スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

自殺の方法&書簡四十

2016-02-06 19:04:08 | 歌・小説
 先生は自ら生命を断つことを決意したとき,自分の死が奥さんに対して残酷な恐怖を与えることを避けることを同時に決意しました。これは『こころ』の最終章の中にある通りです。そしてこの残酷な恐怖というのが,先生の場合には血の色と直結しています。これは当該部分のテクストを読めば明白であるといっていいでしょう。
                                    
 奥さんは血の色に残酷な恐怖を感じるであろうと先生が推定したのは,先生自身の過去の経験と直結しているというのが僕の考え方です。すなわち学生時代にKが先生を第一発見者とするべく部屋を仕切っていたを少しだけ開けて自殺したときの血の色が,先生の恐怖感に直接的に結びついていると僕は考えるのです。そのとき先生が感じた恐怖というのは,単に物理的なものに対する恐怖であったとはいえないと僕は思います。ということは奥さんも先生の血の色を見ることで,先生が感じたのと同じような恐怖を感じることになると先生は想像していた可能性もあるでしょう。
 そこの部分は判然とはしませんが,先生はこの種の恐怖を奥さんに与えないために,血の色を見せないで自殺するのだと宣言しています。それどころか奥さんには頓死したと思われたいという胸の内を明かしています。つまり自殺なのだけれども,事故死でもしたかのように思われたいといっているのです。ですから先生はそのような方法で自殺したと考えるのが妥当でしょう。
 私と先生は鎌倉の海で出会います。上の三で私は先生を追って海に入ります。すると先生が手足の動きを止めて仰向けのまま波の上に寝ます。この先生の姿が水死体を連想させるのはいうまでもありません。この水死体は血の色を見せず,かつ事故死であると推定することもできます。つまり先生が決断した自殺の方法ときわめて合致しているといえるでしょう。
 先生は海に入って自殺した。でもそれは事故死のように思われた。『こころ』の下に続くストーリーとして,大いにあり得そうに僕には思えます。

 イエレス書簡三十九に対して,補完的な説明を求める手紙をスピノザに送りました。それに対してスピノザが返答したのが書簡四十です。
 この書簡にはみっつの主題が含まれています。この理由は,この書簡がイエレスからの別々の2通の書簡に対してまとめて答えたものだからです。現状では先にイエレスが出した手紙への答えの部分,書簡でいうと最初のふたつの主題に関しては関係ありませんので,最後の主題についてだけここでは説明します。ただしこれも僕がここでいうのはスピノザが何をいっているのかということだけであって,その内容が正しいのか間違っているのかに関する判断ではありません。僕はそれについて判断不可能であるのは,書簡三十九の場合と同様です。
 この部分に対するイエレスの質問というのは,書簡三十九について,望遠鏡のレンズの形として円が最も優れているということを,もっと詳しく説明してほしいというものでした。ですがスピノザにはこのことは簡単だったようで,補充的な説明というのは少ししか加えていません。
 望遠鏡でたとえば星を観察するという場合,その星から望遠鏡の前方のレンズに届く光線というのが,平行になっている必要があります。ですがこれはあくまでも理論なのであり,実際には平行ではありません。星は観察者からきわめて遠方に実在するので,望遠鏡のレンズは,星からみれば点であるとみなせます。なので実際には平行ではない光線を平行とみなせることになります。いい換えれば望遠鏡を実際に製作する際には,すべての光線がレンズに対して平行でなければならないという理論は無視してよいことになります。
 ただしそれを無視することができるのは,レンズが円形であるからです。円形であると光線がレンズを通過するときに,同じ数の焦点に集中するからです。つまりそのような特質を有するような形状というのが,望遠鏡のレンズの形状として最適なのです。そしてそういう特質を有する形状は円だけなのです。円弧は一点から発する光線が直径上のほかの一点に必然的に集中させる特質を有するからです。これは観察対象のほかの点から来る光線についても同様です。

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