スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

使嗾&作用の決定

2015-02-27 19:25:56 | 歌・小説
 ドストエフスキーとゲーテの稿で紹介した,『ファウスト』のメフィストフェレスによる老夫婦殺害と,『悪霊』のフェージカによるマリヤ殺害は,単に火事だけが一致しているわけではなく,他者の欲望を犯人が代行するという形式の殺害であった点でも一致しています。このように,自分自身の欲望を仄めかすことで他者を唆す効果をあげ,自身の手を汚さず悪事を他者に実行させることによって,自身の欲望を充足させる行為のことを,亀山郁夫は使嗾という語句で表現しています。
                         
 僕は亀山の記述に出会うまで,使嗾という語句を知りませんでした。それどころかこれを「しそう」と読むということすら分からなかったほどです。また,この語句を知った後でも,亀山以外にこれを用いている文章を発見したことはありません。なおかつ,使嗾の嗾という字も,見つけたことがありません。ですから非常に特殊な語句であるといっていいと思うのですが,上述した複雑な状況を,たった一語でいい表すことができるのはとても便利ですから,この特殊な語句を使用していくことにします。
 「父殺し」というのが,亀山によるドストエフスキー文学読解の重要なキーワードのひとつでした。そしてそれと同様に,使嗾も重要なキーワードとなっています。亀山のドストエフスキー読解のうち,純粋なテクスト読解のケースでは,そのほとんどすべてがどちらかのキーワードに関連しているといっていいくらいだと思います。
 ドストエフスキーの小説で,明らかに使嗾が物語上で重要となっているのは,『悪霊』ではなく『カラマーゾフの兄弟』であると思われます。スメルジャコフによるフョードル殺害は,イワンによる使嗾であると読解しないと,テクストの意味が十全に伝わってこないようになっているからです。この使嗾に関しては,いずれ僕の考え方も示すことにしましょう。
 僕はスメルジャコフの父はグリゴーリーであると考えていますので,純粋な意味では「父殺し」とは違うかもしれません。でも,亀山が重視するふたつのキーワードが,ふんだんに盛り込まれた作品だといえそうです。

 第一部定理二八によって十全に説明される事柄があるとします。それを文章命題の形で表現します。それは真偽不明であるとライプニッツは判断することになります。このとき,個物res singularisが存在および作用に決定されることを,ライプニッツならどのように説明するのかという点に,僕はとても興味があるのです。というのは,僕の考えでは,ライプニッツの哲学ではこのことが,きわめて運命的な仕方でしか説明できないからなのです。
 真偽不明の文章命題の例材としては,すでにスピノザとライプニッツが会うという命題を使用しています。ですからここでもそれを使うことにします。ただ,このままの形でこの命題を用いると,作用に決定されているres singularisとは何かということが分かりにくくなります。なので,ライプニッツがスピノザを訪問するという命題に変形しましょう。現実的なことをいえば,これらふたつの命題は等置できるというわけではありません。ライプニッツがスピノザを訪問したところで,スピノザが不在であったり,会うことを拒否したりすれば,ふたりが会うということはないからです。しかしここでは作用に決定されるres singularisを容易に理解できるようにするために置き換えているのですから,このようなことは問題にはなりません。当然のことですが,変形された文章命題においては,作用に決定されるres singularisとは,ライプニッツです。
 次に,スピノザの哲学では,res singularisの存在というのは,二様の仕方で理解されることになっています。そして第一部定理二八は,res singularisの存在がどちらの仕方で理解される場合にも成立すると僕は考えています。しかしここでは,考察の課題との関係から,res singularisが現実的に存在するといわれる場合にのみ絞ります。要するに現実的に存在するライプニッツがスピノザを訪問するという場合を考察するという意味です。第一部定理二八はどちらの場合にも成立するのですから,このように的を絞ってしまっても,何も問題はありません。

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