのみやは恋ひむと思ひし
歌番号七八七
止毛乃利
とものり
紀友則
原文 安幾可世者三遠和遣天之毛布可奈久尓比止乃己々呂乃曽良尓奈留良武
定家 秋風は身をわけてしもふかなくに人の心のそらになるらむ
解釈 秋風は身を分けてしも吹かなくに人の心の空になるらむ
歌番号七八八
美奈毛堂乃武祢由幾安曽无
源宗于朝臣
源宗于朝臣
原文 徒礼毛祢久奈利由久比止乃己止乃者曽安幾与利左幾乃毛三知奈利个留
定家 つれもなくなりゆく人の事のはそ秋よりさきのもみちなりける
解釈 つれもなくなりゆく人の言の葉ぞ秋より先の紅葉なりける
歌番号七八九
己々知曽己奈部利个留己呂安比之利天者部利个留比止乃止八天己々知
心地そこなへりけるころあひしりて侍ける人のとはてこゝち
心地損なへりけるころ相知りて侍ける人の問はで心地
遠己多利天乃知止不良部利个礼八与美天徒可者之个留
をこたりてのちとふらへりけれはよみてつかはしける
怠りて後問ふらへりければ詠みて遣はしける
川者毛乃々止祢利
兵衛
兵衛
原文 志天乃夜万布毛止遠美天曽加部利尓之徒良幾比止与利万川己衣之止天
定家 しての山ふもとを見てそかへりにしつらき人よりまつこえしとて
解釈 死出の山麓を見てぞ帰りにしつらき人よりまづ越えじとて
歌番号七九〇
安比之礼利个留比止乃也宇也久加礼可多尓奈利个留安飛多尓
あひしれりける人のやうやくかれかたになりけるあひたに
相知れりける人のやうやく離れ方になりける間に
也計多留知乃者尓布美遠左之天川可八世利个留
やけたるちのはにふみをさしてつかはせりける
焼けたる茅の葉に文を刺して遣はせりける
己万知可安祢
こまちかあね
小野小町姉
原文 止幾寸幾天可礼由久遠乃々安左地尓八以万者於毛日曽多衣寸毛衣个留
定家 時すきてかれゆくをのゝあさちには今は思ひそたえすもえける
解釈 時過ぎて離れゆく小野の浅茅には今は思ひぞ絶えず燃えける
歌番号七九一
毛乃於毛日个累己呂毛乃部万可利个留美知尓乃比乃毛衣个留遠美天与女留
物おもひけるころものへまかりけるみちに野火のもえけるを見てよめる
物思ひけるころ物へ参りける道に野火の燃えけるを見て詠める
以世
伊勢
伊勢
原文 布由可礼乃々部止和可三遠於毛日世八毛衣天毛者留遠万多万之毛乃遠
定家 冬かれのゝへとわか身を思ひせはもえても春をまたまし物を
解釈 冬枯れの野辺と我が身を思ひせば燃えても春を待たましものを
歌番号七九二
多以之良寸
題しらす
題知らず
止毛乃利
とものり
紀友則
原文 美川乃安和乃幾衣天宇幾三遠以比奈可良流天奈保毛多乃万留々可奈
定家 水のあわのきえてうき身といひなから流て猶もたのまるゝ哉
解釈 水の泡の消えで憂き身と言ひながら流れてなほも頼まるるかな
歌番号七九三
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 美奈世加者安利天由久美川奈久者己曽川為尓和可三遠多衣奴止於毛八女
定家 みなせ河有て行水なくはこそつゐにわか身をたえぬと思はめ
解釈 水無瀬川ありて行く水なくはこそつひに我が身を絶えぬと思はめ
歌番号七九四
美川祢
みつね
凡河内躬恒
原文 与之乃加者与之也比止己曽徒良可良女者也久以比天之己止八和寸礼之
定家 吉野河よしや人こそつらからめはやくいひてし事はわすれし
解釈 吉野川よしや人こそつらからめ早く言ひてし事は忘れじ
歌番号七九五
