さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

強者と巧者、意地と誇りが放つ灼熱 山中慎介「王者対決」制しV11!

2016-09-17 20:35:34 | 関西ボクシング




大阪府立体育館、エディオンアリーナ大阪のリングに立ったアンセルモ・モレノは、
昨年、大田区総合体育館のリングに上がった彼とは、まるで別人のような様子に見えました。

昨年見た彼は、「飄々」という意外に、どう言い表したら良いのかわかりませんでした。
それこそ白けたような、「今から、誰ぞの試合でもあんの」みたいな表情。
相手を威嚇しようとか、見下ろそうとかいう風もなし。
気合いだとか、心の構えだとか、そんな言葉が無意味に思えるような静けさでした。

しかし今回、モレノは終始忙しなく身体を動かし、リズムを刻んで、止まることがありませんでした。
顔つきも険しく、目つきも鋭く、何かを物語っているかのような。
試合前に「今回は攻める、倒しに行く」とか言った、という報道を見て、
まったく真実味を感じていなかったのですが、あれ、ひょっとしたらこれは...と。


初回早々、長短を巧みに組み合わせた四連打、五連打から始まり、攻めて出るモレノ。
スタンス広め、斜でやや前傾の構えは一見、前と同じだが、立ち位置が一目瞭然、
強打の山中慎介相手だというのに、相当近い。

その攻撃は、なるほど一打の威力では山中に劣るが、正確さと巧みさは見事でした。
初回早々、あの山中がたたらを踏み、打たれっぱなし。
改めて、真の世界最高峰の攻撃技術を見せつけられ、震え上がるような思いでした。


しかし、好打を重ねるモレノを見ながら、感心すると同時に別のことを思ってもいました。
これを2分か、行っても2分半で止め、残りをセーフティーに流して次に行く、という
選択をする余裕をモレノが持っていたら、もっと怖いだろうな、と。

もしこの距離で、間を詰めて攻め続けるなら、当然山中の強打を食う可能性が増す。
これだけ打ち込めるのなら、ポイントをクリアに抑え続ける選択も出来るはずだ、と。
実際、初回2分半までの内容は、完全にモレノの得点となるものでした。

そんなことを思っていたら、山中の左が決まって、モレノがキャンバスに落ちました。
残り時間わずかのところだったと思います。あまりに痛い失点。
山中慎介にとっては得がたい得点、そして手応えだったことでしょう。


巧者モレノの、勝利への意欲、何が何でも勝ち、自分が王者であると証すのだ、という意地は
驚異的な高確率で、世界戦においてダウンシーンを量産する強打者、山中慎介の力によって、
あまりにも端的に、悪い方向へ作用しました。それがこの試合の趨勢を、まずは決めました。


2回以降、山中の左がモレノを脅かし、それに対してさらにムキになった感じのモレノが、
時折珍しいミスを見せ、山中の強打を外しきれない、という流れ。
山中は前回よりも明らかに、両ガードの隙間が締まっていて、しかもそこから無理なく打てる。
楽ではないが、山中が少しずつ、貯金を重ねる流れが続くか、と見ていた4回でした。

山中締めた構えから左、モレノ打ち終わりに右フック、両者ヒットの応酬のあと、
見ると少し、先ほどより、ほんの少しだけ山中の、両手の間が広がっているような。
この感じで、身体を回して打つと、前回の試合の9回のようなことが起こ...と思った直後、
右フックを食らった山中が両足を跳ね上げて、リングを転がっていました。

ああー、と阿呆みたいな声を出すこちらを尻目に、モレノが身体を伸ばして追撃、終了。

5回、ダウンこそないが、普通の試合ならベストラウンドと言えるような濃密な攻防。
山中が左を当てれば、直後にモレノが右フックでふらつかせる。息もつかせぬ、凄い展開。


気づけば場内は、またも囂々たる声に包まれていました。
技巧のモレノが、理や分別では収まらない何事かに突き動かされるように攻める。
強打の山中は、前回思うさまに捌かれた屈辱を繰り返すまいと構えを締め、
そこから鋭く強打を飛ばす。

力と技、意地が火花を散らす、誇り高き「王者同士」の闘いは、灼熱の炎をリングに燃やし、
先ほどまで長谷川穂積の闘いに心を奪われていた大観衆を、完全に引き寄せていました。


この試合はいつ、どういうきっかけで、どちらの手に落ちるのだろうか。
見ているこちらも、さすがに参ってしまって、もうどうなるかわからん、という状態。
しかし6回、山中慎介の両手の間が再び締まっているように見えた、そんな記憶があります。

山中が良い構えからワンツー、一度当たり、次はモレノが即座に見切って外す。
と、右がややフェイント気味か、直後の左がモレノを捉える。
打たれた瞬間、ほんの少しだけモレノが身体をずらし、僅かに力を逃がしたように見えたが、
それでも堪えきれずに、ダウン。普通なら試合が終わっているところ。しかし立ってくる。畏るべし...。
しかしさすがに続かない。場内の大観衆が再び総立ちになる中、試合は次の回で終わりました。



