角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

青春の年代。

2008年08月16日 | 実演日記


今日の草履は、横浜市鶴見区からお越しくださったお若い女性のオーダー草履です。『茶系でおまかせっ!』がこちらになります。
「茶系」と聞いたとき、すぐにこちらの配色が頭に浮かびました。『気に入らない配色が届いても怒らないでくださいよ~』かなんか言ってましたが、実は少しばかり自信があったんです。
イメージ通り、和が活きたお洒落な草履と思います。

JRが発売している「青春18切符」、新幹線は使えないものの時間にゆとりのある旅にはかなり格安のようですね。名称に「青春」が付されていますが、もちろん年齢制限もないと聞きます。

十日ほど前でしたか、山口県からお越しの男性もこの切符で旅を続けていました。『竜飛岬まで行って、そこから南下してきたんです。リュックに寝袋を入れてますから、気のままに旅してますよ。去年で仕事から離れたもんで、これからはゆっくりですぅ』。
定年退職後、旅をご趣味とされている方がずいぶんいらっしゃいますね。「羨ましい」と云うにはまだまだ早い草履職人ですが、そんな方々の笑顔はいつも明るいです。

三日ほど前、やはりこの切符で旅している青年がお越しでした。『いやぁ~、ナニを作ってらっしゃるんですかっ?』と笑顔で近づいて来た青年、聞けば来春就職が決まった都内に暮らす大学生と言います。
『春に名古屋の会社へ入るんです。そうなればもう旅行なんて言ってられませんからねぇ』と笑う青年。確かに社会人となれば学生気分では勤まらないでしょう。

『ずっと東京暮らしだったもので、名古屋に不安もあるんですけどねぇ』と言うので、『大丈夫、健全な肉体と精神さえあれば、人間というものはちゃんと順応するもんダっ』と教えました。終の棲家を田舎に求める方々、あるいは老後を子ども頼りに都会へ出る方々との、これまでのおしゃべりでも明らかですね。
青年は、『そうっスかっ、なんか安心しましたぁ』。

実演の写真を撮りたいと言うのでOKすると、ファインダー越しに『いやぁ、なんか職人みたいっスねっ!』。
これこれ青年、「○○みたい」というのは「実際は異なるがとてもよく似た様」を言うものですよ。これでも私は草履職人を自認しているんですからねぇ。そういうのは大学でちゃんと覚えてもらわないとっ(笑)。

昨日のこと、八戸市からひとり旅を愉しんでいるお若い女性がお越しです。興味がありそうに立ち止まったので、実演ベンチに招きました。
女性は昨年まで大学生で、今年から会社勤務がはじまったそうです。『お盆休暇に実家へ行ってもたいしたことがないので、ひとりで歩いてますぅ』と笑う女性。はじまったばかりの「仕事」に若干の不安があると言います。

『一番好きなのは写真と編集なんですけど、就いた仕事はぜんぜん関係ないんです。なんか、ほんとにやりたくてやっているのかさえ…』。若者によくある悩みですね。
『仕事にするのは二番目に好きなこと、一番好きなことは大切にとっておくのがイイよ。仕事にしてしまえば苦労が付き物だから、そんなとき一番好きなことが助けてくれるでしょ』と教えると、『(草履を編むのは)二番目に好きなことですか?』と訊かれました。
私の答えは、『はははっ、一番になっちゃったかもっ』。

五年前にこの草履の第一号作品が完成して、その後人生が大きく変った話をしました。『四十を過ぎて新しい仕事に向かった人もいるんだからっ』と笑うと、気分がほぐれたのか女性は草履をオーダーし旅の続きへと出掛けました。

自由闊達に過ごせるのをひとまず「青春」と呼ぶのであれば、それは学生時代と定年後かも知れませんね。
フランスの諺、『結婚生活がバラ色なのは、最初の一週間と晩年の一週間である』。あれっ、ちょっと意味が違いますか!?
大学とは無縁の草履職人ですから、そのあたりはご容赦を…。

コメント
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