旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

お酒のさかな 話題篇(1) … 会社と上司、女房の悪口 

2015-04-29 15:25:38 | 

 

 お酒のさかなは、何も食べ物に限らない、とこのシリーズの冒頭に書いた。珍しい話題を寄ってたかってたたき合うことを「酒のさかなにする」という言葉があるように、酒飲みは、この話題をこそネタにしながら酒を酌み交わすのである。
 酒は一人でむっつり飲む場合もあるが、たいていは仲間同士が寄り合って飲む。その場合の共通の話題こそ最高の酒のさかななのである。
 サラリーマンが仕事帰りに飲むときの共通の話題は、会社の悪口、上司の悪口、それに女房にたいする小言である。「こんなことだからウチの会社はダメだ!」、「あの部長じゃあわが社の将来はない!」、「ウチのかあちゃんなんて、俺の苦労をこれっぽっちも分かってねえ」……。それらが激しさを増すほど気焔が上がり、場は盛り上がる。
 しかし、それらをよく聞いていると、彼らは決して会社や上司を、ましてや女房を憎んではいない。むしろ会社の将来を思えば思うほど、女房や家庭を愛しているからこそ、その憤懣をぶつけ合っているように見える。やがてお互いに慰めあい、諌め合い、新たなエネルギーを得て家に向かい、翌日の会社に向かう。
 とするとこれほど素晴らしいさかなはない。お代はタダで、酒を盛り立て、新たなエネルギーの蓄積と愛を確かめ合う糧となる。すべてがそうとは言わないが、サラリーマンの酒なんてそんなもので、少なくともそれが戦後の高度成長を支えてきたような気がする。

 英国のチャールズ皇太子が初めて日本に来たとき、「どこに行きたいか」と聞かれて、即座に「サラリーマンの飲んでいる町の居酒屋」と答えたと聞いている。彼の初来日は1970年の4月であったので大阪万博の年、日本は高度成長のまっただ中だ。彼は、高度成長を支えるエネルギーが、夜ごと杯を交わすサラリーマンの中に蓄積されていたことを知っていたのだ。
 さすがに大英帝国Great Britainの総師を運命づけられた人物だ。彼は当時21か22歳であったと思うが、政治の要諦は「民のカマドの煙の勢い」を見ることにあると自覚していたのであろう。もっとも、この要求は実現しなかったと聞いている。英国王子を巷にさらす勇気を、日英の政治家や官僚は持ち合わせていなかったのである。
 この話は、「だから国はダメなんだ」と、当時だいぶ酒のさかなになったが、今思えば、もっと真剣にさかなにすべきテーマであったかもしれない。


報道機関の「世論調査結果に対する評価」に疑問

2015-04-24 17:16:12 | 政治経済

 

 去る20日の日経新聞が17~19日実施した世論調査結果を報じていたが、その解説欄で、集団的自衛権賛成の数値が29%しかないこと等を、「重要政策 理解進まず」という見出しで嘆いて(?)いた。この種の報道は他のマスコミ各種にも共通することが多いが、私はいつも不審に感じる。
 日経新聞の解説によれば、政府の重要政策たる集団的自衛権、沖縄普天間基地の辺野古移設、原発再稼働の三つとも反対が賛成を上回ることから、「より丁寧な説明が必要といえそうだ」としている。しかし、たとえば集団的自衛権では、前回(3月)比で賛成は2%減少して29%へ、反対は1%上昇して52%になっている。この1か月、国会であれほど議論されて、政府は少なくとも3月時点より「より丁寧に説明」し、マスコミもいろいろ報道して、3月時点より「丁寧な説明」は進んだのではないのか?
 事態を冷静に見れば、「丁寧に説明すればするほど反対が進み、賛成が減少している」と判断する方が素直ではないのか? 他の重要法案を含めて、ここ数年、かなり報道され議論されたが「反対多数」は崩れていない。本当にすべてを明らかにし、もっと真剣に国民が議論し理解が進めば、もっと反対が増えるのではないのか?
 商業新聞が、時の権力寄りに傾くのは仕方ないことかもしれないが、より依拠すべきは民意であり、中でも沖縄問題などは沖縄県民の民意を最も尊重すべきではないのか? それを、政府政策が支持されないのは「説明不足」とだけで片付けていては、国の方向を見誤ることになるであろう。
 


お酒のさかな 食べ物篇(3) … ニラ、くさや、鮒ずしなど 

2015-04-18 10:25:34 | 

 

