旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

平穏に今年も暮れて行く … 「永遠」は無理でも、「そのままでいいよ」

2012-12-31 10:54:15 | 時局雑感

 

 新年を迎えるための私の数少ない年中行事は、ガラス拭きと掃除機かけ、それに門松の飾りつけとカレンダー張り、最後に庭の落ち葉掃除だ。幸いにも29日が晴れてくれたので、ガラス拭き、掃除機、門松を済ませ、今朝、カレンダーを張り替えたので、後は庭掃除が残るだけだ。
 こうして、毎年同じことを繰り返して正月を迎える。この繰り返しこそが平穏を実感させる。

 23日は、これまた恒例の「高田エージ超最高的クリスマス」というコンサートに、吉祥寺の曼荼羅まで出かけた。息子夫婦がギターとピアノで出演するからその応援も兼ねている。ここ5年続いている。
 このコンサートでは、高田エージさんが自作の歌を数多く歌う。毎年同じ歌だ。私はその中の『永遠だったらいいなあ』と『そのままでいいよ』という歌が好きで、ほとんどその二つの歌を聴くために毎年通う。
 この二つの歌については何度も書いてきたので(特に2008年1月13日と15日)、詳しくは書かないが、若者の心の揺れが良く出ていて、なかなかいい歌だと思う。
 「そのままでいいよ そのままのお前が一番いい …」とエージさんが歌う歌を皆んなしんみり聞く。そして最終曲は、「強くなりたいと思った夜 守りたい人が出来たとき 暗闇なんか怖くないさ キミが笑えばうれしい」と歌い、それが「永遠だったらいいなあ」といつまでもレフレインを繰り返す。聴衆とともに……。ただそれだけ、毎年同じだ。

 高田エージ 
  首藤潤

 落語ファンは、最後のオチまで知り尽くしたお目当ての落語家の話を聞きに行き、その知り尽くしたオチで大笑いして帰る。歌舞伎ファンは、これまた知り尽くした内容を演じるのを見て、その役者のミエを切った瞬間をとらえて「〇〇屋!」と声をかける。知り尽くしているからこそできる声掛けだ。それをみんな、何年も続けてきているのだ。
 いずれも壮大なマンネリズムである。もちろん、それぞれは同じに見えて微妙に異なるだろう。しかし人は、その差よりも同一性に安心と平穏を感じる。
 今年もいろいろあったが、同じことをして新年を迎える。きっとこれまでと同じ新年が来るだろう。この平穏を永遠に望むのは無理だが、とりあえずそのままでいいよ。
 みなさん よいお年を

     


今年を振り返る … さわやかな印象を残した文化・スポーツ

2012-12-30 11:06:36 | 文化(音楽、絵画、映画)

 

 文化の面で今年の記憶に残るのは、山中伸弥教授のノーベル賞受賞であろう。若くて世にいうイケメン、何よりもそのさわやかな言動や立ち居振る舞いが、従来のノーベル賞と違う印象を庶民の間に残したのではないか?
 私にとっても、生理学・医学賞として授賞対象となったiPS細胞による網膜再生が、早く完成しないかと期待している身近な存在だ。

 「さわやか」といえば、スポーツ界にさわやかな話題が多かった。何と言ってもロンドンオリンピックにおける日本チームの活躍だ。38個と過去最高のメダルを獲得、しかもその多くを団体競技で稼いだのが良かった。
 中でも「なでしこジャパン」の銀メダル獲得は、さわやかさの最たるものであった。いつの間にかあのようないいチームが育ち、世界に負けない強さを培ってきていたのだ。また「卓球女子」、「「バレーボール」、「バドミントン」、「アーチェリー」などで団体の強さを発揮した。日本女性の面目躍如たるものがあったといえよう。
 男子も負けてはいなかった。水泳チームの頑張りが目に残る。ここでも、個人競技も頑張ったが、男女メドレーリレーに見られるように団体で強さを発揮した。
 金メダルこそ少なかったが、そのいずれもがさわやかな印象を世界に残した。

