角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

田舎暮らしのリスク。

2008年08月12日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
和調の縦縞プリントをベースに、合わせは赤茶の漢文プリントです。和調の落ち着いた明るさが出ましたね、綺麗な草履と思います。
今朝こちらのベース生地を裁断していて、このまま平生地状態もお見せしたいなぁと思いました。それがこちらです。



これからもときどきこうして平生地をご紹介したいと思っています。

もう一ヶ月ほども前でしょうか、仙北市西木町で五十年近くを過ごしたというおばあさんがお越しでした。かつては商いをされていたそうですが、ご主人が他界しご自身も体調を崩されてから、娘さんが嫁いだ東京都板橋区にお住まいだそうです。
『東京サ行ってがら、もう十年もなるぅ』とおっしゃってましたから、おそらく七十歳代と思います。

慣れ親しんだ田舎を離れての都会暮らし、『帰って来でぇと思わねんシか?』とお訊ねすると、おばあさんはしばし考えました。
『うん、んだなぁ、五十年近くも暮らした土地だもの、やっぱり恋しぐなるぅ。んだどもなぁ、東京サいれば病院も近いしスーパーも近い、年寄りには案外イイどごろだよぉ』。

おばあさんのこの言葉を聞いた瞬間、ちょっとだけ「意外」を感じました。都会暮らしの長かった方が、終の棲家に田舎をお選びになる話はいくつもあります。私はそんな「田舎像」を少なからず誇りに思っていますし、少なくとも私が将来都会で暮らすなんてことは想像すら出来ません。

でも少し考えて私は思いました。確かに高齢者には、都会のほうが暮らしやすい面が多々あるんですね。
おばあさんが永年過ごされた仙北市西木町には、診療所がひとつあるだけです。学校も統廃合が進み、大きなスーパーもありません。住民の足であった秋田内陸縦貫鉄道は、累積赤字の負担増から廃線が云われています。
こうした田舎の現状と都会暮らしの今、どちらを取るか言われたときに都会を選ぶ方がいないと言い切れるでしょうか。特に緊急医療体制は高齢者にとって、いや年齢は関係ありませんね、住民すべてにとってまさに“生命線”と思うんです。

一週間ほど前、角館で商いを営む女性が急逝しました。享年52歳、心筋梗塞による急死です。私は親しいというほどの付き合いはなかったですが、互いの存在を知り行きかうときには挨拶を交わす、そんな女性でした。
深夜突然体の不調を訴え、家族が救急車を呼びます。しかし救急車はその後二時間に渡り発進することはなかったそうです。詳細を知らない私が推測を口にするのは軽々でしょうが、受け入れるに十分な病院が近くになかったんじゃないでしょうか。

27年前、8月13日未明に体の不調を訴えた私のオヤジは、目と鼻の先にある角館総合病院に搬送されることはありませんでした。三つ町を隔てた旧六郷町の個人病院で息を引き取ったオヤジ、享年52歳。明日、命日を迎えます。

コメント
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