晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

フレデリック・フォーサイス 『戦争の犠牲者』

2010-12-17 | 海外作家 ハ
イギリスの情報機関SISのサム・マクレディは、各国の諜報部では
知らないものがいない、優秀なエージェント。しかし20世紀の終わ
りに、東欧諸国の共産主義体制の崩壊ならびにソ連邦の解体が、それ
まで自由陣営で東側の情報を握っていた機関に、規模縮小という波と
なっておとずれます。先陣を切ってその槍玉に挙げられたのが、マク
レディ本人。
かつて、死と隣り合わせの綱渡りで数々の東側の情報をイギリスにも
たらした栄光を尻目に、彼に引退勧告同然の、指導教官というポスト
に就けという上層部からのお達し。しかし、その裏には、局内にかな
りの信望者と影響力を持つマクレディをスケープゴートにし、その後
局内の縮小をスムーズに執り行いたいという思惑があり、当然これに
反発(時代の趨勢には抗わず、一応のかたちだけの反発)したマクレ
ディと彼が部長を務める部内職員が、聴聞会の開催を要求します。

この聴聞会で、かつてマクレディが母国イギリスのために身体を張り
貢献してきたという武勇伝が語られてゆきます。
これが「マクレディシリーズ」4部作であり、『戦争の犠牲者』は3作目。

だいぶ前に1作、2作目と読んで、それからこの『戦争の犠牲者』を
読まずに先に4作目を読んでしまい、そこから時間が経って、ようやく
任務終了、ならぬ、全部読了。

北アフリカのリビア、ここの軍事政権トップであるカダフィ大佐は、
西側諸国からの攻撃の復讐に燃えて、イギリスのIRAに武器を渡し、
代わりにロンドンを火の海にしようと画策。

この情報をいちはやくキャッチしたイギリス情報部は、リビアからの
武器輸送ルートをキャッチし阻止するためにマクレディに託します。
しかしマクレディは、ルート捜索をするには西側にも東側にも顔が割れて
おり、自由に行動できません。そこで彼が白羽の矢を立てたのは、
かつて諜報部にいて、現在は田舎に引っ込み作家活動をしている、
トム・ロウズ。

しかし、ロウズは首をたてに振ろうとはしませんが、マクレディは、敵の
一人には、昔ロウズと“因縁”のある男がいると教え、ロウズはふたたび
テロリストとあいまみえることに・・・

この作品(マクレディシリーズ4作)は、他の作品に比べれば、やや短い
(といっても、中編よりやや長め)のですが、その分、中身がぎっしりと
つまって読み応えのある、といった印象。

西側を主人公にすると、まあ東側つまり共産圏が悪という構図に仕立てる
のは定石といいますか、フォーサイスの描く人物は、西も東も、純粋な
善も悪もそこにはない、ある意味イデオロギーという見えない「枷」の
被害者たち、というふうに見えます。



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