 わが家の文化の話題は、娘が主宰するミャゴラトーリというオペラ創作集団の公演だ。7月に『秘密の結婚』の2日間公演を打って、一応の評価は受けた。来年は『セビリアの理髪師』をやり、再来年は、オケ・合唱つきで本格的な『ボエーム』に取り組みたいと、今から構想を練っている。
 金食い虫のオペラは、多くの方々のご支援に頼るしかない。幸いにも、たくさんの方々のご厚意で「ご支援者の会」を発足させることができた。そのご厚意に報いるためにも、来年は頑張りどころであろう。


今年を振り返る … ボルト落ちて昭和は遠くなりにけり

2012-12-29 15:20:28 | 政治経済

 

 今年もたくさんの事故があった。昨年の原発事故のような大きなものはなかったが、日日のニュースに交通事故や爆発事故はつきものであった。その中でもっとも衝撃的な事故が、笹子トンネルの天井剥落事故であった。原因は止め具であるボルトが抜け落ちたことにようようだ。

 人類は、木を組み立てたり石を積み重ねて住居を作り、また様々な建造物を作ってきた。やがて鉄を使い始め、釘を生み出して木造建造物は強さと大きさを広げ、ボルトによって石造や鉄鋼の建造物を飛躍的に拡大してきたのであろう。
 戦後日本の高度成長を象徴するモニュメントとして、新幹線と高速道路が目に浮かぶが、これもセメントと鉄鋼をボルトで繋ぎ止めて作り上げられてきたのだろう。
 そのボルトが、錆びたのか寿命が来たのか知らないが抜け落ちて、昭和後期の経済成長の象徴である高速道路トンネルの天井が崩落した。昭和の神話が一つ崩れ落ちた感を抱いた。

 表題に掲げたザレ句(季語もなく俳句ではない)は、お分かりの通り、中村草田男の名句「降る雪や明治は遠くなりにけり」を借用させてもらったものである。中村草田男はこの句を昭和6年に作ったようなので、明治を去ること20年を経て明治を懐かしんだのだろう。
 今年も暮れようとしているが、すでに昭和から24年が経つ。その大半は、失われた20年とか平成不況と呼ばれて暗い。善悪は別としてあの輝くような高度成長時代とは比すべくもないが、今、その高度成長のシンボルが一つ崩れ落ちた。
 それは日本に、新たな価値観に立った生き方を示唆しているように思える。ところが、ちょうどそのとき生まれた自公安倍政権は、再び公共事業に何百兆円も投じようと意気込んでいる。遠くなった昭和を再び呼び戻そうというのだろうか?


今年最後の病院通い … しかし気になる老人医療費

2012-12-26 20:18:46 | 時局雑感

 

 今日は目の検査のための東京医大病院と、歯の治療のための赤羽歯科に連チャンで行ってきた。これで今年の病院通いも終わったが、思えば今年は随分病院に通った。
 昨年春脳梗塞に襲われて以来、血液サラサラ薬を飲み続けているので、月に2回は薬をもらうために近所の柴本内科に通う。ここ一年八か月、何も起こっていないが、前科者としては何が起こるかわからないので、この「薬もらい通院」は死ぬまで続くのだろう。
 目は、これまた老人病の最たるもの「加齢黄斑変性」で、東京医大に1,2か月毎に通っている。その上しばらくサボっていた歯の治療が加わって、今年は病院オンパレードとなった。目も歯も直接命に別状ないのだろうが、80年近く使ってきたものは手入れもしないでは役に立たぬ。

 つまり、いずれも老人医療というやつだ。人生50年の時代にはとっくに死んでいた者が、元気に生きているので生じる医療だ。数日前に書いたように、今年は結構たくさんの旅をした。秋田から九州まで、また川(四万十川)から山(白馬五竜や尾瀬)まで歩いた。旅行カバンにいろんな薬をツメ込みながら旅をするのも、現代老人現象の一つかもしれない。

 ただ、心配なのは医療費だ。一応は元気な老人が、その元気を発揮するために医療をつづけながら様々な生活を楽しむ。ますます元気になって寿命は延びる。それに医療費は拍車をかける。その財源は何処からどのようにして生み出されるのだろうか? 
 これまで働きつめて相当な社会的蓄積をしたので、その程度の富は残してきた、と考えていいのだろうか? 日本は世界3位の経済大国で、それは確かに今の老人たちが築き上げたのではあるが…?


