昨夜、本日付でわが社を退職したH譲と、お別れに一杯飲んだ。と言っても、彼女はほとんど酒を飲まないので、専ら私が飲む会であったのだが。
H嬢は、アルバイト期間を含めわが社に約5年勤めた。映像メディア制作業のわが社にあっては、優れた編集技術を持つ上に、本来「花のある性格」でそれが営業分野でも大いに力を発揮してきた社員であった。それに甘んじて、彼女にだんだんと重要な業務を課していくことになり、彼女はついにその過大な業務に耐え切れず退職していくことになった。
そのような状態を放置したことを、経営の一角をになう私は恥じて、最後にお詫びを言う気持ちで誘ったのであった。私には終始忸怩たるものがある酒であったが、たった一つ救われたのは、彼女の次の言葉であった。(もちろん私に対するお世辞が多分に含まれているとは思うが)
「一つの大きな現場を持たされて、営業からメディア編集までやる仕事は辛かったが、本来は部屋にこもり制作、編集だけをやっていたかもしれない私を、人との接触の場、相手と交渉を重ねる営業、企画立案業務の世界に引っ張り出してくれたことは、今考えれば貴重な経験をさせてもらったと思っている。私は、人と接する仕事の中で、自分の新しい面に初めて自信を持った。次の仕事も、その面を生かした仕事を捜そうと思っている。」
もともと華奢な体つきでありながら、粘り強い根性の持ち主で、彼女は辛い仕事の中で自分を再発見することも怠らなかったのであろう。
私は、「貴方には花がある。それは貴女に固有の性質だ。技術を高めながらも、その花を生かした世界(たとえば営業など)で活躍することを期待する」と、心からそう思って彼女に告げた。
彼女は先日、かねて求めていた一眼レフデジカメを購入したそうだ。頑張って65千円を投じてニコンを買ったと言う。それを持って両親と伊香保温泉に出かけ、紅葉のいい写真を撮った、と嬉しそうに語った(写真ご参照)。その笑顔は、彼女の新しい旅立ちを示していた。
さらに加えて、「私の父も首藤さんのようにお酒が好きで、毎日飲んでいます。会津若松出身なので、そこの『末広』という酒を取り寄せて飲んでいます」という。『末広』は私もよく知った蔵で、今年の5月も蔵を訪ねた。
「ああ、ここにも故郷に誇りを持って生きている人がいる」と、私は彼女の成長にお父さんの生き様を重ねたのであった。