晴れ、ときどき映画三昧

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『その男ゾルバ』 85点

2011-09-02 11:41:26 | 外国映画 1960~79

その男ゾルバ

1964年/アメリカ

ネタバレ

クレタ島で観る男の友情と女の哀れ

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

作家ニコス・カザンザキスの体験をもとにした小説を、今年7月亡くなったギリシャの名匠・マイケル・カコヤニスが脚色、自ら製作・監督した。
父の遺産である古い炭鉱を再興するため英国からクレタ島に戻ろうとする作家バジル。ギリシャの港でゾルバという荒くれ男に出会い、彼のアプローチにより炭鉱の現場監督として雇うことに。
生まれも育ちも性格も年齢もまるっきり違う2人。年上のゾルバの言動にいつしか信頼を寄せて行く男の友情ドラマ。
争いが絶えなかったクレタ島はギリシャ正教ながらトルコ・イスタンブル コンスタンディヌーポリ教会下で独特の風習があり、よそ者を寄せ付けない荒々しい土地柄。バジルたちは目立つ存在であり注目のマトとなる。
カコヤニスはモノクロで撮影することで陽光と陰影のコントラストが鮮やかなクレタ島の風土と独特の風習に生きる土地の人々を鮮明に描いている。土地の男たちとは対称的な豪放磊落で楽天的なゾルバが際立って見える。そのゾルバを演じたのはアンソニー・クインで「道」と並ぶ彼の代表作ともなった。頑強な男だが3歳の息子を亡くし、戦争でトルコ人と闘いヒトを殺し、村を焼き、女を強姦した暗い過去を持つ。苦々しい辛い過去を微塵も見せずシルタキを踊り乗り越えてきた。そのバイタリティにバジルは自分にない男らしさを感じ硬い絆で結ばれてゆく。
土地に住む異教の老女・フランス人のホテル経営者マダム・ホーテンスが異色の存在。どうやら高級娼婦だったらしく海軍提督に同行して取り残されたらしい。孤独な暮らしを慰めてくれたのはゾルバ。レディとして扱う礼儀をわきまえ虚言も優しく聴いてあげる。化粧をして着飾るほど老醜を隠せない女の哀れが滲み出る。演じたのはヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」で際立った存在感を魅せたL・ケトロヴァ。見事アカデミー賞助演女優賞を獲得している。
もうひとり若い未亡人を演じたイレーネ・パパスも注目のヒト。村中の男たちが狙っているが凛としていて近ずけない。この孤独な未亡人は異教のバジルが交わることで悲劇となってしまう。2人の女の哀れは<死者の財産を勝手に奪われること>、<異教人と交わることは神に背くこと>という独特の風習で殊更際立ってみえた。
ミキス・テオドラキスの音楽に乗ってシルタキを踊る2人のシーンが、過去を全て洗い流すギリシャ人気質のDNAを物語っていた。