晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『ペーパーバード 幸せは翼にのって』 85点

2011-09-11 12:41:34 |  (欧州・アジア他) 2010~15

ペーパーバード 幸せは翼にのって

2010年/スペイン

イキイキして説得力ある登場人物

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

30年代のスペイン内戦時代、妻子を失った喜劇役者と両親にはぐれた少年の絆を描いたヒューマン・ドラマ。監督はサーカス・アーティストでありTV局の社長でもあるエミリア・アラゴン。
国民的サーカス芸人を父に持ち、芸人社会の裏表を肌で感じた彼ならではのオリジナルはフィクションなのに登場人物がイキイキと描かれ説得力がある。
主人公ホルヘは心に傷を負いながら生きる希望を失うが1年振りに劇場に戻ってくる。喜んだのは長年の相方のエンリケ。不屈の精神とリーダーシップのあるホルヘと、繊細で心優しく愛情深い同性愛者のエンリケ。この2人はまるで夫婦のようで孤児のミゲルが現れて3人が疑似家族として絆を深めてゆくさまが微笑ましい。
監督自身が作曲したというノスタルジー溢れる音楽をバックに芸人たちが繰り広げる舞台裏の様子がこの映画の真骨頂。なかでもトウの立った歌手ロシオが魅力たっぷり。メガネなしでは舞台から落ちてしまう一輪車乗り、可愛いが踊りはいま一つのダンサー、犬の曲芸を披露する老夫婦などみんな魅力的だ。<1フランでは暮らせない・・・。>フランコ政権批判を劇中歌で披露するホルヘをマークする政権側。
中盤まで悲喜劇が交錯し、終盤サスペンスへ、ラスト感動のドラマでクライマックスとなる運びは観客を引き込まずにはいられない。
お馴染みの俳優はエンリケのルイス・オマールと歌手・ロシオ役のカルメン・マチぐらいだが、スペイン映画ファンなら主人公ホルヘのイマノル・アリアスはもちろん芸達者な子役ロジェ・プリンセプもご存知だろう。監督の実父ミリキ・アラゴンが何時どんな役で登場するか?とても興味深い。


『紳士協定』 85点

2011-09-10 15:55:52 | 外国映画 1946~59

紳士協定

1947年/アメリカ

タブーに挑んだザナックに先見の明

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

アメリカでこの時代人種問題とくに<ユダヤ人排斥の事実や運動>を取り上げることはタブーだった。製作のダリル・F・ザナックは、ローラ・Z・ボブスンの原作をユダヤ人であるモス・ハートに脚色を依頼、監督にエリア・カザンを指名し映画化に挑んだ。ザナックの勇気と先見の明が評価されアカデミー作品賞を獲得している。
{偏見や差別を目前にして沈黙するのはそれを助長すること}という正義漢溢れるその切り口は鋭く、いま観るとアメリカの恥部を根こそぎ掘り起こし大上段から問題提起していて、その後起きた<赤狩り>に走ったアメリカの危うさを感じざるを得ない。その当事者でもあるE・カザンが監督賞を受賞したのも皮肉な現象である。
物語はNYのリベラルな雑誌に「反ユダヤ主義の記事」を委託された記者フィル・グリーン(グレゴリー・ペック)が自らユダヤ人と偽り体験した8週間を描いている。その間苛めにあった息子を犠牲にし、恋人キャシー(ドロシー・マクガイア)ともギクシャクし<偏見による差別>に挑んだフィル。インテリ社会における「暗黙の協定」ほど陰湿なものはない。いまの日本では<放射能汚染の風評被害>がそれに近い現象を起こしているが、かつての在日外国人など普遍的なテーマである。
G・ペックはこの作品でアメリカの良心として花開きその後も大スターの道を歩むが、15年後「アラバマ物語」で黒人差別問題を言動で正した弁護士役で見事実を結ぶことになる。母親役のアン・リヴイアと同僚アンのセレステ・ホルムの好演が目立つが助演女優賞はS・ホルムの手に。幼なじみのジョン・ガーフィールドなど手堅い脇役陣の演技も見どころのひとつ。
ただラブ・ロマンスとしては中途半端だったのと台詞が説教臭かったのは注文のつけすぎか?