今年を振り返る … 政治経済

2012-12-24 11:03:20 | 政治経済

 

 この分野では、長引く不況からの回復、特に不正規雇用を含む貧困と雇用促進問題、消費税増税の是非、再稼働を含む原発問題、TPP問題、震災復興、領土問題など問題は山積している。そして民意は、暮れの総選挙に集約されたといえるのであろう。

 総選挙の結果を、比例区の得票数でみると以下の通りとなる。(単位百万)
 いわゆる既存政党たる5党は、前回比で、民主△20,2、自民△2.2、公明△1.0、共産△1.2、社民△1.6と軒並み減少した。その合計減少26.2が、いわゆる第三局と呼ばれる維新へ12.3、未来へ3,4、みんなの党2.2と、合計17.9が第三局に流れ、残る8.1は第三局も飽き足らず棄権に回ったのである。大まかに言えば、民主党の失政にがっかりして20百万が離れ、うち12百万が第三局に期待をつないだが、それもあきらめた8百万は棄権したといえよう。

 この政治不信からくる棄権の増大は、戦後最低の投票率となって表れた。前述したように、深刻な問題を数多く抱える日本の現状からみると、極めて残念と言わざるを得ない。
 しかも、小選挙区制という特殊なからくりから、比例では票を減らした自民党がそれでも第一党であることから「小選挙区総取り」となって300議席近くを取った。各紙が報じる「4割の票で8割の議席を占めた」のである。増大した棄権槽を含め、民意は正確に反映さているとは言い難い。

 この結果には胸を痛めている。今後小選挙区制でいいのか、という選挙制度の問題が浮上してくるだろう。合わせて、その結果生まれた「自公三分の二政権」に、国民は相当な注意の目を向けなければならないだろう。
 曰く、憲法改正、集団的自衛権容認、公共投資200兆円をはじめとした旧来型政治への回帰、などなど、来年へ残す課題は深刻で数多い。


冬至 … カボチャを食べて柚子湯に入る

2012-12-21 13:10:32 | 時局雑感

 

 今日は冬至。昨夜の食卓にカボチャの煮付けが添えられていた。私が今日は忘年会で、家で夕食を食べないことを知っているワイフの、一日早い配慮であった。

 日本にはいろいろな風習があるが、冬至にカボチャを食べるのもその一つ。小泉武夫氏が三菱UFJリサーチ&コンサルテキングのdaily REPORTに『食を想う』という投稿を連載しているが、12月19日付で「冬至とカボチャ」について書いている。それによれば、カボチャは「野菜がほとんどとれなくなる時期の貴重な栄養食品」で、糖質、ミネラルなどを豊富に含み、中でもビタミンAの含有量は抜群と書いてある。このビタミンAは「動物の成長、皮膚の粘膜組織の保護、視力の正常化などに関係するビタミンで、人間にとって極めて重要なものである。寒く厳しい冬の一日。日は短くなり、目は疲れる時期でのカボチャ料理は、渡りに船といったところであり、体が要求する成分を効果的に補給してやるのには誠に理にかなった知恵なのである」としている。
 だれがいつごろからこのようなことを始めたのだろうか? 先人の知恵にはただ驚くのみ。

 これから会社の忘年会に出かけるが、帰宅すればおそらく、例年のように柚子湯が待ってくれているだろう。昨夜はカボチャを食べたので今日は柚子湯に浸かり、邪気を払い、すっかり温まって、冬を乗り切る健康を取り戻そう。


今年を振り返る … 平穏な生活

2012-12-20 20:21:58 | 時局雑感

 

 今年も余すところ11日となった。今年はどんな年だったのか?
 一言でいえば平穏な一年、というべきか? 昨年は、オーストラリア旅行中に日本が東日本大震災に見舞われたり、その翌月には軽く済んだとはいえ脳梗塞に襲われたり、かなり激動感があったが、それに比べれば平穏であったのだろう。

 海外旅行にも行かなかった。しかし国内はかなり旅した。夏から秋にかけて予て行きたいと思い続けていた四つの旅を実現した。7月、北アルプスの一角「白馬五竜高山植物園」を訪ね、あの「ヒマラヤン・ブルー」に会ってきた。8月には秋田羽後町の「西馬音内盆踊り」を二夜たのしみ、10月には初めて「尾瀬」(燧裏林道)を歩いた。11月には高知の旧友を訪ねて、待望の四万十川の中流をゆっくりとドライブした。いずれも素晴らしい思い出として残っている。