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 与乃奈可乃比止乃己々呂者者那曽女乃宇川呂日也寸幾以呂尓曽安利个留
定家 世中の人の心は花そめのうつろひやすき色にそありける
解釈 世の中の人の心は花染めの移ろひやすき色にぞありける
歌番号七九六
原文 己々呂己曽宇多天尓久个礼曽女左良八宇川呂不己止毛於之可良万之也
定家 心こそうたてにくけれそめさらはうつろふ事もおしからましや
解釈 心こそうたて憎けれ染めざらば移ろふ事も惜しからましや
歌番号七九七
遠乃々己万知
小野小町
原文 以呂美衣天宇川呂不毛乃八与乃奈可乃比止乃己々呂乃者那尓曽安利个留
定家 色見えてうつろふ物は世中の人の心の花にそ有ける
解釈 色見えで移ろふ物は世の中の人の心の花にぞありける
歌番号七九八
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 和礼能美也世遠宇久日寸止奈幾和日武比止乃己々呂乃者那止知利奈八
定家 我のみや世をうくひすとなきわひむ人の心の花とちりなは
解釈 我のみや世を鴬と鳴き侘びむ人の心の花と散りなば
歌番号七九九
曽世以保宇之
そせい法し
素性法師
原文 於毛不止毛加礼奈无比止遠以可々世武安可寸知利奴留者那止己曽美女
定家 思ふともかれ南人をいかゝせむあかすちりぬる花とこそ見め
解釈 思ふとも離れなむ人をいかがせむあかず散りぬる花とこそ見め
歌番号八〇〇
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 以万者止天幾三可々礼奈八和可也止乃者那遠者飛止利美天也之乃者武
定家 今はとて君かゝれなはわかやとの花をはひとり見てやしのはむ
解釈 今はとて君が離れなば我が宿の花をば一人見てや忍ばむ
歌番号八〇一
武祢由幾乃安曽无
むねゆきの朝臣
源宗于朝臣
原文 和寸礼久左加礼毛也寸留止川礼毛奈幾比止乃己々呂尓之毛八遠可奈無
定家 忘草かれもやするとつれもなき人の心にしもはをかなむ
解釈 忘草枯れもやするとつれもなき人の心に霜は置かなむ
歌番号八〇二
可无部以乃於保无止幾美飛也宇布尓宇多可々世多万部个留止幾与美天加幾个留
寛平御時御屏風に哥かゝせ給へける時よみてかきける
寛平御時御屏風に哥描かせ給へける時詠みて描きける
曽世以保宇之
そせい法し
素性法師
原文 和寸礼久左奈尓遠可多祢止於毛日之八川礼奈幾比止乃己々呂奈利个利
定家 忘草なにをかたねと思しはつれなき人の心なりけり
解釈 忘草何をか種と思ひしはつれなき人の心なりけり
歌番号八〇三
多以之良寸
題しらす
題知らず
原文 安幾乃多乃以祢天不己止毛加計奈久尓何遠宇之止可比止乃可留良武
定家 秋の田のいねてふ事もかけなくに何をうしとか人のかるらむ
解釈 秋の田の稲てふこともかけなくに何を憂しとか人の刈るらむ
歌番号八〇四
幾乃川良由幾
きのつらゆき
紀貫之
原文 者川可利乃奈幾己曽和多礼与乃奈可乃比止乃己々呂乃安幾之宇个礼八
定家 はつかりのなきこそわたれ世中の人の心の秋しうけれは
解釈 初雁の鳴きこそ渡れ世の中の人の心の秋し憂ければ
歌番号八〇五
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 安者礼止毛宇之止毛毛乃遠於毛不止幾奈止可奈美多乃以止奈可留良武
定家 あはれともうしとも物を思時なとか涙のいとなかるらむ
解釈 あはれとも憂しとも物を思ふ時などか涙のいと流るらん
