角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

予期せぬ喜び。

2010年03月17日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ26cm土踏まず付き〔四阡五百円〕
青基調の竜馬プリントをベースに、合わせは青です。
びっちり青で仕上げてみました。爽快さは日本晴れのごとく感じますが、今日の角館は真冬に逆戻り。ちょっと寒そうにも見える青の竜馬はこちらになります。




「思いも寄らなかった幸運が舞い降りる」。なんて言えば少々大げさですが、些細なことなら案外日常にありますね。たとえば世間で娘のことを褒められたとか、懐かしい人に偶然会ったなんていうのもそんなひとつでしょう。
そしてときにあるのが「プレゼント」。大好きな人から意外な品物を贈られたら、これは「思いも寄らなかった幸運が舞い降りる」と言ってイイかも知れません。

3月9日のブログに綴った「ホワイトデー」のプレゼント。贈られた女性から私へ感謝のメールが届けられました。伝えたい心を一生懸命綴った文言には、その嬉しさと共に女性のお人柄がしのばれます。
男性はかねてから角館草履の存在を知っていて、女性との会話にも草履が登場していたそうです。女性も履いてみたいなぁと思っていたところに、このたびのプレゼントというわけでした。
こんな嬉しいメールをいただいた私こそ、「予期せぬ喜び」ですよ。

埼玉県からお越しのご夫婦旅。実演を興味津々眺め、素材や健康効果をご理解いただくと、『記念に買って行こうよっ』。ご夫婦それぞれお気に入りの配色をお選びです。
実演でたびたび耳にする言葉が、『いや~、角館で面白いモノに出会えたよ』。もちろんこれが公開実演の目的でもありますから、私としてもこの上ない言葉なわけです。そしてお買い上げくださるすべての方々が、「予期せぬ喜び」を感じてくれたと信じています。

秋田市からおばさまおふたりがお越しでした。おひとりは70歳代後半でしょうか、おばあちゃんと呼ばれる年代ですね。これまでも何度か草履コーナーを通過していたそうですが、実演をまじまじ眺めるのは今日が初めてとおっしゃいます。しばしのおしゃべりのあと、ご自分用をお買い上げくださいました。
可愛いピンクの草履を手に持ちニコニコ顔のおばあちゃんに、もうおひとりのおばさまが『話をしてみて良かったねっ』。角館草履の特徴を知り得たことを喜んでくれたわけです。

ところでこちらのおばさまは、お若い頃の冷え性がウソのようになくなったと言います。今では冬場も厚着せず、靴下も薄手のものを着用していました。常に体が温かく、ほかの人がちょっと寒いくらいの部屋で汗をかくんだそうですよ。
『なんでまたそれほどまでに体質が変わったんだシか?』とお訊ねすると、『う~ん、更年期が続いてるんでねぇべが!?』。

こうしたことも「予期せぬ喜び」なんでしょうね。

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通じる「こだわり」。

2010年03月15日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き〔四阡五百円〕
ベージュ基調の竜馬プリントをベースに、合わせは黒基調の絣風プリントです。
いかにも男性的な配色で、力強さがありますね。ベースもさることながら、組み合わせの絣風がなんとも威厳を感じさせます。まだまだ続く竜馬プリント、今日の平生地はこちらになります。




ここ数日の角館は、寒い日と暖かい日が交互にくる感じです。今日は暖かい日、最高気温は二桁に乗ったでしょうか。今晩は雨の予報が出ていますから、日陰の雪もまただいぶ消えるでしょう。
西宮家では冬囲いの撤去作業が進んでいます。冬場はお休みしている「母屋」と「がっこ蔵」のオープンまであと半月。目前に迫った春に、角館人の心も嬉しく忙しないですね。

東京からお越しのお若いご夫婦、二歳になる女の子と三人旅です。実演席の丸太椅子に腰を下ろし、しばらくおしゃべりと相成りました。
『東京の開花予想って、いつくらいです?』とお訊ねすると、『あぁ、もう一週間も出たまんまなのでぇ…』。おしゃべり中も時間を気にする様子がなかったですから、ほんとに気ままなのんびり旅を愉しんでいるんですね。