 酒も飲んだ。上記の旅でもその地を蔵を訪ね、その地の酒をたくさん飲んだ。どのくらい飲んだかは記しようもない。齢は重ねるが酒量の減らないのが悩みだ。
 一つ珍しい酒としては、四合瓶3万円の酒も飲んだ。『獺祭“磨きその先へ”』という酒だ。一人ではとても飲めないので、7人で金を出し合って飲んだ。それにしても、「贅沢もいい加減にせよ」と言われそうなので、それ以上のことは書かない。

 5月には、郷里臼杵で「臼杵高校喜寿同窓会」があった。光栄にも同期を代表して卓話を仰せつかったので、『旅のプラズマこぼれ話』と題して話した。今となっては記憶に残る出来事だ。

 こう見ると、決して平穏ではなかったのかもしれない。77歳の年も週2日勤務をこなしてきたし、特に病気もしなかった。その意味では平穏であったと思うのだが、例年に比べて多彩な年であったともいえる。それを平穏な年と言えること自体、有難いことと感謝すべきだろう。


民意は動いたのか? … 総選挙の結果について

2012-12-17 17:32:43 | 政治経済

 

 予想はしていたがそれを超える結果となって、いささか驚いている。何と言っても、自衛隊を軍隊にして集団的自衛権を行使する、その狙いを込めた憲法改悪を公約とした自民党が300近い議席を取り、その党に協力を続けてきた公明党と合わせて3分の2を占めたことだ。加えて改憲旗頭の石原慎太郎氏率いる維新の会なるものが第3党の54議席を占めたことだ。
 しかもそれを、「民意は動いた」とする風潮が恐ろしい。

 しかし、民意は本当に動いたのだろうか? 
 まだ正確な結果を手にしてないので分らないが、選挙民が自分の支持する政党を選ぶ比例代表選挙区における自民党の得票率は、27.6%で、前回(09年の自民党大敗の選挙)の26.7%と大差ない。得票数に至っては1662万票で、投票率の関係で一概に言えないが、自民党が大勝したあの小泉郵政改革選挙(05年)の2588万票にはるかに及ばない。それどころか前回の1881万票にも及ばないのだ。(以上、数字は12月17日毎日新聞一面記事時より)
 はたして、民意が自民党に動いたと言えるのだろうか?

 もちろん民意は動いた。3年間の民主党政治にノーを突きつけたということだ。あの未熟で失政をつづけた民主党にノーを突きつけたのは当然だろう。問題はその票がどこに行ったかである。以上みたところでは比例区(それ政党を選ぶ選挙!)では自民党に行っていない。
 問題は小選挙区である。
 この選挙区では、何人候補者がいようが一人だけを選ぶ。トップになった人以外に投票した票はすべて死票になる。それでも誰かに投票しなければならない。民主党離れを起こしている選挙民は、とりあえず民主党以外で名前の知れた自民党候補者に投じたのではないか? 第三極も、離合集散、野合集団ばかりで、何が何だかわからないから…。
 日経新聞によると、今回は「支持政党なし」層の32.4%が自民党に投じ民主党を逆転したとある(17日付朝刊2面)。一度逆転してトップになれば全て勝てるのが小選挙区制だ。9人が乱立した東京1区では、得票率29.3%の自民党候補者が当選し、残る約70%の票は死票となった(17日付日経新聞2面)。結果、自民党は小選挙区で43%の得票率で79%の議席を獲得したという(前掲毎日新聞)。4割の得票で8割の議席を獲得するのだ!
 このような選挙制度は民意の動きを本当に反映しているのであろうか?

 どうもこの辺に自民圧勝のカラクリがあるのではないか?(それは前回の民主党も同じであるが)明日から選挙結果の詳報が伝えられるだろうから、よく分析してみてみよう。


むつみ会第二次忘年会 … 門前仲町の「ちゃんこ鍋」

2012-12-16 16:03:37 | 時局雑感

 

 むつみ会としては11月の下旬に暮れを待ちきれず忘年会を実施したのだが、それでは飽き足らず、本番12月を迎えて第二次忘年会というあまり例のない忘年会を開くことになった。昨夜それに参加した。場所は門前仲町「三重ノ海ちゃんこ鍋」…、やはり下町に来ると本物の忘年会の匂いがする。