歌番号八〇六
原文 三遠宇之止於毛不尓幾衣奴毛乃奈礼者加久天毛部奴留与尓己曽安利个礼
定家 身をうしと思ふにきえぬ物なれはかくてもへぬるよにこそ有けれ
解釈 身を憂しと思ふに消えぬ物なればかくても経ぬる世にこそありけれ
歌番号八〇七
奈以之乃寸个布知八良乃奈保為己安曽无
典侍藤原直子朝臣
典侍藤原直子朝臣
原文 安末乃可留毛尓寸武々之乃和礼可良止祢遠己曽奈可女世遠者宇良見之
定家 あまのかるもにすむゝしの我からとねをこそなかめ世をはうらみし
解釈 海人の刈る藻に住む虫の我からと音をこそ泣かめ世をば恨みじ
歌番号八〇八
以奈波
いなは
因幡
原文 阿比美奴毛宇幾毛和可三乃可良己呂毛於毛日志良寸毛止久留比毛可奈
定家 あひ見ぬもうきもわか身のから衣思しらすもとくるひも哉
解釈 あひ見ぬも憂きも我が身の唐衣思ひ知らずも解くる紐かな
歌番号八〇九
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥
寸可乃々多々遠武
すかのゝたゝをむ
菅野忠臣
原文 徒礼奈幾遠以万者己飛之止於毛部止毛己々呂与者久毛於川留奈美多可
定家 つれなきを今はこひしとおもへとも心よはくもおつる涙か
解釈 つれなきを今は恋しと思へども心弱くも落つる涙か
歌番号八一〇
多以之良寸
題しらす
題知らず
以世
伊勢
伊勢
原文 比止之礼寸多衣奈末之可八和飛川々毛奈幾奈曽止多尓以者万之毛乃遠
定家 人しれすたえなましかはわひつゝもなき名そとたにいはましものを
解釈 人知れず絶えなましかば侘びつつも無き名ぞとだに言はましものを
歌番号八一一
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 曽礼遠多尓於毛不己止止天和可也止遠美幾止奈以日曽比止乃幾可久尓
定家 それをたに思事とてわかやとを見きとないひそ人のきかくに
解釈 それをだに思ふ事とて我が宿を見きとな言ひそ人の聞かくに
歌番号八一二
原文 安不己止乃毛八良多衣奴留止幾尓己曽比止乃己比之幾己止毛之利个礼
定家 逢事のもはらたえぬる時にこそ人のこひしきこともしりけれ
解釈 逢ふことのもはら絶えぬる時にこそ人の恋しき事も知りけれ
歌番号八一三
原文 和比者川留止幾左部毛乃乃可奈之幾八伊川己遠之乃不奈美多奈留良武
定家 わひはつる時さへ物の悲きはいつこをしのふ涙なるらむ
解釈 侘び果つる時さへ物の悲しきはいづこを忍ぶ涙なるらむ
歌番号八一四
布知八良乃於幾可世
藤原おきかせ
藤原興風
原文 宇良三天毛奈幾天毛以者武可多曽奈幾加々美尓美由留可計奈良寸之天
定家 怨てもなきてもいはむ方そなきかゝみに見ゆる影ならすして
解釈 恨みても泣きても言はむ方ぞなき鏡に見ゆる影ならずして
歌番号八一五
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 夕左礼者比止奈幾止己遠宇知者良日奈个可武多女止奈礼留和可三可
定家 夕されは人なきとこを打はらひなけかむためとなれるわかみか
解釈 夕されば人なき床をうち払ひ嘆かむためとなれる我が身か
歌番号八一六
原文 和多川美乃和可三己寸奈美多知可部利安万乃寸武天不宇良美川留可奈
定家 わたつみのわか身こす浪立返りあまのすむてふうらみつる哉
解釈 わたつみの我が身越す浪立ち返り海人の住むてふ浦見つるかな
歌番号八一七
原文 安良遠多遠安良寸幾可部之/\天毛比止乃己々呂遠美天己曽也万女