旅の目的地をお訊ねすると、『ひとつは大潟村なんです』とご主人。秋田県大潟村は、米どころ秋田の中でも有数の作付面積を誇ります。先般「戸別所得補償制度」で赤松農水大臣がこの村を取り上げ、全国的に名前が知れましたね。
『じゃあ、農業とかそういう仕事の関係ですか?』とお訊ねすると、『いえいえ、ずーっと前から無農薬栽培のお米を取り寄せていて、一度その農家を訪ねたいと思っていたんです』。

この話には草履職人も感じ入りました。毎日食べるお米に「こだわり」を持っていて、その生産者にお礼が言いたくて訪ねたなんていう話は、ものづくりに携わる者としてこの上ない喜びでしょう。この旅で生産者と出会い、顔を知り人柄を知る。これからの食卓がまた違ったものになるんじゃないですかね。
角館草履にもその「こだわり」を認めてくださり、奥様がご自分用をお買い上げです。なかなか嬉しい出会いでした。

どうやら台湾人と思しきご一行様がお越しです。添乗員さんらしき人がいませんでしたから、ツアーとは違うのでしょう。想像するに、二つか三つのご家族が共に旅をしている、そんなふうに見えました。
10数名の外国人に私ひとりが囲まれる感じで、言葉はすべてあちら語、当然草履のご説明も簡単なおしゃべりも出来ません。それでもお母さんらしき女性が二歳くらいの女の子に、笑顔で実演を見させています。旅の想い出に少しでもお役に立てるなら、会話はなくてもいいかと思ったものです。

するとおふたりが草履をお買い上げになり、ほかのおふたりはミニ草履をお買い上げです。サイズを訊ねる仕草になんとかお応えしただけで、まったく会話というものはありませんでした。
手前勝手な解釈をすれば、言葉はなくとも「こだわり」は通じたのでしょう。お国に戻られてから、ときに生産者の顔を思い出してくれたら嬉しいですね。

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愉しむチカラ。

2010年03月12日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
淡い紫基調の桜花プリントをベースに、合わせはエンジのいらかプリントです。
和の情緒たっぷりに、優しい雰囲気の配色ですね。今日のように穏やかな好天に恵まれると、こうした優しい草履を編みたくなります。

人生のいっときを当地で暮らす、あるいは長く県外で暮らし当地へ戻る。こうした方々との出会いは公開実演で珍しくありません。昨日のブログに綴った、広島県の女性が盛岡市で大学生活を送るといったケースも、そんなひとつでしょう。
環境の異なる馴染みの薄い土地であったにしても、「どうにか愉しく暮らしたい」。これは人間の本能にあると思うんです。それはこの先数年間の場合もあるでしょうし、終の棲家として生涯の場合もあるでしょうね。

仙北市田沢湖にお住まいのおばさまおふたりが、草履コーナーに立ち止まりおしゃべりです。おひとりが以前角館草履を贈り物にいただいたそうで、今なお大事に履いてくださっているそうです。
こちらのおばさまは秋田県内のご出身なんですが、ご主人のお仕事の都合で長く首都圏に暮らし、ご主人の実家である田沢湖へ戻られたのが一年前といいます。確かに生まれは当地でも、首都圏暮らしが長ければなにかと不便もあるかと思いました。

するとおばさまは、『あたしは山が大好きで、春になったら駒ケ岳に登るの。山菜採りもしたいし、野菜も作りたいわぁ』。
お話を聞いていると、老後の田舎暮らしに不安なんてこれっぽっちもありませんね。これからの人生を大自然に触れて愉しく過ごす。そんな意気込みさえ伝わってきました。

島根県のご出身で、ご主人の転勤により北秋田市に三年間暮らしたというご夫婦がお越しくださいました。東京のおともだちとおっしゃるおばさまもご一緒です。奥様とおともだちが角館草履を気に入ってくださり、それぞれ定番配色①をお揃いでお買い上げです。
ご夫婦はこれまで何度か西宮家にお越しとのことで、『レストランで食事して、草履も何度か見ていたんですよ。もう来られるか分からないから、記念に買って行くわっ』。
北秋田市生活も残り僅か、四月にはまた転勤で東京へお戻りなんですね。

