ルイス・ブニュエル監督といえば、
四方田先生の本でも1章を割いて論じられていたけれど、
どうもこの監督、根っからの不届き者らしく、
前衛的なスタンスで映画を撮ったと思ったら、
公序良俗に反する映画で物議を醸し、
晩年はフェティシズムやテロリズムといったけしからんものを
主題にして撮り続けた人である。
そんな人が1945年から60年ぐらいの間に、
メキシコで量産した商業映画が、すこぶる面白い。
それぞれミュージカルであったり、冒険映画であったり
恋愛映画であったりするのだけど、どこか異様というか、ヘンなのである。
日本の監督でいうと、
鈴木清順と若松孝二と石井輝男を足して3で割ったような感じ、
と言ったら伝わるだろうか。
ということで、つい最近見たのが、
そのメキシコ時代に撮られた「この庭に死す」だ。
のっぴきならない状態に追い込まれた人たちが、
追っ手の軍隊から逃れるために、ジャングルに迷い込む。
飢えと渇きに苦しみ、絶望の淵に追いやられ、
もう駄目かと思ったところに遭遇したのが、墜落した飛行機の残骸。
乗客は全員死亡していたが、食料や衣服などが残っており、
それまで瀕死状態だった登場人物たちが、
いきなり豪華なドレスを着たり、シャンパンを空けたりする。
なんだろう、この躁で鬱な映画は? と思いつつ、
結局は悲劇的な展開に至るのだけど、やっぱり、すげえなブニュエル。
登場人物は、山師に牧師、娼婦に盲目の娘、そして老人なのだけど、
映画の作り手は、登場人物の誰にもまったく同情せず、
ひたすら冷ややかというか、嘲笑しているというか。
娼婦を演じているのはシモーヌ・シニョレ。
あのクールビューティな女優さんが、
なんとも無残な感じになっていくのは、忍びないなあと。