定家 あらを田をあらすきかへし/\ても人の心を見てこそやまめ
解釈 新小田を粗すき返し返しても人の心を見てこそやまめ
歌番号八一八
原文 安利曽宇美乃者未乃末左己止多乃女之八和寸留々己止乃加寸尓曽有个留
定家 有そ海の浜のまさことたのめしは忘る事のかすにそ有ける
解釈 有磯海の浜の真砂と頼めしは忘るる事の数にぞありける
歌番号八一九
原文 安之部与利久毛井遠左之天由久加利乃以也止遠左可留和可三加奈之毛
定家 葦辺より雲井をさして行雁のいやとをさかるわか身かなしも
解釈 葦辺より雲居をさして行く雁のいや遠ざかる我が身悲しも
歌番号八二〇
原文 志久礼天々毛美川留与利毛己止乃者乃己々呂乃安幾尓安不曽和日之幾
定家 しくれつゝもみつるよりも事のはの心の秋にあふそわひしき
解釈 時雨れつつもみづるよりも言の葉の心の秋に逢ふぞ侘びしき
歌番号八二一
原文 安幾可世乃布幾止布幾奴留武左之乃八奈部天久左八乃以呂可八利个利
定家 秋風のふきとふきぬるむさしのはなへて草はの色かはりけり
解釈 秋風の吹きと吹きぬる武蔵野はなべて草葉の色変はりけり
歌番号八二二
己万知
小町
小野小町
原文 安幾可世尓安不堂乃美己曽加奈之个礼和可三武奈之久奈利奴止於毛部八
定家 あきかせにあふたのみこそかなしけれわか身むなしくなりぬと思へは
解釈 秋風にあふ田の実こそ悲しけれ我が身むなしくなりぬと思へば
歌番号八二三
多比良乃左多不无
平貞文
平貞文
原文 安幾可世乃布幾宇良可部寸久寸乃八乃宇良美天毛奈保宇良女之幾可奈
定家 秋風の吹うらかへすくすのはのうらみても猶うらめしき哉
解釈 秋風の吹き裏返す葛の葉のうらみてもなほ恨めしきかな
歌番号八二四
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず
原文 安幾止以部者与曽尓曽幾々之安多比止乃和礼遠布留世留奈尓己曽安利个礼
定家 あきといへはよそにそきゝしあた人の我をふるせる名にこそ有けれ
解釈 秋と言へばよそにぞ聞きしあだ人の我を古せる名にこそありけれ
歌番号八二五
原文 和寸良累々三遠宇地者之乃中多衣天比止毛可与八奴止之曽部尓个留
定家 わすらるゝ身をうちはしの中たえて人もかよはぬ年そへにける
解釈 忘らるる身を宇治橋の中絶えて人も通はぬ年ぞ経にける
万多八己奈多可奈多尓比止毛可与八寸
又はこなたかなたに人もかよはす
またはこなたかなたに人も通わず
歌番号八二六
佐可乃宇部乃己礼乃利
坂上これのり
坂上是則
原文 安不己止遠奈可良乃者之乃奈可良部天己日和多留万尓止之曽部尓个留
定家 あふ事をなからのはしのなからへてこひ渡まに年そへにける
解釈 逢ふことを長柄の橋のながらへて恋ひわたる間に年ぞ経にける
歌番号八二七
止毛乃利
とものり
紀友則
原文 宇幾奈可良遣奴累安和止毛奈利奈々武流天止多尓太乃万礼奴三八
定家 うきなからけぬるあわともなりなゝむ流てとたにたのまれぬ身は
解釈 浮きながら消ぬる泡ともなりななむ流れてとだに頼まれぬ身は
歌番号八二八
与三比止之良寸
読人しらす
詠み人知らず
原文 流天者以毛世乃夜万乃奈可尓於川累与之乃々加者乃也之也与乃奈可
定家 流ては妹背の山のなかにおつるよしのゝ河のよしや世中
解釈 流れては妹背の山の中に落つる吉野の河のよしや世の中
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