晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

笹本稜平 『時の渚』

2010-12-22 | 日本人作家 さ
この作品は、サントリーミステリー大賞受賞作品で、居並ぶお歴々
選考委員(浅田次郎、逢坂剛、北村薫、林真理子、藤原伊織)も
絶賛。

元警視庁捜査一課の刑事、茜沢は、警視庁退職後、探偵をはじめ
ます。そこに、余命いくばくもない松浦という老人からの依頼が。
昔はバリバリのヤクザで、妻が出産時に死亡、息から酒の臭いが
した医師を、若き頃の松浦は殴りつけ、赤ん坊を抱えて逃亡。
池袋の公園のベンチで呆然としているところに、ひとりの女性が
声をかけてきます。大泣きする赤ちゃんをその女性は上手にあやし、
松浦の話を聞いて、女性は、この赤ちゃんを私に育てさせてくれ、
というのです。

池袋の「金龍」という居酒屋で女将をやっているという女性に、
松浦は、どうせ極道の男手ひとつで育てるのは無理だと思って、
赤ん坊を渡します。
後腐れのないように、ふたりは名前を名乗らず、女性は赤ちゃん
を抱えて去り、松浦は警察に出頭。
出所した松浦は、足を洗い、飲食事業が当たります。

ガンが全身に転移し、ホスピスに入所している松浦は、せめて
息子に金を残してやりたいと思い、極道時代に世話になった、茜沢
のかつての上司から、茜沢へと連絡がきたのです。

そんな折、その元上司から、茜沢が警察を辞めることになったある
事件の新展開を聞かされます。
三年前、茜沢の妻と幼い子どもが交通事故にあい、子どもは即死、
妻は意識不明。
そのひき逃げの犯人は、事故現場のすぐ近くの資産家夫婦を殺害し、
その直後に車を盗んで、茜沢の妻と子どもを撥ねた可能性が。
この事件の当事者関係にあるとされう茜沢は、捜査に加われません
でした。
すぐに捜査線上に、この資産家夫婦の息子の犯行が疑われましたが、
DNA鑑定でシロ。意識不明だった妻も亡くなり、警察に失望した
茜沢は辞表を出します・・・

それから三年後、都内のラブホテルで若い女性が絞殺死体で見つかり、
女性から検出されたDNAが、三年前の資産家夫婦を殺害した犯人の
型と一致したというのです。

当初から、資産家夫婦の息子が犯人だと強く思っていた茜沢と元上司は、
探偵としての松浦老人の依頼と並行して、この息子、駒井昭伸の行動を
追うことに。

松浦老人が赤ちゃんを渡した女性の手がかりは、なにせ30年以上も前
のことなので、当然「金龍」という居酒屋はもう無く、当時のことを
よく知る年配の方々に聞きまわり、なんとか、女性は「ユキちゃん」
という名前、長野から東京に出てきて、練馬、新橋に在住していたこと
が分かります。

一方、駒井ほうは、茜沢はコンピュータに詳しい知り合いに頼んで、
足取りを追うことに。駒井は現在、芸能プロダクションの社長で、どうやら
麻薬に手を染めているらしいことが分かります。

松浦老人が赤ちゃんを託した「ユキちゃん」という女性は見つかるのか、
息子は生きているのか、また現在どうなっているのか、そして、茜沢の
妻と子どもを殺した犯人は駒井なのか・・・

調査を進めていくうちに、驚愕の事実が明らかになります。しかしそれは
ほんの序章で、そこからまたさらにビックリ。
探偵、人探しという、使い古されたテーマから、よくもここまで広がりと
奥行きを持った心揺さぶるミステリーが描けたものだなあ、と感服。

ミステリーを読んでいると、あくまでこれはフィクションで読んでる自分は
傍観者というか第三者、という距離を保って読み進む作品と、気がつくと
主人公に自分が重なって、ともに怒り、ともに涙し、ともに笑う、といった
作品もあり、この「時の渚」は、後者ですね。

そして、ふっと我に帰り、ああ、茜沢さん、これからの人生、幸せになって
ほしいなあ、などと思いながら読了。

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