晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

マイクル・クライトン 『緊急の場合は』

2009-08-11 | 海外作家 カ
この作品は、妊娠中絶の手術で患者が亡くなり、その真相を
暴くという医療サスペンスなのですが、1960年代のアメリカ
のほとんどの州では妊娠中絶手術は違法で、しかしながらそ
こは“魚心あればなんとやら”で、請け負う医師が存在してい
ました。

ボストンの病院の病理医ベリーのもとに、同僚の医師アートが
逮捕されたという連絡が入ります。容疑は、中絶手術で患者
の女性が死亡したことと、そもそも中絶手術じたいが違法であ
るということ。
この死亡した女性というのが、名門ランドール家の娘なのです
が、アートはこの娘の手術は身に覚えがないと言うのです。

ベリーはアートの無実を信じ、真相を見つけ出そうとしますが、
この一件の関係者はだれも協力してくれず、ベリーに手を引け
と諭す者まで。
そのうちに、ベリーの近辺で怪しげな動きが見えはじめ、さらに
直接ランドール家からベリーに圧力が・・・

作家になる前に、大学で医学を学んでいた著者ならではの、病
院内、病理検査の緻密な描写がすばらしく、この当時のアメリカ
がかかえていた病も物語に絡んできて、そして、事件が終結に
むかうそのほんの数歩手前であらたな問題勃発、といった著者
お得意のパターンが、読み終わるまでハラハラドキドキさせてく
れます。

ようやく今年になって脳死判定の基準が法制された日本ですが、
アメリカでは前から「脳死は人の死」との基準があり、臓器移植
は新鮮であればあるほど移植はスムーズに行われるため、この
基準の無かった日本や諸外国は移植手術を求めてアメリカに渡
らざるをえず、高額費用もネックになるなどの問題もありました。
しかし、妊娠中絶に関する是非は、アメリカ国内ではいま現在も
続いており、「これから生まれる者」と「これから死にゆく者」に
対する尊厳というか、根本的な考え方の違いがあります。
アメリカあるいはキリスト教では仏教の「法事」にあてはまる行事
は、たぶん無いんじゃないかと思います。
一方日本でも中絶の是非はあるものの、アメリカあるいはキリス
ト教のような捉え方はありません。

人の生と死、という絶対原理そして宇宙の法則に、人間がどんな
に考えて法整備したところで、100パーセント正しいとされる結論
は出ないよなあ、と考えさせられました。

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