ご主人へ、『転勤っていうのは、慣れるもんですか?』とお訊ねすると、『まぁねぇ。でも秋田に来るとは思ってもいませんでしたよ』と苦笑いです。住めば都と言いながら、秋田県という土地は必ずしも暮らしやすいとは言えないように思います。
すると奥様、『でもね、こっちにいる間いろんなところを観て歩いたの。岩手県も何度も行ったわぁ』。

こちらのご夫婦の「愉しむチカラ」は、いろんなところを観て歩くプチ旅行だったわけです。どうせ数年暮らさなければならないなら、ここでしか出来ないことや観られないものを愉しむ。これが生きる本能なんでしょうね。

ふと思いました。角館草履のご愛用者には、転勤族や県外に長く暮らした方が案外多いんです。そうした方々は、「ここにしかないモノ」を敏感に感じ取るのかも知れません。

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大学あれこれ。

2010年03月11日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
ピンク基調の竜馬プリントをベースに、合わせはエンジです。
紅枝垂れ桜を想わせる、ぱっと明るいピンクですね。足元が暖かくなるような草履は、中高年のおばさまにお勧めしたいです。
ピンクの可愛い竜馬はこちらになります。




男性ばかりの四人グループ、うちのおふたりが明らかに外国人と分かりました。そのおひとりが角館草履に高い関心を示し、草履を眺めながらなにやら迷っています。こういうとき日本語しか知らない草履職人は、まったくのお手上げですよ。
四人のうちのおひとりが日本人でした。その様子に気づき、すぐさま通訳係りです。

男性はロシア人で、奥様と8歳になる娘さんへ日本のお土産に買いたいというわけです。そこで迷っていたのがサイズなんですね。ロシアで「cm」の単位は使いません。奥様のサイズはだいたい予測できるとして、娘さんの草履はいったい何cmを買えば良いのかが問題だったわけです。
通訳係りさんのおかげで、なんとか二つの草履をお選びいただけました。

日本人のおじさまへ、『ロシアからというのは、お仕事の関係ですか?』とお訊ねすると、『えぇ、国際教養大学なんですけど、研修で来日した大学の先生たちなんです』。まずロシア、そしてアメリカ、もうおひとりよく分からなかったおじさまはモンゴルだそうです。
それぞれのお国で大学の先生をしているんですね。そう言われると、どこか博学そうに見えるもんです。
それにしても、ロシアの方からお買い上げははじめてじゃないでしょうか。

広島県からお越しの母娘ペアさん、娘さんは高校生くらいかと思いました。娘さんが草履を気に入ってくださると、お母さんが『もうなかなか来られないから、記念に買って行けばっ』。
まずサイズが重要ですから、試し履きをお勧めしてみました。すると23cmのサンプルがちょっと大きかったです。それでも年齢を勘案して、『もう少しは大きくなるでしょうから、23cmから選んでもイイでしょ』と言うと、『この子、こう見えても23歳なんですよっ』。

あちゃー、てっきり高校生くらいに思っていたので、これにはすぐさま謝罪です。すると娘さん、『あっ、イイんですよ~。この前は16歳って言われましたから~』。どうやら若く見られるのは慣れっこのようです。
娘さんは盛岡市にある大学を卒業したばかりで、このあと故郷の広島へ戻られるとのこと。盛岡で生活していた四年間、お母さんもたびたび訪ねていたようですが、角館には今日が初めてでした。盛岡での大学生活と共に、角館草履が想い出のひとつになってくれたら嬉しいですね。

米蔵スタッフの甥っこさんが、今春大学受験です。いろいろ話を聞くに、親の心配は多岐に渡りますね。中でもかかる費用は並大抵ではありません。
ちょうど一年後、わが家の長女と次女もその時期を迎えます。草履を編む手は止められませんなぁ。

