恋歌 朝井まかて(著)2013年8月発行
ふと気付くと、ここのところ母の読書は時代小説が続いていますね~。
意図的なものはなく、全くの偶然なのですが。
それぞれに時代が異なるし、とても個性的な小説ばかり。
江戸時代の庶民の暮らし、戦国時代のまさに下克上な男の生き様、
同じ戦国時代でも瀬戸内海を拠点として生きる海賊たちの姿、ときて、
今回は、江戸時代末期、徳川幕府体制の瓦解寸前の混乱期の水戸藩に
嫁いだ江戸の町人の娘の生涯が描かれたものでした。
明治の女流歌人「中島歌子」が主人公。
彼女は「萩の舎」という歌塾を運営し、世にも認められ活躍していたのだが、
その生涯は、歌を詠む優雅な彼女の姿からは想像もできないほど
苦難に満ちたものだった。
彼女が危篤状態になった時に、関わりの深かった二人の弟子が、
家の書類の整理をしている途中で、彼女自身がその半生を綴った手記と遺言を
発見したことから、彼女の生涯が明らかになっていく。
中島歌子は、水戸藩上屋敷の目と鼻の先の宿「池田屋」の
一人娘「登世」として何不自由ない生活を送っていた。
が、水戸藩士「林忠左衛門以徳」と知り合い恋に落ち、
武士の林家に嫁ぐことになったことから、大きく運命が変わり始める。
水戸藩士の嫁として、小姑とともに貧しく暮らし、
ごくたまに江戸から帰る以徳に会うのを生き甲斐としながら
江戸から着いてきた爺やを心の支えとする水戸での生活。
が、それも間もなく、水戸藩内の派閥闘争に巻き込まれることとなり、
艱難辛苦の年月を経て、命からがら義妹を連れ水戸から逃げ出し、母の元へ。
江戸に戻って後、母の助けを得て努力の末、歌人として生計を立て
生きていくこととなる。
水戸藩内での天狗党と諸生党との凄まじく激しい抗争は、最後には
女子供をも巻き込み、子々孫々までも怨嗟がつづきそうな醜さ。
根本的には水戸藩の貧しさや気質、藩主の優柔不断などの問題が、
二党間の争いを増幅することとになったのだと思われるが、
それにしても、本書を読むまで、
水戸藩にこんなにも惨い事実があったことは知らずにいた。
以前に『光圀伝』などを読んでいたので、小説の登場人物名には馴染みが
あったはずだったが、そんなものは、すっかりすっ飛んでしまうほどの
衝撃を受けた。
史実を語るために、歴史を女性の目線から描く手法はよくあることだろうけど、
母にとって、本書はすばぬけて印象的だった。
歴史的事実は、登世を始めとして、水戸藩士の妻たち、登世の夫「以徳」
有栖川家の王女で水戸烈公の正室「貞芳院」など
それぞれの立場、それぞれの視点から描かれているので、深みが増し、
登世の母「幾」や萩の舎の弟子など、魅力的な人物も多い。
娘を案じる立場としては、特に登世の母「幾」の見事に潔い決断、生き方
物事への処し方に学ぶべきところ大と感心した。
天狗党の藩士の妻や子供達までが牢に囚われ処刑がつづくシーンなどは
読んで居てかなり辛い場面もあります。
が、知る事、考えさせられる事、感じる事の多い、素晴らしい小説でした。
わがまま母