7月26日のNHK衛星第一放送の「未来への提言」(夜10時)に、ロシアの大指揮者ゲルギエフが登場した。氏が若くから芸術監督を務めるサンクト・ペテルブルグのマリインスキー劇場で、音楽のみならず、広く芸術、政治、未来についての思いを存分に語った。
そのいくつかを書き留めておく。
・ロシアは原油と天然ガスに力を持つ国と思われているが、ロ
シアの力は文化と芸術にこそある。ロシア人は、音楽、文
学、舞踊などあらゆる分野で豊かな芸術を育ててきた。
・芸術で重要なことは個性だ。たとえば指揮でも、腕を振り指
を動かして音を引き出す指揮者もいれば、体をほとんど動か
すことなく素晴らしい音を引き出す人もいる。それぞれの個
性が重要だ。
・政治、とくに国際間の関係はバランスが重要だ。ロシア、ア
メリカ、アジア、ヨーロッパなど、それぞれの存在とバラン
スが必要。この劇場でも、ロシア人が歌い、フランスの音楽
が演奏され、ドイツのワグナーが演じられ、また、イタリア
の歌手が歌ってきた。
最後に、氏の故郷に近いチェチェンでの学校占拠事件に深い悲しみを表し、
「なぜあのような悲惨なことが出来るのだろうか?
人は愛することが出来る。親を愛し、子供を愛し、
音楽を愛することが出来る・・・」
と語り、色紙にその思いを書いて、「未来への提言」とした。
『愛すること。 憎まないこと』
その語り口と風貌には、音楽家というより哲学者の風情が漂っていた。
私が、サンクト・ペテルブルグのマリインスキー劇場を訪れたのは、2001年の6月であった。そこで、ゲルギエフが指揮するオペラ『オテロ』を観た。
改めて、美しいマリインスキー劇場と、ゲルギエフの重厚な『オテロ』を思い出した。
マリインスキー劇場の幕間に。サロンでくつろぐワイフ。