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動き出す春。

2010年03月10日 | 地域の話


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
朱色基調の和柄プリントをベースに、合わせはエンジです。
日々の「今日の草履」をご覧いただいてもお分かりのように、角館草履は多種多様な配色が魅力のひとつと自負しています。そんな私が特に好きなのが、今日のような和柄です。「古き良き日本」を象徴する昔の和服調、平生地はこちらになります。




天気予報にはずいぶん脅かされましたが、今朝起きての景色に積雪はありませんでした。サラっと降る感じの雪は、今日いっぱい続いています。明日の午後からはまた回復するようですから、まずこの数日間が最後の冬だったのでしょう。
啓蟄も過ぎ眠る虫たちが動き出す時節、「暑さ寒さも彼岸まで」の春彼岸も間近に来ています。

ここ数日の間、知り合いの若者たちからいくつか挨拶をいただきました。ひとつは昨年12月26日のブログでご紹介した職業替えの件です。彼はサラリーマンを辞め、父親の仕事を継ぐ決意を固めたそうです。父親もまだまだ現役ですから、これから数年は仕事を叩き込まれるでしょうね。
年度初めから早速始まる新しい仕事、春という季節は「動き出す」によく似合います。

また別の若者は婚約報告でした。結婚というのはひとつのタイミング、彼も彼なりのタイミングがあったようです。
結婚は人生の中でもかなり大きな転換ですね。周囲の目も変わりますし、自身が感じる責任も変わってきます。さらに子どもが生まれると一層でしょう。大きな転換も、春によく似合うと思います。

今年に入って、まだ一度も顔を合わせることがなかった似顔絵職人marikoさん。つい先日しばらくぶりで西宮家を訪ねてくれました。昨年12月初めの忘年会以来ですから、ほんとに冬眠でもしていたかの三ヶ月でしたねぇ。
ゴールデンウィークからの似顔絵席描きは、草履コーナーの目前ではじまります。また今年もお互いに頑張りましょー。知らぬ間にブログ更新も再開していたようです。こちらも春の「動き出す」でしょうかね。

四月の市議会議員選挙のお願いに、若者が訪ねてきました。告示まであと少しありますが、水面下では選挙戦が動き出しています。私は選挙がどうも苦手ですが、みなさん体に気をつけて頑張って欲しいものです。

桜の開花まであと一ヶ月と少しに迫りました。草履職人も動き出す春に乗り遅れないよう、しっかり在庫を編み続けています。

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愛と草履。

2010年03月09日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き〔四阡五百円〕
紺基調の武者絵プリントをベースに、合わせは紺のいらかプリントです。
同系色合わせの典型例ですが、男らしさもありながらとてもお洒落な気がしています。こちらであれば老若無関係にお勧めできますね。
巻かれてしまうと分からなくなりますが、「毘」の旗印がありました。越後から始まり米沢で終わった上杉軍のベース生地は、こちらになります。




見事な寒の戻りとなった今日の角館。最高気温は1℃か2℃しかなかったと思います。雨や雪こそ降らないものの、その風の冷たさと言ったらまさに真冬でした。散策のお客様も、『さすがにこっちは寒いですねぇ』。地元民でも充分寒いですよ。
この寒さは明後日まで続くようで、今晩から雪が降る予報です。明朝は少し久しぶりの雪かきを覚悟せねばなりませんなぁ。

角館草履のお買い上げは、その大半が「ご自分用」です。今日東京からお越しのおばさまも、『今晩乳頭温泉に泊まるから、早速履いてみるわね~』。未開封のうちにご家族へお見せしようと思わないほど、「ご自分用」なわけです。そして私もそれでイイと思っています。
旅はまず自分が愉しむもの、そこでのお買い物も自分が楽しくなければなんにもなりませんからね。

ご自分用以外に、プレゼントや贈り物としてのお買い上げもあります。まず一番に浮かぶのは「誕生日」ですね。ほかには「母の日」、少ないながら「父の日」もあります。あとはご両親の「結婚記念日」や、一般的なお土産も多いです。
今年初めてお届けしたのは「退職記念」でした。東京にお住まいのご愛用者が、ご自身の退職にあたり職場のみなさんへ記念品として差し上げたわけです。

