スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

現実的本性と感情の模倣&訪問前

2020-08-15 19:10:09 | 哲学
 羨望の性質は,羨望する相手に対する同類意識の高さと,羨望する事物に対する入手の困難性の高さが,羨望そのものを強化するということでした。このことは,羨望が欲望cupiditasの一種であるということと,人間は感情の模倣imitatio affectuumをするものであり,同類意識が高くなればなるほど感情の模倣の度合も高くなるということに起因しています。ところで,人間の現実的本性actualis essentiaに属するこれらの特徴から導き出すことができるのは,羨望という感情がどういった性質を有するのかということだけではありません。もっともそのことは,第三部諸感情の定義一により,欲望というのが受動的である限りにおいての人間の現実的本性であるということに注意すれば当然といえるでしょう。第三部定理七によりコナトゥスconatusもまた現実的に存在する人間にとっての現実的本性ですが,第三部定理六から分かるように,このことは人間の現実的存在の全般にわたるような現実的本性だからです。なおかつこの現実的本性は,第三部定理九により,僕たちが事物を十全に認識するcognoscereのか混乱して認識するのかということと関係なく成立するのです。
                                   
 一方,感情の模倣についていえば,それは確かに同類意識が高くなれば高くなるほど強化されるのですが,同類意識がないとしても生じる現象です。これは第三部定理二七から分かるでしょう。したがって僕たちは,単にある人が何かを欲望しているというように表象するimaginariなら,自分もその何かを欲望するようになっているのです。ところで,第三部定理三二は,僕たちが欲望という感情を抱いているときにこそ意味を有するといえるでしょう。ここでいわれているただひとりしか所有し得ないものについて,ある人がそれに対する欲望を有していないと仮定するなら,別にそのものをだれが所有しようと構わないということになるからです。もちろんこの場合にも感情の模倣が生じますから,実際にはだれかが何かを所有しようとしていると表象するなら,自分もそれを所有しようとするのですが,この場合には感情の模倣によって欲望が生じているのですから,この定理Propositioが欲望を有している場合にのみ意味を有するということには変わりはありません。
 そこでこれらのことを利用して,羨望とは別の現象についても考察していくことにします。

 パリを離れたライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizは,まずロンドンに向いました。ここでオルデンブルクHeinrich Ordenburgと面会しています。オルデンブルクはイギリスの王立協会の情報収集係のような役割をしていました。1670年の夏,つまりライプニッツがまだパリに移動する前のドイツにいた時代から,ふたりの間では書簡のやり取りが開始されていました。この面会のおりに,ライプニッツはスピノザからオルデンブルクに宛てられた書簡のいくつかをみせてもらい,それをメモしておいたようです。オルデンブルクとスピノザの間の書簡は,一時的に中止状態になっていて,再開されたのは,パリに行く前にロンドンに立ち寄り,オルデンブルクやロバート・ボイルと面会したチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausの仲介によるものでした。その後でチルンハウスはパリでライプニッツと出会っていますから,このときにライプニッツが見せてもらった書簡というのは,1675年から再開された書簡が主だったものだったのではないでしょうか。
 この後でライプニッツはオランダに向い,まずアムステルダムAmsterdamに立ち寄りました。ライプニッツがシュラーと会ったのは,間違いなくこのときが初めてであったと思います。ただ,チルンハウスを介してふたりは互いの存在を知ってはいましたから,おそらく何らかの仲介があったものと思われます。ライプニッツがオランダにいった最大の目的は,デンハーグのスピノザを訪ねることだったのでしょうが,その前にライプニッツが会ったのはシュラーだけではありません。『ある哲学者の人生Spinoza, A Life』では,シュラーのほかには,フッデJohann HuddeとレーウェンフックAntoni von Leeuwenhookの名前があげられています。また『宮廷人と異端者The Courtier and the Heretuc : Leibniz,Spinoza,and the Fate of God in the Modern World』では,そのほかにマイエルLodewijk MeyerとイエレスJarig Jellesの名前が出ています。『ある哲学者の人生』の方でも,実名は出されていませんが,スピノザの友人たちのいく人かと会ったとされていますので,その中にマイエルとイエレスが含まれている可能性は高いでしょう。スピノザの友人というのをどういう範囲で規定するのかは難しいのですが,たとえばフッデをスピノザの友人と規定しないのであれば,スピノザの友人といえる人はそう多くない筈で,マイエルやイエレスはそこに含まれなければならないからです。

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