非国民通信

ノーモア・コイズミ

何でも放射能のせいにしていると、本当の原因を見落とすので危険です

2011-10-30 23:26:37 | 社会

「子どもの甲状腺機能に異常」報道は行き過ぎ 専門医学会が「原発と結びつける理由なし」(J-CAST)

   「福島から避難した子どもたちの甲状腺機能に変化があった」として、福島第1原発の影響を疑う声が相次いでいる。ところが、子どもの甲状腺の専門医などでつくる学会が、調査データを取り寄せて分析し、「放射線被ばくと直接結びつけて考慮すべき積極的な理由はない」との見解を発表した。どうしてこうなったのか。
 
   波紋が広がっていたのは、長野県松本市のNPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」(JCF、鎌田実理事長)と信州大学医学部付属病院が行った調査。

(中略)

   JCFでは、10月初旬になって、この結果を公表。発表では、「原発との関係は分からない」とされたが、JCFの鎌田実理事長(諏訪中央病院名誉院長)が報道陣に、「色々意見はあるが、被ばくの可能性は捨てきれないと思う」などと発言したこともあって、各紙は「甲状腺機能に変化」などと見出しに付けて報じた。このことから、あたかも原発が原因で甲状腺に異常が生じたかのような不安が広がっていた。

   だが、甲状腺の病気を専門とする医師でつくる日本小児内分泌学会は、10月11日になって、この報道内容に反論する声明を発表した。学会では、信州大学から検査の実際のデータを受け取って検討。その結果、今回の検査結果で基準値から外れた幅は、いずれもわずかなものであり、「一般的な小児の検査値でもときにみられる範囲」「これらの検査結果を放射線被ばくと結びつけて考慮すべき積極的な理由はない」と結論づけている。

(中略)

   また、総論として、仮に被ばく後数ヶ月で甲状腺の病気が発症したとすれば、相当量の放射性ヨウ素の被ばくが起きていることになる。だが、これまでに行われた高放射線量の被ばくが疑われる子どもに対する調査でも、ひとりも甲状腺機能に変化を起こすような高線量の被ばくは確認されていない。このことから、「今回の場合は、検査値のわずかな逸脱と放射線被ばくとを結びつけて考慮すべき積極的な理由は、ないものと考えます」と結論づけている。

 まぁ、ちょっと前ですけれど引用元でも触れられているように「(福島の子供達の)甲状腺機能に変化」みたいな見出しが、毎日新聞なんかを筆頭とする考えの足りないメディアに相次いで飾られたことがあったわけです。基本的に新聞は嘘を吐くまではしないにせよ、掲載する情報を断片的なものに止めたり必要な解説を省いたり憶測を交えたりと、読者を意図的にミスリーディングしようとすることも多々あります。その辺は、勝手に誤解した読者の方に責任が転嫁できるとあってか、大手新聞社でも遠慮なく誤った印象を与えるような記事を連発することがあって、その一つがこの「(福島の子供達の)甲状腺機能に変化」なのでしょう。メディアも「お客様重視」と言うべきなのか、とかく読者や購買層の世界観に合致するであろう方向に偏りがち、とりわけ原発事故後はそうした報道姿勢が強まったようにも思います。

参考、神奈川新聞による印象操作の例 同じく読売新聞の場合

 さて、検査対象に選ばれた子供達の甲状腺機能に変化は確かにあったようですが、それは日本小児内分泌学会によると「一般的な小児の検査値でもときにみられる範囲」でしかありませんでした。このような診断結果から報じられるべきは「福島の子供達の甲状腺機能に他県との差は見られなかった」といったところでしょうか。しかるに見出しを飾ったのは「(福島の子供達の)甲状腺機能に変化!」でした。確かに変化がなかったわけではないだけに、全くのウソではないのかも知れません。実態とは異なるものを想像したのは読者の問題とも言えます。しかし、やはり公器たるもの読者に誤ったイメージを与えないよう、単なる観測事例だけではなく、それが何を意味するのか判断するための情報をも適切に提示して欲しいものです。こういう場面でこそ、メディアの質が問われます。

 当時のアメリカ大頭領であったブッシュとも繋がりのある大富豪一家にしてイスラム教徒の腎臓病患者が大規模なテロ事件を起こしたとき、アメリカ社会から嫌悪の対象とされたのはイスラム教徒でした。ある青年がマリリン・マンソンの音楽を聴き、それからボーリングで遊んだ後に銃乱射事件を起こしたとき、槍玉に挙げられたのはマリリン・マンソンでした。ちょっと派手な殺人事件の容疑者宅でゲームソフトや漫画、アニメなどが見つけられれば、それが原因にされがちでもあります。何かに連れ、事件との関連性は恣意的に作られがちです。何か適当に「それっぽいもの」を事件を引き起こした要因として排除や憎悪の対象に選んでしまう、その恣意性に無自覚な様もまた原発事故後は強まるばかりなのではないでしょうか。

 放射線の影響などとは無関係に、甲状腺機能には一定の割合で変化が出てしまうものです。ヨウ素剤を大量服用又は長期連用することで、甲状腺過形成や機能低下を生じることだってあります(ある種の人が主張していたようにヨウ素剤を広範に配布していたら、相応の健康被害が生じていたことでしょう)。いつの時代であれ癌になる人もいれば鼻血を出す人もいるわけです。しかるに原発事故後は、こうした「いつの時代にもあったこと」を、さも「原発/放射能のせい」であるかのごとく吹聴して回る人もいれば、信じて疑わない人もまた少なくありません。しかるに何らかの体調不良が見られたときに「原発/放射能のせい」と勝手に断定されてしまうと、本当の原因が見えなくなってしまうこともあり得ます。

 専門家任せにせず、自分たちで判断する、という姿勢は必ずしも悪いものではないのかも知れません。ただし、その結果として無免許の医師が横行するかの如き事態を招くとあらば黙認してもいられないのではないでしょうか。福島近隣でも被災地でも、そして全く関係ない地域でも体を悪くする人は必ず出てきます。そこで適正に医師の診察でも受けられていればよい、あるいは原因が特定されて対策が採られるようであればいいのですが、何でもかんでも「原発/放射能のせい」にされてしまうことで誤った診断結果が社会的に下されてしまうことだってあり得るわけです。こうなったときこそ、本当に危険が高まるのではないでしょうか。何でも放射能のせいにしておけば読者のウケは悪くないとしても、そうやって読者の勘違いを焚きつけるような記事を乱発するメディアには猛省を促したいところです。

 

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