晴れ、ときどき映画三昧

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「偽りの人生」(12・アルゼンチンなど) 70点

2013-07-18 10:44:39 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・V・モーテンセンの緻密な演技に惹きこまれる。


  

 3才から11才までアルゼンチンで過ごしたヴィゴ・モーテンセンがアルゼンチン映画に出演したサスペンス。監督・脚本のアナ・ビターバーグはこれが初監督。

 モーテンセンはブエノスアイレスに妻と暮らす医師・アグスティンと、北へ30キロ離れたデルタ地帯・ティグレで養蜂を営む双子の兄ペドロの二役を、流暢なスペイン語で演じ分けている。

 性格の違う2人は疎遠になっていたが、久しぶりに出会ったのはペドロがブエノスアイレスのアグスティンを訪ねてきたとき。アグスティンは仕事も8年間暮らした妻との生活も閉塞感を感じていた。ペドロは末期がんで、自分で死ぬ勇気がないのでアグスティンに殺してくれと頼みにきたのだ。喀血して苦しむ兄を見たアグスティンは発作的に殺害して、彼に成り済まして故郷ティグレへ戻る。

 死んだ人間に成り済まして違う人生を送ろうとする物語は幾つかあるが、筆者はリチャード・ギア、ジョディ・フォスター主演の「ジャック・サマースビー」(93)を思い出す。粗野で思いやりのない故人に代わってとても優しいジャックになった主人公を妻だけが別人だと見破り、彼を救うため殺人裁判事件で証言する物語。冒頭で飼い犬が懐かないのを故人の服で臭いを嗅がせるシーンが印象に残っている。

 本作も犬が出迎えるので思い出したのだろう。いくら一卵性双生児でも、所詮親しい人には別人であることは分かること。ペドロになろうとして、なれなかったアグスティンを演じたV・モーテンセンはペドロ・アグスティンとひとり3役を演じたことになる。
 ペドロは裏稼業で誘拐事件の片棒を担いで金を稼いでいた。犯罪に巻き込まれて行くに従い、何もかも無気力だったアグスティンが能動的となっていくのは、本当の自分を探していたからだろう。姿・形だけではなく、ちょっとした仕草や顔つきなどで性格を使い分けるなど緻密な演技は独壇場だ。

 とはいえ、彼の悩みについての描写は突っ込み不足で、自分勝手な男に映っていまひとつ観客の共感を得られない。ひとり三役?を演じたモーテンセンには気の毒ながら、周りのひとに何時バレルかが焦点のドラマとなってしまった。

 脇を固めたのは「瞳の奥の秘密」で好演したアグスティンの妻・クラウディアのソレダ・ビジャミル。本作でも聡明なキャリア・ウーマンぶりで夫を支えているだけに、真相を知ったときの衝撃は如何ばかりだろうか!同情を禁じ得ない。
 ほかでは、一途な田舎娘・ロサを演じた若手のソフィア・ガラ・カスティリオーネの上手さが目立った。

 曇天のデルタ地帯を小舟で行きかう貧しい村で育った兄弟の人生は、<やり直しがきかない人生>を改めて想わせる人間ドラマだ。
 


 
 
  
  


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