スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部定理三二備考&『スピノザー読む人の肖像』

2024-01-27 19:09:35 | 哲学
 第三部定理三二備考の冒頭部分というのは,次のようになっています。
                                   
 「このようにして,人間の本性は一般に,不幸な者を憐れみ幸福な者をねたむようにできていること,しかも(前定理により)他人の所有していると彼らの表象するものを彼らがより多く愛するに従ってそれだけ大なる憎しみをもってねたむということが分かる」。
 前定理といわれているのは第三部定理三二のことです。
 この部分ではねたみinvidiaが憎しみodiumと関連付けられていますが,第三部諸感情の定義二三にあるように,ねたみは憎しみの一種なので,それが憎しみと関連付けて説明されることに不自然なところはないと解さなければなりません。すなわち僕たちの現実的本性actualis essentiaは一般的に,幸福な人間,とくに自分が手に入れていないような幸福を手に入れている人間のことを憎むようにできているということになります。ただしここで幸福といわれているのは,他人をねたむ人間からみたときの幸福なのであって,ねたまれる人間からみられる幸福ではありません。つまり,Aという人間がBという人間が入手していない何かを入手しているからといって,Aは必ずしも幸福であるとは断定できませんが,BがそれによってAは幸福であると表象するimaginariのであれば,BはAのことをねたむ,あるいは同じことですが憎むのです。
 一方,憐れみは憐憫commiseratioのことであり,第三部諸感情の定義一八は,憐れまれる人の観念ideaを伴った悲しみtristitiaと読むこともでき,その限りでは第三部諸感情の定義七によりこれも憎しみの一種です。ただし,実際には憐憫は悲しみの一種ではあっても憎しみの一種ではありません。この定義Definitioでいえば,僕たちが一般的に憎むのは害悪を与えたものに対してなのであって,そうした害悪を与えられたと表象する他人,つまり憐れまれる人に対してではないからです。

 9月27日,水曜日。この日に1冊の本を読み終えました。國分功一郎の『スピノザー読む人の肖像』という本です。2022年10月22日に岩波新書から発刊されたもので,僕が読んだのは同年12月5日に出た第2刷です。売れ行きがあったので増刷されたということで,内容に変化があるわけではありません。
 國分の本を読むのは3冊目です。最初に読んだのが『スピノザの方法』で,これは専門書といえる内容です。次に読んだのは『はじめてのスピノザ』で,これは入門書でした。この本はどちらかといえば『はじめてのスピノザ』の方に近い内容ですが,入門書といえるようなレベルは少し超えていると思います。ただ,『スピノザの方法』を読みこなすためには一定程度以上のスピノザの哲学に対する知識が要求されるのに対し,この『スピノザー読む人の肖像』は,そこまでの知識を要求されているわけではありません。むしろ入門書程度の知識があれば十分に読みこなすことができるでしょう。そういう意味でいえば,『はじめてのスピノザ』でスピノザについて基礎的な知識を得た人が,さらにステップアップするために『スピノザー読む人の肖像』も読むということが念頭に置かれているような気がします。入門書を書いたのと同じ人がそこからステップアップすることができる本を書いているわけですから,この順番で読んでいけばすんなりと國分のいわんとしていることが入ってくるのではないかと思います。なので『はじめてのスピノザ』を読んだという人に対しては,強く推奨したい本です。
 序章を除くと7章からなっていて,それぞれの章にスピノザの書物が割り当てられています。第一章が『デカルトの哲学原理Renati des Cartes principiorum philosophiae pars Ⅰ,et Ⅱ, more geometrico demonstratae』,第二章が『知性改善論Tractatus de Intellectus Emendatione』と『短論文Korte Verhandeling van God / de Mensch en deszelfs Welstand』,第三章が『エチカ』の第一部,第四章が『エチカ』の第二部と第三部,第五章が『神学・政治論Tractatus Theologico-Politicus』,第六章が『エチカ』の第四部と第五部,第七章が『ヘブライ語文法綱要Compendium grammatices linguae hebraeae』と『国家論Tractatus Politicus』です。スピノザの人生について何も語られていないかというとそういうわけではなく,これらが書かれた当時の状況なども織り込まれています。
 明日からは僕が気になったところを考察していきます。

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