『コン・エアー』 75点

2011-09-03 13:34:54 | (米国) 1980~99 




コン・エアー


1997年/アメリカ






B級にこれだけ金を懸けるハリウッド





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
75点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
75点





「ザ・ロック」の成功で気を良くしたジェリー・マッカイヤーが再びニコラス・ケイジを起用して製作したハリウッド・エンターテインメント。スコット・ローゼンバーグの脚本がスケールが大きく映画化は無理ではと思わせたがCGをそれ程使わず実写でノンストップ・ムービーを作り上げたハリウッドの底力を実感した。
「コン・エアー」とは連邦保安局空輸隊のことで医療緊急事態の出動や凶悪犯の護送に使われ本作では後者。妻に絡んだ酔客を殺害したキャメロン・ポー。8年後仮釈放で出所するがコン・エアーで護送されることになり、名うての凶悪犯と同乗するハメになる。なかでも天才凶悪犯<猛毒のサイラス>、元黒人ゲリラ部隊隊員<ダイヤモンド・ドッグ>は別格で、ハイジャックして南アフリカへ逃亡を目論む。
ポーに扮したN・ケイジは長髪に鍛え抜いた身体でアクションをこなし、定番のボコボコにされるシーンもなくS・スタローンなみのヒーローぶりを見せている。若い連邦保安官・ラーキンを演じたジョン・キューザックが主演でも成立するところだが、個性豊かな凶悪犯を描くことに熱心なあまり地上での活躍が中途半端になってしまった。ハイジャックのリーダー・サイラスを演じたのはジョン・マルコビッチ。ブルース・ウィルスの代役だったそうだが、相変わらずいい味を出していた。個性揃いの犯人達だが、なかでも37人を惨殺した凶悪犯に扮したスティーヴ・ブシェミがレクター博士のパロディよろしく不気味な存在で描かれ楽しませてくれた。
終盤は歯止めが効かないほどエンターテインメント満載で不自然なシーンも多かったが、ケチをつける意味もないほどの派手な展開は「スピード」と双璧。この年のラジー賞を受賞したが、ここまで徹底したB級作品には敬意を表したい。






『その男ゾルバ』 85点

2011-09-02 11:41:26 | 外国映画 1960~79

その男ゾルバ

1964年/アメリカ

ネタバレ

クレタ島で観る男の友情と女の哀れ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

作家ニコス・カザンザキスの体験をもとにした小説を、今年7月亡くなったギリシャの名匠・マイケル・カコヤニスが脚色、自ら製作・監督した。
父の遺産である古い炭鉱を再興するため英国からクレタ島に戻ろうとする作家バジル。ギリシャの港でゾルバという荒くれ男に出会い、彼のアプローチにより炭鉱の現場監督として雇うことに。
生まれも育ちも性格も年齢もまるっきり違う2人。年上のゾルバの言動にいつしか信頼を寄せて行く男の友情ドラマ。
争いが絶えなかったクレタ島はギリシャ正教ながらトルコ・イスタンブル コンスタンディヌーポリ教会下で独特の風習があり、よそ者を寄せ付けない荒々しい土地柄。バジルたちは目立つ存在であり注目のマトとなる。
カコヤニスはモノクロで撮影することで陽光と陰影のコントラストが鮮やかなクレタ島の風土と独特の風習に生きる土地の人々を鮮明に描いている。土地の男たちとは対称的な豪放磊落で楽天的なゾルバが際立って見える。そのゾルバを演じたのはアンソニー・クインで「道」と並ぶ彼の代表作ともなった。頑強な男だが3歳の息子を亡くし、戦争でトルコ人と闘いヒトを殺し、村を焼き、女を強姦した暗い過去を持つ。苦々しい辛い過去を微塵も見せずシルタキを踊り乗り越えてきた。そのバイタリティにバジルは自分にない男らしさを感じ硬い絆で結ばれてゆく。
土地に住む異教の老女・フランス人のホテル経営者マダム・ホーテンスが異色の存在。どうやら高級娼婦だったらしく海軍提督に同行して取り残されたらしい。孤独な暮らしを慰めてくれたのはゾルバ。レディとして扱う礼儀をわきまえ虚言も優しく聴いてあげる。化粧をして着飾るほど老醜を隠せない女の哀れが滲み出る。演じたのはヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」で際立った存在感を魅せたL・ケトロヴァ。見事アカデミー賞助演女優賞を獲得している。
もうひとり若い未亡人を演じたイレーネ・パパスも注目のヒト。村中の男たちが狙っているが凛としていて近ずけない。この孤独な未亡人は異教のバジルが交わることで悲劇となってしまう。2人の女の哀れは<死者の財産を勝手に奪われること>、<異教人と交わることは神に背くこと>という独特の風習で殊更際立ってみえた。
ミキス・テオドラキスの音楽に乗ってシルタキを踊る2人のシーンが、過去を全て洗い流すギリシャ人気質のDNAを物語っていた。