これまでの例からして、角館草履を贈る心というのは「感謝」が多いように思うんです。こうした使われ方は私にとっても願うところですし、これが贈られた側にも伝わってくれたならこんな嬉しいことはありません。
他方、2月13日のブログにちょっと触れましたが、「バレンタインデー」にご利用はとうとう現れませんでした。ご夫婦間でのプレゼントはよくありますが、この場合もどちらかと言えば「感謝」に近い感情と思います。いわゆる「恋愛感情」と角館草履は、結びつきづらいのかと思っていました。

ところが…。

昨晩お電話をくださった男性、『今月の14日に使いたいんですけど、送っていただいて間に合いますか?』。3月14日は「ホワイトデー」、バレンタイデーのお返しに角館草履を贈りたいとするご注文なんですね。初めてのお使い道に、草履職人も嬉しくて仕方ありませんよ。

「男女間のプレゼントでは、身体に密着する品物ほどその愛が深い」。異性に関心が高かった若い時分、なにかの本で読んだことがあります。履物はひとつの典型例と言いますから、こちらの男性の愛の深さが推し測れますね。

「今日の草履」には、「毘」のほかに直江兼続の「愛」もプリントされていました。
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草履で天下獲り!?

2010年03月08日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き〔四阡円〕
黒基調の金粉プリントをベースに、合わせは黒基調の絣風プリントです。
いや~、見事な金草履ですね~。黒で統一したのがさらに高級感を増して見えます。久しぶりのタイトルは、「太閤秀吉」でいかがでしょう。何かで天下獲りを狙っている方にお勧めですかね。

今朝一番のこと、50歳代半ばと思しき男性がお訪ねくださり、『あのぅ、草履欲しいんですけど…』。
お顔は思い出せませんでしたが、いかにも草履目当てのご来店だったので、リピーターさんかと思いました。よくよくお話を聞いてみると、何度か実演をご覧くださっていたものの、お買い上げは今日が初めてとのこと。
ご自分用の草履をお選びの後、『それとなんですが、スリッパのようには作れませんか?』。

さらに聞いてみると、男性はどうやら飲食店を経営されていて、お客様用に揃えたいというご相談なんですね。実はこの相談、これまで複数の方から言われています。
草履は裸足、もしくは指付き靴下でなければ履くことができません。これを不特定多数のお客様に期待するのは不可能でしょう。でも角館草履の趣はぜひ活用したい。それがこうした「スリッパ仕様」に繋がるわけです。

これまでご相談くださった方々の気持ちは、作り手として本当に嬉しいですよ。おそらく「和」を基調とされたお店なんでしょう、角館草履の配色や土踏まず付きの感触を、ご来店のお客様にも愉しんでもらいたいとおっしゃるのですから。
けれども、私にはそれがどうしても踏み切れないんですね。

まず基本的に、私の手作りによるスリッパタイブは作られない構造です。緒を付けない楕円形の板だけなら作れますが、バンドの部分をイ草に布を巻いてというのがどうしても浮かびません。それならバンドの部分に既製品を買って来て取り付けるかと言えば、それでは角館草履の趣が壊されてしまいます。
かつてもこんな理由でお断りしていましたし、今日の男性にもご説明しました。これまでのお客様も今日の男性も、みなさんご理解くださっています。

そしてもうひとつ、私にはどうしても「草履」にこだわりを持っています。先ツボの当る位置は首のツボですし、五本の足指でしっかり地を掴んで歩くのは、スリッパでは叶わないからなんですね。
これまでご相談くださった皆様には感謝しつつ、おそらくこの先も「角館スリッパ」は考えないと思います。
木下藤吉郎のように、草履から天下獲りが始まるとも思ってませんけどね。

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過度な期待は禁物。

2010年03月07日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
黄色基調の桜花プリントをベースに、合わせはエンジです。
淡い黄色も桜花プリント同様、春を想わせる色ですね。可憐で可愛い草履に仕上がりました。やはりどちらかと言えばお若い女性向きでしょうか。平生地はこちらになります。