 最近は見かけないが、修行僧の多い昔の寺の山門には「不許葷酒入山門(葷酒山門を入るを許さず)」という看板が掲げられていたという。葷酒(くんしゅ)の葷はニラのことで、酒飲みの好きな「レバニラ炒め」などに使う匂いの強い野菜だ。そのような刺激臭や酒などを持ちこんで、女人を絶って修行を重ねる僧坊に春情をおこさせてはいけないと言うのが趣旨のようだ。
 しかし、このような看板を掲げる必要があったということは、この種のものが絶えず持ち込まれていたからに相違なく、葷酒の類の持ち込みを防ぐことが容易でなかったことを示している。それどころか、この言葉の正当な読み方は、「許さずとも葷酒山門に入れ」であったという説もあるようだから、その実情はうかがい知れる。
 ニラも好まれるが、大体において酒飲みは臭いものを好む。その医学的、食品学的根拠を私は知らないが、これまで付き合ってきた大方の酒飲みは臭いものが好きであった。ある先輩は、飲み屋に入るとまず「くさや!」と注文していた。この先輩はくさやの置いてない店には入らなかった。
 くさやは、伊豆諸島などでつくられ、ムロアジやトビウオなどを、くさや液という魚醤の類に漬けて発酵させたもので、これも強烈なにおいを発する。焼くとその匂いが部屋に立ち込め、大方の顰蹙をかう。これが美味しく、酒に合うというのは実に不思議だ。
 納豆、チーズ、臭豆腐……など、この手のものは数多くあるが、代表的なものは鮒ずしではないか。これは滋賀県の特産で、本来は琵琶湖の固有種であるニゴロブナでつくる“熟(な)れ鮨”である。30年近く前になるが、初めて滋賀を訪れこれを食べたときは驚いた。かつて経験したことない強烈なにおいにギョッとしたが、思い切って口にすると不思議にうまい。しかし同行した大酒のみの従兄が、どうしても食べられなかったのを思い出す。ただ、昨年琵琶湖を訪ねて食べた鮒ずしは、臭みも少なく、何の変哲もない食べ物だった。時代の変化か、それとも観光ずれで万人向けに作られてきたのか?
 私がたった一つ食べることのできなかったものは、中国の「油炸臭豆腐(ヨージャーチョウドゥフー)」だ。紹興市の魯迅の行きつけの店といわれた咸亨酒店でトライしたが、想像を絶する強烈な臭み(一言でいえば便所の匂い)で、ついに口にできなかった。目の前で、若いきれいな女性が「おいしい、おいしい」と食べる姿が不思議な光景に見えた。
 しかし、総じて酒飲みは臭いものが好きだ。一般人には迷惑な人種かもしれない。


乱高下の中でも季節は移ろう

2015-04-09 14:38:44 | 時局雑感

 

 一昨日の気温は20度を超えたが、昨日は都心でも雪が降った。気象予報士は、寒気の前線のと様々説明するか、なぜこのような極端なことになるのか、もうひとつわからない。
 世界の政治も経済も不安定が続いている。政治では、イスラムの動乱、中国の海洋進出、北朝鮮の核開発など、どれもこれも気持ちが悪い。経済も、リーマンショック以来不安定さが増しこそすれ落ち着く様相は見えない。株も為替相場も乱高下を続けている。自然も、人の世の乱高下に合わせているのだろうか?
 桜の花もすでに散った。しかし、桜に気を取られて気が付かなかったが、周囲を見渡すと、自然は確実に変化していた。玄関口のカイドウは満開に近く、庭のハナミズキは開き、甲州街道のケヤキは緑を増していた。

 
     

        
   

 
         
  

  

 


お酒のさかな 食べ物篇(2) … シラウオ、シロウオ(またはイサザ)

2015-04-03 15:47:15 | 

 

 酒飲みはだいたい生ものを好む。日本酒は素朴な食べ物が良く合うからであろう。だから、魚の類でもまずは刺身である。ところが、刺身は魚の原形をとどめていないのでまだ料理らしいが、生きた魚をそのまま飲み込むに至っては、生ものの極致と言えよう。
 シラウオ、いさざの踊り食いの類である。九州の有明海、広島の音戸の瀬戸などでシラウオを、北陸は小浜でいさざ(シロウオ)の踊り食いを食った。桜の季節になると必ず思い出す感触(あえて味とは言わない)である。
 シラウオとシロウオは、同じように踊り食いをされ、ちょっと目には似ているが全く違う。シラウオはキュウリウオ目シラウオ科だが、シロウオはスズキ目ハゼ科の魚。前者は平らな体をしているが、後者はハゼ科と言われるだけあって、ハゼのようにズンドウ型だ。
 もう20年ぐらい前のことであるが、小浜市で食べた(飲んだ?)シロウオは印象に残っている。『すし政本店』という親子三代でやっていた店だった。店の真ん中に80歳にはなろうかと思われる禿げ頭のおじいさんが陣取り、カウンターの中では息子と孫が威勢よく寿司を握っていた。
 「小鯛のすずめ寿司」などで飲んでいたが、カウンターの隅の容器の中で勢いよく泳ぐ小魚の群れが気になり、「あれは何か」と聞くと、件(くだん)のおやじは満面笑みを浮かべて「よくぞ聞いてくれた!」とばかり説明を始めた。
 「あなたはこれを白魚(シラウオ)と思っているかもしれないが、これはシロウオだ、この地方ではいさざと呼び、漢字で魚ヘンに少と書く。3月1日から4月の20日の間にとれるが、天候の関係などで実際にとれるのは10日間ぐらい。あなたはよい時に来た。ぜひ召し上がれ」
 こうまで言われて注文しないわけにはいかない。醤油汁の中を勢いよく泳ぐいさざを、必死になって飲み込んだ。口に入れようとすると敵も生きもの、ピチピチ跳ねて逃げようとする。それを無理やり口で追いまわし、シャツを醤油だらけにしながら、数十匹のいさざを何とか飲み込んだ。
 酒は、小浜の銘酒「わかさ富士“おやじ”」を飲んだが、酒の味どころではなかった。ただ、あの喉を通り抜ける不思議な感触だけは今も残っている。はたして「酒の肴」に加えていいか疑問はあるが、この時期に酒を飲むと必ず思い出すから、肴からは外せない。満開の桜に免じてお許しを。

  
        いさざ(ハクレイ酒造中西蔵元フェイスブックより)
       
         芦花公園のさくら

 


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