ジャズと寒さと佐野元春

ランチの帰り、書店に寄る。
「月刊カドカワ」が、佐野元春デビュー30周年の特集号を出していたので、
立ち読みしていたら、レジのほうで大きな声が聞こえてきた。
なにかと思ったら、還暦前ぐらいのおっちゃんが
レジのお姉さんに向かって大声を出していたのだ。

お姉さん「CDジャーナルですか？」
おっちゃん「違う！　スイングジャーナル！」
お姉さん「…はい？　それは雑誌ですか？」
おっちゃん「そうだよ！　ジャズの雑誌！」
お姉さん「はい？」

どうやらお姉さん、このあいだ休刊した「スイングジャーナル」を知らないらしい。
ジャズの雑誌、とも言われて、ますます頭の中が混乱しているようだ。
そうこうしているあいだに、おっちゃんはますます興奮して。

おっちゃん「だ～か～ら～、スイングジャーナル！」
お姉さん「はあ…ちょっとお待ちください…」

お姉さんは、年かさの男性店員を呼びに行った。
その男性店員は、「スイングジャーナル」と聞いて、
「…休刊しましたよ」と一言。

人間が固まるというのはこのことを言うのだろう。
おっちゃんはしばし呆然として、体が微動だにしなくなった。

「はは…休刊…」
なんとか気を取り直したおっちゃんは、
肩をがっくりと落としながら書店をあとにするのだった。

ジャズもあまり知らないし、
「スイングジャーナル」もまともに読んだことはないけれど、
このときばかりはおっちゃんに同情した。

そのうち自分も、
「佐野元春のCDありますか？」とCD屋で聞いたら、
「はあ？」と店員（しかもキレイなお姉さんだったりして）に
冷たく言われるような気がする。

寒い。
寒いのはこの季節のせいだけではないようだ。