『韓国人はお金を使わない』。こんな言葉が角館でたびたび聞かれます。「アイリス効果」で韓国からのお客様が急増している話は以前書きましたが、お土産等の物販にはほとんど興味を示さないことから、こんな言葉が囁かれているのでしょう。
西宮家あるいは草履コーナーに立ち寄られる韓国人は、確かに「買い物」を目的にしているとは感じません。展示してある草履を気ままに手に持ち、実演中の私をバック風景に記念写真を撮って、なんのお愛想もなく立ち去る。こういう光景を見ると、日本人はしないなぁとも思います。

でも草履を買わないのは「どうしても欲しい」と思う人が少ないわけで、それがイコール「お金を使わない」とは言えないでしょう。これまで韓国人がひとりも草履を買わなかったかといえば、そんなことはありません。たとえ100人に1人だとしても、「どうしても欲しい」と感じた人は事実いらっしゃいます。

私が懸念しているのは、一部の角館人がお客様の顔を「お金」に見ているのではないかという点なんです。お店に入ってくる人間は、その大部分がなにかしらの買い物をするもんだと決め付けてはいないかということですね。
飲食店であれば、店内を見回しただけでUターンはまずいないでしょう。でも物販はこれが日常にあります。むしろ当たり前と思ったほうがイイでしょうね。

物販に興味を示さない韓国人も、当地に宿泊すればそれなりのお金が落ちます。散策中にお腹が空けば、うどんの一杯も食べるでしょう。喉が渇いたときの自販機ジュース一本だって売上です。なにより、閑散期の冬場に町を歩いてくれるだけで、存在価値は充分ですよ。
「過度な期待はしない」、これも商売には大事な心構えと思うわけです。

1月の半ばでしたか、朝から猛吹雪の日でした。一人のご来店もないまま昼を迎えようとしていたとき、米蔵スタッフのひとりが私に言いました。『あぁ、売れなくてもイイから、おしゃべりできるお客様が来ないかなぁ』。
このくらいの気持ちでお客様を迎えるのがイイと思うんです。

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家柄の盛衰。

2010年03月06日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
紺基調の花柄プリントをベースに、合わせはエンジのいらかプリントです。
紺とエンジとの相性はもちろんのこと、ベース生地がなんともいえない「和」を表現しています。一見絣にも見える美しい布地は、昔の富裕層が着ていたような和服を想わせますね。平生地はこちらです。



大仙市大曲からお越しのご夫婦。こちらのご夫婦は米蔵の常連さんで、私の草履コーナーにも何度かお立ち寄りいただいています。今日は奥様のお買い物のお供なんでしょう、ご主人は実演席の丸太椅子に腰を下ろし、結構な時間をおしゃべりされました。

こちらの御宅も歴史を遡れば「武士」で、その後明治・大正期に「地主」として発展したんだそうです。西宮家とちょうど同じ歴史を持っているんですね。昭和初期の長者番付では西宮家をはるかに上回っていたと言いますから、私ごときではちょっと想像すら困難です。
そんな先祖を持つご主人が言うのは、『下手に資産があったがらダメだったのよ。子孫は勉強も工夫もしねぇで暮らしたがら、すっかり食い潰してしまったぁ。もちろん俺も含めでなっ』。
もちろん謙遜もあるとは思いながら、淡々とこうしたお話をするご主人に親近感を持ちましたね。

代々続く家では、その時代々々にどのような暮らしぶりだったかを、なんらかの資料に遺しているものです。過去帳には没年月日と享年、俗名と戒名を書き記しています。どんなに名家であっても当主の早世で直系の後継が不在になったり、火災で貴重な財産を焼失したりなんていう危機があります。
かつて大地主や位の高い武士の家系でさえ、これまでの数百年を順風満帆に暮らしたはずはないわけです。

逆にかつては貧乏のどん底に暮らした家でも、ある代に賢者が生まれ大逆転といったケースもあります。大河ドラマの準主役になっている「岩崎弥太郎」も、そうしたひとりではないでしょうか。土佐藩の下士に生まれ、お世辞にも裕福でなかった弥太郎が、やがて三菱財閥の基礎を創ることになります。

