本当は2月19日(日)の公教育計画学会の研究集会の報告ですとか、先日公表された「教育基本条例」「職員基本条例」の修正案のことですとか、いろいろと書きたいことがあります。ですが、ここ数日体調が思わしくないので、更新が途切れました。申し訳ないです。
それから、今日は急いで次のことだけコメントを書いておきたいと思ったので、まずは、そちらを優先します。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20120222k0000e040179000c.html (橋下市長:小中学生に留年検討、大阪市教委に指示:毎日放送2012年2月22日付ネット配信記事)
まず、そもそも「強く要請・要望」というならさておき、市長が市教委に「指示」できるという見出しの付け方自体、教育委員会の独立性という観点から見て、この新聞記事、おかしいんですけどね。そこはツイッター上で誰も指摘していないので、そこを言っておきます。
次に、確かに現行の教育制度上も、学校教育法施行規則第57条(課程の修了・卒業の認定)や第58条(卒業証書の授与)の規定に即して考えれば、「平素の成績」がよくないゆえに学校長の判断で「原級留置」すなわち「留年」は可能です。このことは、教職課程の各科目の授業でよく話します。なお、この57条・58上のことは、次の54条・56条とともに、基本的に小学校教育にかかわる規定ですが、第79条で中学校にも準用されるので、小中学校両方あわせてのことと理解してください。
その一方で、本来であれば、学校は子どもたちの心身の状態に対して、第54条(履修困難な各教科の学習指導)や第56条(不登校児童を対象とする特別の教育課程)などの項目もあわせて適用して、学習指導要領の枠を離れてでも適切なカリキュラムを組み、学習指導を行っていく必要があります。場合によれば、「今はしばらく学習の進度なんて度外視しても、まずは心身の回復に努めるべき」だという子どもの状態だってあるからです。また、その場合は「学習の進度」よりも「心身の状況」を見て、学校として「進級」という判断をすることだってありうるのではないか、と考えます。
とすれば、この毎日新聞のネット配信記事にあるように、大阪市教委が橋下市長の「強い要請」に応えて公立小中学校で一律に目標を設定し、それに到達しなければ留年という方法をとることは、かえって学校現場で教員が子どもの状態を見ながら柔軟に対処することを妨げ、子どもにとっても教員・保護者にとってもマイナスにしかならないことがある、ということになるでしょう。なぜなら、今はとても心身の状態から見て学習できるような状況にない子どもにも、一律に目標を課し、達成を求めていくわけですからね。
このような橋下市長の要請や、それを受けての大阪市教委の対応は、今後、不登校状態や、何らかの形で学校不適応を起こし始めている子どもたちを、さらにどん底に突き落とすだけの施策にしかならないのではないでしょうか。
だから、このような施策は、今後、大きな子どもの人権侵害を引き起こす危険性のある施策だと、少なくとも私は思います。「こんなこと、やめてくれ。もう教育について何も言わない、何もしないで」と思うのは、私だけでしょうか。
ちなみに、満15歳に達した後の段階で原級留置になった子どもは、「満15歳に達した日の属する学年の終わり」までが保護者の就学義務の適用期間なので(学校教育法17条参照)、いわゆる「学齢生徒(児童)」の年齢を越えて義務教育を修了していない子どもになります。
このような「学齢生徒(児童)」の年齢を越えて義務教育を修了していない子どもについては、学校教育法11条の「児童・生徒・学生の懲戒」と、学校教育法施行規則26条の「懲戒」の規定に従って、学校長から「退学」を命じることが可能になります。
具体的にいうと、「学齢生徒(児童)」の年齢を越えて義務教育を修了していない子どもについては、たとえば「性行不良で改善の見込みがない」「学力劣等で成業の見込みがない」と認められる者や、「正当な理由がなくて出席常でない者」や「学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者」については、公立の小中学校在籍であっても、学校教育法施行規則26条の規定にもとづく「退学」が可能です。保護者の就学義務年齢を越えて在学している子どもだから、という説明になるでしょうか。
だから、この大阪市内の公立小中学校に「留年」をどんどん適用して行こうとする施策は、結果的に義務教育を修了しないまま、学校教育の場から「退学」等の形で姿を消すかもしれない子どもを増やしていくことにつながりかねない。子どもの学ぶ権利、教育を受ける権利を侵害する危険性のきわめて高い、乱暴な施策ではないかと思います。
一刻も早く、こうしたむちゃくちゃな要望は撤回してほしいですし、大阪市教委が冷静に判断して、こんな要望を受け入れることを拒否することを願っています。