山中慎介は、前回の試合で勝利するも、その内容に対する様々な評を受け、
王者としての誇りを傷つけられた、という思いだったのでしょう。
聞けば早期から再戦を望み、その思いが共通した陣営もまた、その実現を躊躇わなかったそうです。

もちろん、何もかもが思うように運びはしませんでした。
見ていて「右フックはもう打つな~」と目を覆いたくなった場面があり、
攻撃にシフトしたモレノの巧みさに、苦しむ場面もありました。

しかし、前回より構えを締めて、なおかつ強く正確に打てるフォームを作り上げ、
攻めに傾いてもなお、圧倒的な技量を示したモレノを、正確な強打で捉え、打倒した。
その過程と結果は、いずれも世界最高峰の強打者の、そして、王者の証明といえるものでした。
11連続防衛、そしてリングマガジンベルトの獲得に相応しい、
日本ボクシング史に特筆されるべき、偉大な勝利を、この目で見ることが出来ました。

何でも世界戦12試合を終え、これで奪ったダウンは25回を数えるのだそうです。
その強さはまさに史上屈指、軽量級としてはまさに比類無きものでしょう。
KOパンチャーとしての評価は、かの海老原博幸や具志堅用高を凌駕するかもしれません。


そして、その強さを証す要因となったのが、これまた圧倒的な技量を見せつけた
アンセルモ・モレノの存在だったこともまた、忘れてはいけないことです。
前回の判定への不満、敗北という結果に対し、こちらもまた、山中と同様かそれ以上に、
心中期するものがあったことは、その闘いぶり、それより先の「佇まい」から、一目瞭然でした。

その闘いぶりは、前回とは違ったものでしたが、だからといってそれが、
彼「本来」のものではなく、それが山中に幸いした「だけ」なのか、というと、少し違うような気もします。
初回、攻め切るのではなく、誰の目にも取った、という段階で攻勢を止め、
次の回も良い流れのまま行く、という形で得点を重ねていれば、というのは、結局は仮定に過ぎません。

アンセルモ・モレノの実力は、パナマの偉大な先達、イラリオ・サパタやエウセビオ・ペドロサに
匹敵するレベルのものだと思います。
彼らに、往年の日本のトップ選手たちは、誰も勝つことが出来ませんでした。
また、複数回闘った場合において、その内容や結果が、彼らに闘い方を変えさせたり、
強固な「決意」を強いるような展開がありえたかというと、それも無かったような気がします。

しかし、山中慎介は、それらの前例を上回るものを、リングの上で示しました。


この勝利を、山中慎介による「因縁決着、精算」と見るべきか、
極端に言えば「王座奪還」であると見るべきか。色んな見方があっていいと思います。

しかし、確かなことは、前回と今回、その闘いの全ての局面において、山中慎介の強さは、
現代の軽量級屈指の技巧を誇る一級品、アンセルモ・モレノの心技体を、休み無く脅かし続けていたということです。
そして、その結末が今回の「決着」であるのだ、と。


山中慎介、見事な勝利でした。脱帽です。そしておめでとう!



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長谷川穂積、勝利の翌日生出演

2016-09-17 13:33:09 | 長谷川穂積
本日放送ありました「せやねん」長谷川穂積生出演。
動画紹介しておきます。
試合後明らかになった左手負傷の様子なども、詳細に取材されています。


数日で消しますのでお早めにご覧ください。


その1。

健さん、日テレ行ったことないんか...。
もう長いことやってはるのになぁ。





その2。

三冠達成、王座復帰は大変めでたいのですが、公共の電波上、
しかも生放送の番組で、奥さんの料理を批判するのは、いろいろまずいと思うです、ハイ。


コメント
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見る者の心を爆ぜさせる、天才と本能が甦った 長谷川穂積三冠制覇!

2016-09-17 07:03:39 | 長谷川穂積



昨夜は当然、大阪府立体育館にて観戦してきました。

大観衆総立ちの爆発的歓喜を、二度に渡って体感し、なんと表現していいかわからない心境です。
とりあえずとりとめもなく、毎度の通り感想文です。
まずは長谷川から。


===============================================


一目見て、あまりに顕著な体格差。ウーゴ・ルイスは相当体重を戻してきたように見えました。
肌つやも良く見え、好調そう。対する長谷川穂積は、日焼けしていて精悍でした。

初回、ルイスが遠く見える。長谷川がボディを打ちに行ってバッティングが起こり、減点される。
場内やや静まる。しかし、長谷川はその流れを、冷静にじっくり変えていきました。

序盤は長谷川がやや呼び込まれているのかと見えました。
ルイスの右ストレート、左フックはときに遠くから、ときに近くで鋭く飛び、空を切り、
長谷川の身体に、顔にギリギリまで迫りました。

しかし徐々に、長谷川が、当たるか否かぎりぎりの距離を維持することに努め、
自重しつつ闘っていることが見え始めます。


若干、ルイスにポイントが行った序盤を経て、左ストレートがルイスを脅かし始めます。
かつて「ジャブより速いストレート」と評されたこのパンチが端緒となって、
徐々に長谷川のボクシングが良い回りになっていったというか。