ひとりの人生の中にも浮き沈みがあるように、代々の家にも同じような「波」があるんでしょう。
でも先のご主人が、いわゆる「沈み」の時代にいるとは私には思えません。家の盛衰をときに笑顔を交えながら他人の私に話すということは、案外ご自身の人生は幸せなんだと思うわけです。


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伝統とオリジナリティ。

2010年03月05日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
淡い紫基調の桜花プリントをベースに、合わせはエンジです。
東京の仕入れ部長に「桜プリント」を希望したところ、何種類かお届けくださいました。今日はその第一作、淡い紫がとても優しく感じます。文字通り、優しいお母さんにお勧めの一品ですね。平生地はこちらになります。




三月に入ってからのここ数日は、連日ぐずついた天気になっています。それでも気温は高いので、積雪はさらに減りました。三月に入ってからもまだ言われますよ、『雪が見たくて来たんですけどねぇ』。
このあと数日はまだ降雪が残るようです。でもそれは雨と紙一重、気温を思うとおそらく平地では雪にならないでしょう。「雪を見たい」とおっしゃるお客様、今冬はもうあきらめたほうがイイかも知れません。

数日前のこと、お若い男女が角館草履を見つけると、なにやら興奮気味に話していました。ちょうどそのときほかのお客様が実演の見学中で、ちょっと気になりながらもお声を掛けられずにいたんですね。
それから20分も経った頃でしょうか、再度のご訪問です。男性が言うのは、『この草履、外で履けるように作ってくれませんか?』。このご希望は、一年にかなりのお客様から言われます。

以前のブログでも何度か書いていますが、またあらためて「外履き」には適さないご説明をしますね。
かつての日本人が普段に履いたワラ草履、これが紛れもなく角館草履の原点です。素材や配色デザインなど異なる部分が多いと言っても、やはり構造はワラ草履に限りなく近いわけです。
ではこのワラ草履、いったいどの程度の「耐久力」があったでしょうか。はっきり言って「使い捨て」なんですね。

外で履くとすれば、即ち「走る」「踏ん張る」「跳ねる」などの負荷を覚悟しなければいけません。これがかつてのワラ草履にはとても大きな負担でした。
たとえば小学校の内履きにワラ草履を履いた時代、一週間と使えず新しい草履を編んだそうです。さらに遠足に出かける小学生は、復路の分を別に持たされたくらい壊れるのが早かった話も聞いています。
現在のお年寄りが子ども時代を振り返り、草履を「編まされた」と表現されるのは、すぐに壊れるモノだから『自分の草履くらい自分で編みなさいっ』と教えられた所以と思ってるんです。

さて角館草履、確かに裏面に板ゴム等の加工を施せば、外履きに一応は使える姿になるでしょう。素材のイ草もワラよりは強いですから、少しは長持ちするかも知れません。しかしそれにしても構造上はワラ草履、たとえしばらく使用期間が延びたにしても、数千円を一ヶ月で使い捨てるのは賢明と言えませんよねぇ。

今日秋田市土崎地区からお越しの男女にも、まったく同じことを訊かれました。こちらのおふたりとはしばらくおしゃべりしたのですが、土崎のお祭りで履きたいとのことでした。土崎にも角館同様、古くから伝わる山車のお祭りがあります。男性は囃子方、女性は曳き方とのことでした。
男性が言うのは、『最近丁内の半纏以外に、オリジナル半纏をグループで着るのが流行ってるんですよ。それで雪駄や草履も独特のものが欲しくて…。こういうのって批判もあるんですけどね』。

「他にはないオリジナリティあふれるモノを身にまといたい」。渋谷や原宿を闊歩する若者たちの考えは、もはや全国の若者たちに共通するんでしょう。私も草履職人なんていう一風変わった生業をしていますから、そういう気持ちは決して分からなくありません。
他方、伝統を守り受け継ぐのが「祭り」の基本であることも確かです。最近できたばかりのイベント的祭りであれば、こんなことは言わないんですけどね。

素朴なワラ草履をカラフルな角館草履に仕上げてしまった私でさえ、「和の心」だけは忘れないよう心掛けています。そんな私が願うとすれば、祭りの雰囲気だけは壊さない「オリジナル」でしょうか。

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