豪華興行のメインイベンターとなった粟生隆寛は、強豪ターサク・ゴーキエットジムに
3-0のクリアな判定勝ち、見事な防衛となりました。
前回のデビス・ボスキエロ戦の苦闘は、やはりその後報じられたように、
調整失敗が響いたというのが実情のようで、いっちゃなんですがあの程度の相手に
這々の体で逃げ切った粟生の姿は、今回の試合ではまったく見られませんでした。
米国のリングで、ファン・マヌエル・マルケス、スティーブン・ルエバノに挑んだ経験を持ち、
東洋のレベルをはっきり超えた、世界的な選手であるターサクでしたが、
粟生はサウスポー同士のジャブ、鋭いカウンター、ボディブローの応酬で徐々に打ち勝ち、
6回の劣勢を凌いだ後は、7回、10、11回の攻勢で、明白な勝利を印象づけました。
この日の粟生は、確かな実力者である挑戦者相手に、ほとんどの時間を中間距離で正対し、
真っ向からヒット&カバーの攻防を繰り広げて、何の小細工もごまかしもない試合を
フルラウンドに渡って繰り広げた上で、クリアに勝って見せました。
もちろん、こういう闘い方をすれば、いつも以上に打たれる確率も高まり、
実際、ターサクのジャブ、左フックを食う場面もありました。
しかし粟生は、パンチを外すために大きく距離を取ったり、角度を変えたりすることよりも、
最小限の動きで外し、距離が欲しければ下がるのではなく、ジャブで突き放すことを選び、
受け身になることなく、常に相手に圧力をかけた上で、要所でカウンターを決めていました。
もちろん、これまで何度か書いてきたように、好機を迎えたときに、緩急をつけた、
詰めるための狙いを持った追撃が欲しかったところですが、その課題を除けば、
私はこの日の粟生隆寛について、絶賛の言葉を贈りたいです。
ちょっと手放し気味ですが、私はずっと、攻撃的、積極的なボクシングの中に、カウンターの巧さや
目の良さといった、彼ならではのセンスを生かして闘う、粟生の姿を見たかったのだ、と。
しかし、この試合に関しては、必ずしも絶賛されているわけではないようです。
会場も、二つ前の記事に書いたとおり、大会場を4分の1にカットしたような会場で、
TVの視聴率も、この日の二日前に行われた「でっち上げ」の王者の試合を下回ったのだとか。
繰り返しますが、私は、この日の粟生のボクシングが、そういう「ロケーション」を超えた、
高い価値のあるものだったと見ます。
そして、試合翌日のコメントは、そういう試合を闘い抜いた手応えが感じられました。
ただ、多くの評価が、その手応えに、誇りに見合わないものなのだったとしたら、
やはり、ターサク以上の相手との闘いに臨まねばならないのでしょう。
試合の内容とはまた別に、彼が手にする王冠が「4分の1」のものであることもまた現実です。
ならば、その分母をひとつでも減らすための闘いに挑んでもらいたい。
今の粟生なら、これまでとは一段違う期待をかけても良いのではないか、と思っています。
ただ、こういうセンスに恵まれた選手ほど、試合ごとに出来不出来の差が大きい場合もあり、
それが、ありがたいことに同じ国にいる対立王者との激突で、果たしてどう出るか、ですが。
しかし、今日になって飛び込んできた大ニュースのように、国内に多数の王者が存在する状況下で、
王座統一戦に対するファンの期待が現実になる流れが出来つつあります。
そうなれば、次はやはり粟生と内山でしょう。
もちろん難しい事情もあるやもしれませんが、何とか実現してもらいたいものです。