5回、ロープ際で強引に攻められたが、凌いだあとに左をヒット。
ガードの内をえぐり、外から巻く左の打ち分けが冴えてくる。

中盤、ルイスの長いパンチも怖いが、長谷川はパーリングで押さえ、左のパターン。
右フックのカウンター狙いは、長身ルイス相手には難しいが、攻勢を取る。
6回、ボディを打ちに行って前にのめるが、修正。

右強打の手応えが思うように得られないルイスは、それでも鋭い右を見せ、
返しの左も鋭いが、狙える距離や角度が限定的なうえ、以前は見せたはずの
右アッパーの迎え打ちが全然出ない。
7回、一度はヒットによるとされた長谷川の出血が、インスペクターの?
裁定変更によりバッティングとされ、ルイス減点。


気づけば、場内は序盤の静けさとはうって変わって、間断なく長谷川への声援が渦巻いていました。


8回終了、ポイントリード。
あと4回、イーブンで収めれば勝てる。なんとか事無く...と願っていた9回は、ご覧の通りの展開でした。


ルイスの左アッパーだったか、この試合随一のクリーンヒット。強打の手応えを得たルイスが出る。
ダメージ受けた長谷川、二度クリンチを試みるもかなわず、ロープ際に追われ、連打にさらされる。
ロープを背にした長谷川が、回り込まずに連打を打ち返す。

「最悪の選択」と見えました。そこで止まるな、回れ!悪夢のような光景。
しかし両者の拳が十数回に渡り飛び交ったのち、後退したのはルイスの方。
長谷川の左が二度、右フックが一度、ルイスの顔を捉えたのは見えましたが、
長谷川の方はというと、私の先入観ほどには打ち込まれていませんでした。

場内、安堵と歓喜が入り交じる。囂々たる声、声、声が場内を覆い尽くす。
勝利のために、丁寧に積み上げてきたものが、全て無に帰すのかと、絶望の淵に追いやられた
ひとりひとりの心が救われたその直後、長谷川の左が鋭く伸び、こちらもこの日随一の好打。
左ストレートが、先ほどの攻防でさらに出血し、朱に染まったルイスの顔面を捉えていました。

10回開始...とはならず、試合終了。
場内は総立ち、そして大歓声。喜びの感情が爆ぜるその真ん中に、長谷川穂積がいました。


しばらく、ただ呆然と、彼の姿を見ていたような気がします。

かつて、常に自在に、思い切りよく、好きなように踏み込んで、思うさまに相手を打ちまくった
長谷川穂積と比べれば、その闘いぶりは苦心惨憺、とも言いうるものでした。
しかし、勝つためにせねばならなかった自重を受け容れて、無理や無駄を排し、
徐々に試合の流れを引き寄せた長谷川の姿は、かつてとは違った意味で、神々しくさえありました。

その果てに訪れた9回、最大の危機。
そこまで自ら抑え込んでいた、天才と本能が一気に解き放たれたかのような逆襲の連打。
この試合、たった一度だけ見せた無理な、悪い選択は、逆に勝利への決定打の呼び水となりました。


長谷川穂積は勝利しました。数ある統括団体の中で、最も広範に認知されているとされる、
WBCのグリーンベルトをバンタム、Sバンタム、フェザーの三階級で獲得したことは、まさしく偉業です。
リングの上で、成長した息子に抱え上げられ、ルイスへの敬意や、山中慎介への激励を語る姿は、
偉大な勝者に相応しい、喜びに包まれたものでした。



しかし、私の喜びは「それ以前」にあったのかもしれません。


かつて、さる方から、長谷川穂積のキャラクターについて、苦笑交じりに聞かされたことがあります。
「ああ(=飄々と)見えて、いざ試合始まったら土佐犬。首輪つけたいときがある」とのことでした。

そのとき、何よりもまず天才、天性を語られる彼の、意外な一面を知ったような気がしたものです。

自らを抑え、自重し、冷静に丁寧に作り上げた試合展開を打ち崩されそうになったときに、
その本能に従って、闘志を解き放ち、剥き出しにして打ち合った長谷川穂積は、
変えざるを得ないものを受け容れつつ、変わらないものもまた、そのまま抱えて闘っていたのでしょう。

その矛盾した姿もまた、単にボクサーとしての優秀のみでは語りきれない、長谷川穂積そのものでした。

その姿を、またこうして見られたこと。その闘いを見られたこと。
その熱に触れ、多くの人々と同様に、さまざまな感情を込めて声を上げ、押し殺して沈黙したこと。
その繰り返しの末に、何度か席を蹴って立ち上がったこと。
全てが、何よりも先に、喜びでした。かけがえのない時でした。


そして「この次」があるのならば、どのくらい続くものかは知らず、これからも、きっと。



長谷川穂積、復活なりました。おめでとう!
本当に嬉しいことです。見に行けて、本当に良かった。幸せでした!


コメント (15)
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