 このところ新聞やテレビで、亡くなった小沢昭一氏の芸のすばらしさを懐かしむ報道が続いているが、わがむつみ会のメンバーの一人Mさんは、小沢氏と麻布中学の同級生。その告別式に立ち会い、そこからこの忘年会に駆けつけてくれた。
 いつもはにぎやかで話の弾むMさんも、昨夜は何か口数が少なかった。若き頃を懐かしむように、「フランキー堺も中谷昇も既にいない。小沢昭一も逝ってしまった…」と寂しげに語った。
 そもそも忘年会というのは賑やかな雰囲気があるが、暮れという時節も手伝って何かさびしい行事だという印象がある。一年を振り返ると誰か亡くなった人がいて、振り返る一年は楽しいことより哀しいことの方が多い。今の日本の状況を反映しているからなのか…?

 それらを、大いに飲み大いに食べて吹き飛ばすのが忘年会なのだろう。そしてそれにピッタリの食べ物が「ちゃんこ鍋」かもしれない。私は初めて「意識的に」ちゃんこ鍋なるものを食べたような気がする。何度か食べたが、初めて落ち着いてすべて食べた。そして何とも美味しいものだと思った。
 まず、だし汁に肉団子を入れ、じっくり煮込みながら野菜を入れていく。 豆腐やシイタケなどを加えていき、最後にしゅんぎくなどをのせて出来上がり。

     
  

  
 「いやあ~、大満足でした」 (門前仲町の駅前にて)


日本は何とかなるか?

2012-12-15 12:55:00 | 政治経済

 

 選挙結果の予想などで、日本の将来を憂えている毎日であったが、いくつかの心温まる出来事が相次いで起こった。
 今月の初め頃のことだったか、定期検診で病院に行ったワイフから、財布を紛失した事件の報告があった。実は病院の支払いを済ませて近くの薬局に行って薬を受け取り、支払いをしようと思ったら財布がない。あの病院の椅子に落としたのだと気づき急いで引返したが、座った椅子には見当たらない。受付でそのことを話すと、警備係のところに保管されていることが判明。ワイフの次に座った患者さんが、財布を見つけそれを受け付けに届けてくれたらしい。
 何万円かを奪うために人を殺す時代にあって、落とした財布を届けてくれる人の居ることにほのぼのとしたものを感じた。

 ところが一昨夜、ワイフと娘と食事に出たところ今度は娘が財布を失くした。殊勝にもタクシー代を払おうとした娘が財布のないことに気付いた。しかし、家に置き忘れたに違いないと楽しく食事を済ませた。
 家に帰った娘は部屋をくまなくさがすが財布はない。どこで失くしたか記憶もない。その夜のうちにキャッシュカードの支払差し止めを銀行に電話するなりして、娘はすっかりしょげ込んでいた。

 翌日、郵便局などの紛失手続きのためアルバイト先に1時間の遅刻通知をして、文無しの娘はワイフから5千円のカンパをもらってしょんぼり出かけた。
 ところが、アルバイト先で仕事をしていた娘に、キャッシュカードを組んでいた某銀行から電話が入った。それは、「あなたの財布を某タクシー会社が保管しています」という内容だった。
 前夜乗ったタクシーの中に落としていたのだ。それを見つけた運転手は、中のキャッシュカードを見てその銀行に電話をかけてくれたらしい。ちょうど紛失届の通知があったばかりのカードであることから、銀行は住所を調べて電話をくれたという。
 私は、信じがたい思いでこの話を聞いて、心の中を熱いものが通り過ぎた。

 この話には続きがある。郵便局の紛失手続きを済ませ、1時間遅れでアルバイト先に到着すると上司が,財布の紛失でしょげ返った娘を慰めてくれて、「1時間の遅れは取り消して定刻から勤務したことにしてあげます」と告げられたという。
 どうしてかくも美談が続くのだろう! 元気に帰宅した娘はカンパをくれたワイフに5千円を返そうとした。それに対しワイフは、「返さなくていいから、タクシー会社と上司の方にちゃんとお礼をしなさい」と告げていた。

 日本の将来を憂うばかりの私に、娘はポツリと「…日本は何とかなるんじゃない?」と言った。そう甘くないかも知れないが、希望だけはもち続けよう、と思う一日だった。


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