戸田彬弘監督「市子」を見る。
存在しない者が存在しているという不条理のなか、
生きること食べること愛することへの執着が
見る者に迫ってくる126分。杉咲花、圧巻。
食べることは生きることだなあ、とあらためて思う。
劇中で市子が、アイスキャンディーをほおばり、
ケーキを試し食いし、縁日で焼きそばを食べる。
そんな彼女のそばでたたずむ
高校の同級生は、同じ寮に住んでいた隣人は、
いずれ恋人になる青年は、みんな彼女の儚げに見えて
実は強靱な生命力に惹かれていく。そしてそれを見ている観客も、
この市子という人が悪人だと思えなくなってくる。
杉咲花という人が本来持っている愛らしさも
あるのだろうけれど、妖艶とも言えるオーラが
スクリーンいっぱいに充満してきて息苦しいほどだ。
この市子の悲しくも切ない出自をめぐる
一種のロードムービーのような、
人間の宿痾をめぐる謎解き映画のような。
「砂の器」みたいな映画という人がいたけれど、
松本清張的な世界観。確かに言い得て妙、かもしれない。
杉咲花さん。決して熱演しているわけでもなく、
むしろ静かな芝居をしているのだけれど、
常に映画の中心にいて、彼女がいない場面でも
強烈に存在を印象づけているところに驚くばかり。
相手役の若葉竜也や森永悠希は、
市子に振り回されるばかりだが、彼女を愛しているその心だけは
全く揺るがない。そんな受けの芝居が素晴らしい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます