goo blog サービス終了のお知らせ 

非国民通信

ノーモア・コイズミ

既に雇用は流動化しているが生産性は下がっている

2016-10-16 22:43:03 | 雇用・経済

解雇規制を緩和 自民・小泉小委が改革案 雇用流動化狙う(日本経済新聞)

 自民党の小泉進次郎農林部会長がトップの「2020年以降の経済財政構想小委員会」が月内にまとめる社会保障制度改革案の骨格が分かった。若者でパートなどの非正規社員が増えているため、正規・非正規を問わず全ての労働者が社会保険に入れるようにする。企業への解雇規制を緩和し、成長産業への労働移動を後押しする。

(中略)

 企業に負担増を求めるが、一方で経済界に要望の強い解雇規制の緩和を認める。労働者の学び直し支援も拡充し、衰退産業から成長産業に移りやすくして労働生産性を高める。政府は激変緩和のための財政支援をする。

 

 電通社員の過労死が巷では話題ですが、近年は自殺者数が継続的に減少しているようで、まぁ現内閣は日本の20年来の悪夢の中ではマシな方なのかと思わないでもありません。とはいえ、この小泉進次郎みたいな周回遅れの規制緩和論者が今なお跋扈しているのですから油断は禁物です。日本経済を破壊した構造改革の悪夢の再来を許してはいけないでしょう。

 まず「正規・非正規を問わず全ての労働者が社会保険に入れるようにする」というのは当たり前のことなのですが、何よりも非正規社員の増加を抑えることが先決です。そのためには、規制が皆無に近く何でも非正規で賄えてしまう現状にメスを入れなければなりません。規制緩和で非正規雇用を使いやすくして来た結果として、日本で働く人々の貧困化があり、日本の国内市場の購買力低下にも繋がっているのですから。必要なのは、規制緩和の誤りを認めて時計の針を巻き戻すことです。前に進みたければ、間違った道を引き返さなければ行けません。

 そして、お決まりの解雇規制緩和云々です。この辺も非現実的と言いますか、経済誌には日本では正社員を解雇できないと書いてありますけれど、現実世界では正規社員の解雇なんて珍しくもなんともないわけです。まぁ南アフリカでもソマリアでもコロンビアでも殺人は禁止されているはずですが、普通に殺人が発生していることは言うまでもないでしょう。解雇も然り、本当に日本で解雇が禁止されているとしても、法律を守らない人はいくらでもいます。そして日本は、会社が労働法を守らないことに定評がある、取り締まるべき立場の人間が主体的に動かないことに定評のある社会です。

 そもそも「衰退産業から成長産業に移りやすくして労働生産性を高める」とは、具体的にどんなケースを想定しているのでしょう。衰退産業勤務で会社から「いらない」と言われる人が、成長産業から引く手あまたなのかどうか、その辺は考慮されねばならないはずです。確かに90年代後半からの日本において成長産業とは専らデフレ産業でした。本来なら事業としては失敗レベルの低い収益性を、従業員を安く長く働かせることで補う、それが日本の経済界における成功モデルだったわけです。

 衰退産業(製造業かな?)で人員整理を進め、そこからあぶれた人をデフレ産業に――そうした流れは既に実績があります。衰退産業から「ある意味で」成長産業への人の移動は今後の課題ではなく進行中の問題と言えますが、その結果はいかがなものでしょうか? 確かに「人を安く働かせたい」事業者の望みを叶えることには繋がっているのかも知れません。しかし、日本経済の労働生産性が上がったかと言えば、相も変わらず低いままです。まぁ一般的な「時間当りの」労働生産性は低くても「賃金辺りの」労働生産性なら、実は日本のそれは高かったりしますけれど。

 たとえばアメリカの場合ですと、法律も社会も差別に厳しく、かつ訴訟リスクの高さも相まって日本のように恣意的な解雇は難しい側面もあったりします。差別的な理由と第三者から判断されうる解雇は日本ほどには簡単ではないわけです。そこで解雇されるのが差別的な取り扱いをされにくい階層(若かったり、白人であったり)であるならば、まぁ人の移動は起こりえるのかも知れません。逆に日本では特定の年齢層を狙い撃ちにしたリストラですとか、欧米の弁護士から見れば「格好の訴訟のネタ」になりそうなケースが一般的です。

 元・勤務先から差別的な取り扱いを受けるような階層に属する人々であれば当然、次なる就職先を探す上でも差別的な取り扱いを受けやすい、すなわち採用されにくいことは言うまでもありません。要するに「再就職が難しい人」ほど解雇されやすいのが日本の現状で、このような社会において解雇規制緩和が「成長産業への労働移動」を促進するなどとは、マトモな人間であれば誰も考えられないことでしょう。先んじて必要なのはむしろ、企業に枷をかけていくことの方だと言えます。まぁ成長産業=デフレ産業という路線を継続するならば小泉進次郎の主張も成り立つのかも知れませんが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

会社の偉い人々とは、我々が考えているよりもずっとナイーブなのかも知れない

2016-10-09 23:55:18 | 雇用・経済

「金目的の従業員はいらない」コンビニ店長の発言が物議 でもその言い分はまんざらウソとも言い切れない?(キャリコネニュース)

人不足のコンビニでバイトをする男性が、9月23日に投稿したツイートが話題になっている。求人への応募がないことから、

店長に対し「時給上げたらどうでしょうか?このままでは人員不足が懸念されます」と提案。すると店長は、こう切り捨てたという。

”「金目的の従業員とかいらないわ」

店長は時給引き上げを提案する男性に「金目的の従業員欲しいと思う?」と尋ね、「目的はどうあれ仕事さえすればそれでいいかと」と答えた男性を、上記のように諌めた。

 

 まぁ紹介されている事例はコンビニ店長のケースですが、割と日本全国どこの会社にも当てはまるのではないかと思います。「仕事さえすればそれでいい」なんてことはなく、飲み会には欠かさず出席したり残業してやる気をアピールするなど、日本で通用する人材になるためには実務以外のプラスアルファが求められるものですから。そして表題の「金目的の従業員はいらない」云々ですね。これも実に日本的と言えるでしょうか。

 引用は長くなりすぎるので略しますが、当然のことながら「バイトに時給以外のなにを求めているんだ」「金目的じゃない従業員なんているのか?」云々と店長の発言に反感を示すコメントが多く見られたそうです。働く側の感覚としては、そういうものが圧倒的多数派なのではないかと私も思います。しかし、「働かせる側」の感覚は違うわけです。働かせる側(及び、そういう目線でしか考えられない人)にとっては「金目的の従業員はいらない」と。

 現実の採用に「金目的の従業員はいらない」とのポリシーを適用してしまえば、大半の事業者は破綻してしまうことでしょう。「金目的ではない」求職者なんて、そう滅多に見つかるものではありません。ところが日本の採用で「金のためです」と真実を口にする人もまた滅多にいないのです。匿名のネット上で「金目的じゃない従業員なんているのか?」と語る人でも、リアルの採用面接では本心を隠して、何か別の志望動機を語るのが当たり前ですよね。

 思うに日本の企業(店舗)経営者達、会社の偉い人々とは、我々が考えているよりもずっと愚かでナイーブなのかも知れません。会社に見せる表向きの社交辞令とは裏腹の本心がある、それは働く側の人間に取ってこそ常識ですが、「働かせる側」の人間はナイーブに表向きの社交辞令を信じてしまっているのでしょう。だから、自社の従業員が口にした「金のためではない」動機を信じている、自分の配下には「金目的の従業員」などいないと、そう錯覚しているわけです。本当は金目的の従業員で成り立っている組織なのに、働かせる側の人間だけは、その真実に気づかないまま甘い夢を見続けている、それが日本的経営なのだと言えます。

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金本の貢献も大きかったと思います

2016-09-11 23:35:12 | 雇用・経済

広島カープ優勝の経済効果は331億円、巨人や阪神には及ばず(スポーツ報知)

 関大は7日、宮本勝浩教授(71)が、プロ野球・広島がリーグ優勝を達成した際の経済効果を計算した結果、地元の広島県で約331億4916万円になったと発表した。

 「カープ女子」や、満員続きのマツダスタジアムの集客力、地元金融機関の「優勝預金」などが、経済効果の大きな要因と分析。

 過去の巨人や阪神には及ばないものの、それ以外の球団の優勝と比較して、今年の広島の優勝は非常に大きな効果だという。

 

 さて○○が優勝した場合の経済効果云々というガバガバ指標が出てくるのは珍しいことでも何でもありませんが、これを報道するのが読売一派のスポーツ報知とあってか「過去の巨人や阪神には及ばない」と、他球団のファンの反感を買うであろう一文が付け加えられています。まぁ、無粋ではあるかも知れませんけれど、それもまた事実でしょう。脳天気に特定球団優勝時の経済効果の数字を並べるだけより、比較対象を提示した方が報道としては良質です。

 なお中国電力のシンクタンクによる2015年の発表では、広島優勝時の経済効果は256億円とのことでした。それが実際に優勝した今年は331億円ですから、結構な上振れと言えます。しかし読売の優勝なら600億、阪神の優勝なら400~700億と言われていますので、やはり経済効果の面で及ばないのは、確かに間違ったことではないのでしょう。とりあえずヤクルトや中日が優勝した場合よりは高いようですが……

 そもそも選手やファンにとって経済効果なんてどうでもいい話ではあります。ただスポーツ紙でもない一般向けのメディアが「経済効果」と銘打って報道するのであれば、このスポーツ報知のように多少なりとも比較対象を持ち出した方が良いのではないかと思います。広島優勝の経済効果が331億あるいは334億に上るとしても、その裏では阪神が優勝出来なかった場合、もしくは読売が優勝できなかった場合の逸失利益もあるわけです。「経済」を語るなら、それも考慮しなければいけません。

参考、税制優遇で雇用を「移動」させたという話

 たとえば法人税減税に正の経済効果があるかのように語る人もいます。この辺は財界人やエコノミスト、コンサルタントに政治家が大真面目に主張する一方で、実際のところは○○優勝時の経済効果と同じと言えます。特定の国や地域が低い法人税率を設定し、租税回避に勤しむ企業を誘致したところで、その地域に税収や雇用がもたらされることがあったとしても、逆に他の国では税収及び雇用が流出しているだけだったりするのですから。

 単純にスポーツの話であれば「○○が優勝したので経済効果○○円!」でも済むのですが、スポーツに止まらない経済の話となると、当然ながら事情は異なります。優遇措置で雇用なり税収なりを生み出しているかのように喧伝していても、その実は富を移動させただけ、失われたものを無視してプラス分を数えているだけみたいなケースは数多あることでしょう。そうした愚かな主張は、しかるべく否定され退けられねばなりません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

同一賃金でも不公平なのだが

2016-08-21 21:27:41 | 雇用・経済

非正規賃金、正社員の8割に=働き方改革、月内にも始動-政府(時事通信)

 安倍政権が最重要課題と位置付ける「働き方改革」の柱の一つ「同一労働同一賃金」の実現に向け、政府は非正規労働者の賃金を正社員の8割程度に引き上げる方向で検討作業に入る。9月に予定する「働き方改革実現会議」発足に向け、具体策づくりを担う「実現推進室(仮称)」を8月中にも内閣官房に設置し、準備を加速させる。

 実現会議は安倍晋三首相が議長を務め、加藤勝信担当相や塩崎恭久厚生労働相ら関係閣僚と労使の代表、有識者で構成。(1)同一労働同一賃金の実現(2)長時間労働の是正(3)高齢者の就労促進(4)障害者やがん患者が働きやすい環境の整備-を主なテーマに、来年3月までに行動計画を取りまとめ、関連法案を国会に提出する段取りを描く。

 

 「働き方改革」の柱の一つが「同一労働同一賃金」とのことですが、その具体案として「非正規労働者の賃金を正社員の8割程度に引き上げる方向」なのだそうです。なんだかいきなり「同一ではない」目標が大まじめに設けられつつあるようで、まさに出オチと言ったところでしょうか。非正規社員と正社員とで労働内容が同一ではないとの前提もあるのかも知れませんけれど、最初から看板倒れの印象を受ける人も多いであろうことは想像に難くないですね。

 安倍政権が掲げたインフレ目標は、ご存じのように達成されていません。実際の到達点は往々にして目標よりも低いものになりがちなのだから、2%を狙うならば5%くらいの目標を掲げておかなければ駄目だろう等々と、先見性のある人は語っていたものです。非正規労働者の賃金目標も然り、目標値が8割では、実際に到達できるのは正社員の6割が良いところでしょう。8割を目指すなら、看板は10割にしておかないと期待すら出来ません。

 現実問題として非正規社員の賃金水準は低い、月給レベルではまだしも賞与などを含めると差は広がる、昇給機会や雇用の継続なども鑑みて生涯賃金を考慮すれば歴然たる差が出てしまうわけです。そこから「非正規労働者の賃金を正社員の8割程度」に持って行くことができるのなら「現状に比べれば」改善とは言えるのかも知れません。しかし8割では目標を達成したところで同一労働同一賃金の達成には遠いのも現実です。「当座の是正措置として8割」の目標はアリとしても、「終着点として8割」では話にならないと言えます。

 そもそも、「同一労働同一賃金」で良いのでしょうか。概ね雇用の継続が期待できる正社員と、いつ失職するか分からない非正規社員の場合、労働内容が同一でも抱えているリスクは異なります。公平性の観点からは、失職のリスクを負わせている分だけ非正規社員には正社員よりも高い賃金が支払われなければなりません。ところが、ハイリスクな働き方ほどローリターンというのが現実だったりするわけです。我が国の労働市場における競争は、常に不公平なのです。

 もし既にそういう先行研究があれば教えて欲しいのですが、まずは「リスクに応じて許容される賃金差」を意識調査してみる必要があるのではないか、と思います。正規/非正規格差の問題ならば、「非正規(有期)雇用に伴う失職リスクは、どれだけの割増賃金が支払われるならば許容できるか」、あるいは正社員間でも「転勤のあり/なしで、どこまでの賃金格差が許容できるか」、「時間外残業のあり/なしで、どこまでの賃金格差が許容できるか」「本人の意思に反した異動のあり/なしで、どこまでの賃金格差が許容できるか」等々。

 僻地や海外に飛ばされるかも知れない、深夜や休日でも会社に拘束されるかも知れない、全くの畑違いの仕事を強いられるかも知れない、そうしたリスクを負わされている社員が、そうでない社員よりも高い賃金を得ることには概ね社会の理解が得られることと思います。ただし、当然のことながら無制限ではありません。果たして「どこまで」が妥当なラインなのか、細かな項目毎に広範な調査が行われるべき――そして時代の変遷に合わせて継続的に更新されるべき――と考えます。そうすることで「僻地に飛ばされるリスクは少ないけれど、いつ契約を打ち切られるか分からない」ような雇用形態の妥当な賃金も分かろうというものですから。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

低い賃金水準こそが日本経済のリスク

2016-07-29 22:17:13 | 雇用・経済

外国人労働者、陰る日本の魅力 韓国・台湾と争奪(日本経済新聞)

 外国人労働者の「日本離れ」が静かに進んでいる。韓国や台湾などが受け入れを進め、獲得競争が激しくなっているためだ。日本で働く魅力だった給与などの待遇面も、差は急速に縮まる。日本の外国人労働者は今年中に100万人の大台を突破する見通しだが、今後、より一層の受け入れ拡大にカジを切っても外国人が来てくれない懸念が強まってきた。(奥田宏二)

 「月給30万円なんて出せない」。東京・赤坂にある老舗の中国料理店の店主は嘆く。アルバイトを募集したところ、それまでの2倍の給料を中国出身の若者に要求された。これまでの給料だと「中国で働くのと変わらない」と相手にされない。店主は「年中無休」の看板を下ろし、店も早く閉めるようになった。

 上海市の平均月収は2014年の統計でも5451元(約9万円)に達し、その後も上昇を続ける。アジア域内での経済力の盛衰は労働人口の減少に悩む日本の地方にも及ぶ。

 外国人労働者のうち中国人が7割を超えていた愛媛県。同県中小企業団体中央会は今年1月、ミャンマー政府と技能実習生の受け入れ協定を結んだ。愛媛県の最低賃金でフルタイムで働いた場合の月収は約11万円で中国の都市部と大差ない。中央会の担当者は「日本に来るメリットがなくなっている」と分析する。

(中略)

 技能実習生として、縫製工場で働く20代のベトナム人女性は言葉少なだった。残業代は最低賃金の半分以下しかもらっていない。労働契約の中身も「知らない」ので、そうした待遇が違法かどうかもわからない。出国するために100万円以上を支払っており「働き続けるしかない」。

 潜在成長力低下を補うための移民受け入れ論もくすぶるが「日本は海外から見たときの魅力がなくなっている」(日本総研の山田久チーフエコノミスト)のが実情だ。

 

 ちょっと引用が長くなりましたが、要するに日本の賃金水準はアジア諸国から見て魅力的なものではなくなってきているわけです。「賃金を引き上がれば失業が増える」という実体を伴わない空理空論が支配的な我が国の経済界では、専ら利益の最大化よりも働く人の取り分の最小化を追求しているかのような動きも目立つところですが、その結果はどうしたものでしょうか。日本の会社は狙い通りに人件費の抑制にこそ成功している一方で、世界経済に占める日本の地位は着々と低下を続けてもいます。

 僅かに景気が上向くように見えても専ら非正規の求人ばかりが増える、賃上げ幅が微増したかに見えても非正規率の高さで労働者全体の平均賃金は必ずしも上がらなかったりするなど、とにかく日本は給料の上がらない「人を安く雇える国」へと突き進んでいるわけです。プランテーション経営でもやるなら、それは目的に適った変化と言えるのかも知れませんけれど、上述の「世界経済に占める日本の地位」を鑑みれば、やはり日本経済は全体としてグローバル時代には通用しないやり方を追い求めているとしか言いようがありませんね。

 結局のところ「低い賃金水準こそが日本経済のリスク」にすらなっているのかも知れません。本当の意味で日本が労働力不足になるには相当な長い年月を要するように思われるところですが、いざ労働力不足が現実のものになったとき「日本は海外から見たときの魅力がなくなっている」のですから。今は現地の親日派ブローカーと組んで中国農村部の人やヴェトナム人を騙しては実習生に仕立て上げるなどしているわけですけれど、そうしたブローカーだって「韓国や中国都市部に売った方が儲かる」と判断するようにもなることでしょう。

 以前に介護現場へのロボット導入の話を書いたりもしましたが、「ロボットが高い=人にやらせた方が安い」ために導入が進んでいないという実態があります。ここで日本とは違って人件費の高騰する国であれば、いずれはロボットの方が安くなる、好むと好まざると機械化を進めるというイノベーションにも繋がるわけです。逆に賃金の抑制が容易で、非正規化を進めることでさらなる人件費カットが可能な日本では、ロボットを導入するのではなく給料をカットする、安い外国人を買ってくることの方が解決策になってしまいます。「人を安く働かせれば済む」国では、イノベーションは阻害されるのです。

 現政権下ではことあるごとに、政府が財界に賃上げを要請しています。その辺、何もしなかった前政権よりはマシ、特定政党への支援しか頭にない大手労組よりはマシではあるのでしょう。しかし、口先だけの賃上げ要請がもたらしたのは、「お茶を濁す」レベルの微々たるものでしかありません。確かに個々の企業からすれば、自社の賃金を低く押さえ込んでおくことこそが利益の元であり、株主への説明も付きやすいものなのかも知れません。とはいえ、社会全体で賃金が低いまま据え置かれれば個人消費は冷え込み、それが経済成長を押しとどめる要因ともなっているわけです。もうちょっと政府を危機感を持って、企業に対して強い姿勢を見せるべき段階に来ているのではないでしょうかね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「人並み」とは

2016-07-10 21:21:34 | 雇用・経済

「仕事は人並みで十分」の新入社員、過去最高に(読売新聞)

 新入社員を対象にした公益財団法人「日本生産性本部」などのアンケート調査で、そう回答した人が58・3%と過去最高だったことがわかった。「人並み以上に働きたい」という回答(34・2%)との差は調査が始まった1969年度以来最大だった。同本部は「就職活動が『売り手市場』のなか、比較的容易に就職でき、競争心が高まっていない面がある」としている。

 就職率が低迷した時期には、「人並み以上」の回答が高くなる傾向にあったが、就職率が好転した近年の状況を反映した形となった。

 また、会社で目標とするポストの設問では、「社長」が10・8%と過去最低になった一方で、部長や課長などの中間管理職が計36%と10年前より13ポイント増えており、相次ぐ企業不祥事を背景に、重い責任を負うトップを回避する傾向もみられた。

 

 さて本日のネタはこちら、曰く「過去最高」との触れ込みですが、なんだか毎年似たような報道を見ている気がしてしまうのはどうしてでしょうね。とりあえず「仕事は人並みで十分」と回答した人が過去最高で、「人並み以上に働きたい」という回答との差もまた調査開始以来最大なのだそうです。この辺の数値は就職率に左右されるようで、不況であれば「人並み以上」の回答が高くなる傾向があり、「人並みで十分」の回答が増えたのは就職率の好転を反映したものだとか。

 まぁ、経済的な豊かさと精神的な豊かさは比例すると言いますか、経済的に貧しければ「人並み以上」に働かないと生活が立ちゆかなくなる人だって増えるわけです。逆に経済的に豊かな社会であれば「人並み」に働けば「十分」な対価が得られると言えます。現代において経済の衰退以上に人間の自由を束縛するものはないのでしょう。景気が低迷して就職難の時代ともなれば、生きていくためには好むと好まざると「人並み以上」の働きを競わされる、それを強いられるようになってしまうのですから。

 なお会社で目標とするポストについては「社長」が10・8%と過去最低、部長や課長などの中間管理職は計36%で10年前より13ポイント増えたのだそうです。報道では「重い責任を負うトップを回避する傾向」と伝えられていますけれど、現実はどうなのでしょう。会社が傾けば末端の非正規は解雇という最も重い責を負わされますが、個人事業主に毛が生えた程度の零細の社長ならいざ知らず大企業の経営者ともなれば、会社を潰しかけてもヨソの会社に好待遇で迎え入れられたりするものです。日頃を振り返っても、より辛い立場に置かれがちなのは中間管理職の方ですよね?

 それはさておき、「人並み」とは具体的にどういう水準なのでしょうか。「人並みで十分」との回答にノータリンは「競争心が高まっていない」と論評していますけれど、今時の新入社員が考える「人並み」とは実際のところ、どれぐらいのレベルなのでしょう? たとえば婚活女子が口にする「人並みの年収」とは、最頻値や中央値どころか算術平均を大きく上回る、一握りのエリート層だけに到達可能な年収であったりするわけです。一口に「人並み」と言っても実は相当に「高望み」をしていることもあると言えます。

 現に新卒で正社員として就職できる人だって今や当たり前ではない、部長はおろか課長になれるのだって当たり前であるどころか少数派になっているのが現実です。「人並みで十分」と回答した新入社員が思い描いている「人並み」とは、少なくとも日本で働いている人の平均を下回るようなものでは決してないような気がします。せいぜいが「光の当たる部分」だけを基準にした「人並み」であり、それを実現できるのが日本で働く人の過半を形成することは決してない――それぐらいの高い水準なのではないでしょうかね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来へのツケ

2016-06-05 22:06:02 | 雇用・経済

厚生年金逃れ、国の想定以上 建設業・ごみ収集員も(朝日新聞)

 従業員に資格があるのに事業所が厚生年金に入れていない「加入逃れ」が政府の想定以上に広がっている。厚生労働省は未加入者を約200万人と推計して事業所の調査に乗り出したが、対象に含まれない建設作業員やごみ収集員の一部も未加入なことが朝日新聞の調べでわかった。

 従業員5人以上の個人事業所は厚生年金に加入する義務がある。だが、建設業者の中には雇っている作業員を「一人親方」として仕事を外注している実態が判明。厚生年金の保険料負担を避ける狙いで、こうした作業員は保険料が全額自己負担の国民年金に入る。一人親方は2015年度で全国に約60万人おり、加入逃れのため装われたケースも少なくないとみられる。

 東京23区の日雇いのごみ収集員(2千~3千人)のほとんども厚生年金に未加入だ。同じ業者に1カ月以上続けて雇われれば厚生年金の加入条件を満たすが、委託業者の一部は違法に加入を避けている。

 

生活保護、高齢者世帯が初めて5割超える 厚労省発表(朝日新聞)

 生活保護を受給した世帯のうち、65歳以上の高齢者世帯の割合が50・8%となり、初めて半数を超えた。厚生労働省が1日に発表した3月分の速報値でわかった。高齢化を上回る勢いで増えており、公的年金が老後の暮らしの支えになっていない実態が改めて浮き彫りになった。

(中略)

 公的年金は老後の支出すべてを賄えるように設計されておらず、年金頼みの老後を送る人にとっては十分な額ではない。14年に厚労省が実施した調査では、高齢者世帯に属する生活保護受給者の約47%は公的年金を受け取っており、その平均受給額は約4万6600円。ただ、高齢者の夫婦でともに無職の世帯は月平均で約27万5700円(15年家計調査)の支出がある。

 

 2本ほど続けてニュースを引用しましたが、いかがでしょうか。この国の未来を占う上では大いに判断材料になると思います。そして未来を変えるか変えないかは、間接的ではあれ有権者にも問われるところですね。日本の会社の不法行為は目に余ると言いますか、事業者と消費者は守っても労働者は守らない日本の緩すぎる規制の結果が将来へのツケになるであろうことは繰り返すまでもありません。虚偽記載に溢れた求人はハローワークに公認され、偽装雇用は横行するばかり、それでも企業が罰せられることなど万に一つ以下の確率でしかない、まさに日本は雇用者天国といった風情ですが、その結果として今に至るわけです。

 かつて我が国は日本国籍を持たない――1945年までは有無を言わさず帝国臣民としてカウントしていたはずですが――日本の永住者を年金加入から排除してきました。その結果として、高齢者の中でも日本国籍を持たない人々の生活保護受給率は幾分か高い物になっていたりします。高齢になれば自分で稼ぐのは誰だって難しくなるわけで、そうであるにもかかわらず公的年金の対象から除外などしていては、当然のこととして年金とは別の社会保障に頼らざるを得なくなるに決まっているのです。50年以上前から、わかりきっていたことです。

 何事も目先のコストカットは将来の負担に繋がります。賃下げと人員削減で一時的に利益を上げているように見せかけている企業が、その後は着実に沈んでいくのと同じように、こうした年金の加入逃れは将来的な「年金以外の」社会保障負担を増やすだけ、社会全体で見れば将来に借金を残す行為になっていると言えます。改革と称して諸々のコストカットを進めて賞賛される政治家や企業経営者は数多いますけれど、長いスパンで見れば20年後、30年後により重い負担がのしかかってくる、そんなケースは枚挙にいとまがありません。

 とかく日本のメディアや経済筋の論者は「将来に借金を残すな」と言って目先の財務状況の改善を急務と説くものです。しかるに実際のところは全くの筋違いと言いますか、目先の出費を惜しんで将来への投資を減らしインフラを破壊してしまうと、それこそ次の世代が苦しめられることになるものなのではないでしょうか。目先のコストカットを進めれば将来の世代は育たず、未来の収穫を減らして結果的に収支を悪化させてしまうだけ、借金を増やす要因を追加してしまうだけです。「将来に借金を残すな」と声高に説く人が実行を迫っているのは、種籾を食べることだと言えます。

 ドイツその他の債権者や投資家を救ったEUの緊縮財政はギリシャを壊滅させ、世界経済にブレーキをかけることにもなりました。緊縮財政はある種の人々に精神的満足感をもたらすものではあるかも知れませんが、その爪痕は将来の禍根となるものでもあります。逆に財政出動のように普遍的な景気刺激策は、種籾を植えるものです。目先の出費は増えるかも知れませんけれど、将来の収支を改善するための投資を惜しんではいけないでしょう。年金行政も然り、企業の負担を緩和することばかり考えていれば、それは必然的に将来的な社会の破綻を招くものです。そこはしかるべく企業に負担させなければ、当の企業ですら生きられない荒廃した社会ができあがってしまいます。

 ……後はまぁ、ことによると民間企業以上に「公」の世界が悪い意味で先を行っている部分もあるわけです。日本経済が伸び悩む主因としては個人消費の低迷が広く指摘されるところで、その原因としては賃金水準の下落、非正規雇用への急速なシフトが挙げられます。そして非正規雇用へのシフトを他に先駆けて強行してきたのが公務員の世界であるはずです。「公」の世界で行われていることなのですから、それに続いた民間企業が非難されるいわれはないのかも知れません。冒頭の報道で例示されている「東京23区の日雇いのごみ収集員」も然り、脱法行為を続ける事業者に平然と業務委託を続けているのは公的機関なのです。不法な年金の加入逃れも、役所のお墨付きなら仕方がありませんね!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヨソのバイトもこれくらいやるべきだと思う

2016-05-29 22:39:34 | 雇用・経済

帝国ホテル、従業員の「芸能人がいた」ツイートを謝罪(ITmedia)

 帝国ホテルは5月20日、芸能人が来館したとする業務委託先企業の従業員のTwitter投稿を「不適切な書き込み」として謝罪した。「指導・管理体制を一層徹底し、再発防止に努める」という。

 16日夜から17日にかけて「帝国ホテルで働いているんだけど」と従業員であることを明かした上で、ある芸能人を目撃したとツイートしていた。同ホテルの入館証と思われる写真なども投稿していたが、現在はアカウントが削除されている。

 同ホテルは「業務委託先企業の従業員が、SNS上にお客様に関する情報を発信するという事態が発生いたしました」と説明。内容についても「ある方が帝国ホテル東京に来館された事実はございません」と否定した。指導・管理体制を徹底し、再発防止に努めるとしている。

 

 ……とまぁ、こんなニュースも先日はありまして、来館して「いない」ことを公表するのも管理として問題があるんじゃないのかなどと帝国ホテル側の対応に疑問を投げかける人もいたりしたわけです。そして問題の書き込みを行ったのは「業務委託先企業の従業員」とのこと、なんでも帝国ホテルのアルバイト募集は普通に求人サイトに出ているようで、フロント業務であれば時給1000円程度だそうです。時給1000円のアルバイトで守秘義務も糞もないよな、と思います。

 過去にはベネッセの顧客情報を非正規社員が持ち出していたなんて事件もありました。かくいう私自身も勤務先の顧客情報は持ち出せたりします(買い手は探していませんが)。今や非正規社員に中核業務を任せていたり、容易に顧客情報へアクセスできるような立場に置いている会社も多いのでしょう。安っぽいビジネスホテルだけではなく帝国ホテルのような宿泊料の高いホテルでも、それは例外ではなさそうです。

 じゃぁ非正規雇用だから問題が起こるのかと言えば、その雇用形態がクローズアップされないだけで正規に雇用されている従業員が会社に重大な事件を起こすケースだって無数にあるわけです。外国人が犯罪を犯せば外国人であることが注目されますけれど、日本人が犯罪を犯しても日本人であることは注目されないのと同じですね。時給1000円にも満たないような非正規でも高給取りの正社員でも、会社の定めたルールを守ろうとする意識は、実のところ大差ないのではないかという気もします。

 ……で、大差ないからこそ問題なんじゃないのかと私などは思うわけです。ボロは着てても心は錦、非正規でも心はエグゼクティブ、そんな人の方が圧倒的多数派なのが実態ではないでしょうか。ほとんどの人は非正規でも正社員と同様に経営意識を持って会社に尽くしているのです。非正規だからと言って顧客情報をホイホイと外に漏らすような人は、それこそ人が犬を噛むような話で滅多にいない、非正規だからと仕事に手を抜く人はきわめて稀でしょう。そして、だからこそ問題なのです。

 以前にも書きましたけれど、日本の非正規労働者の待遇が悪いのは、非正規社員の能力が高すぎるから、です。非正規雇用なのに正社員と同様に働くのであれば、雇用側にとっては正規雇用を増やすメリットはありませんから。時給1000円のアルバイトでも正社員と同様に真剣に会社へ尽くすのであれば、安いアルバイトの方を増やすのが経営判断としては当然の正解です。もし日本人の大半が「給料の分しか働かない」のであれば、会社側としては「より高いレベルで働かせるためには待遇を上げるしかない」ことになりますが、そうはなっていませんよね?

 現実問題として非正規社員が優秀すぎるからこそ、非正規雇用率の増大に歯止めがかからない、帝国ホテルのような海外からの来訪者への「顔」と呼べるような高級ホテルですら非正規職場になっているわけです。一部上場企業の中核的な情報を非正規社員が管理していたりするのも然り、ですね。それもこれも、わざわざ高い給与を出して正規に人を雇用しなくても真面目に働く人材が手に入る、そういう社会だからこそ非正規雇用ばかりが増えるのだと言えます。逆に今回のように、間接雇用の非正規社員が問題を起こすような事態が続けば、日本の経営者も少しは考えを改めるでしょうか。非正規ではダメだ、間接雇用ではダメだ、しかるべき待遇の正社員ではないと信用できない――そう日本の偉い人が考えるようになってくれればイイと思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本の学生に勉強させたいのなら

2016-05-22 20:39:41 | 雇用・経済

留学生が斬る ここがヘンだよ日本のシューカツ (日本経済新聞)

 中国の山東省出身で08年に立命館APUに入学した杜銘雨さん(26)は大学卒業後、日本語を使って仕事をしたいと考え、日本で就活に挑んだ。商社やメーカーなど大企業を受けるが、いずれも落とされた。現在では文系でも活用できるという理由で、あるIT(情報技術)系企業で働いている。就活を通して感じたのは「採用する際の明確な基準がない」ことだ。

 あるプラント大手のリクルーター面接を受けた時には、学生時代の課外活動について聞かれて面食らったという。「オーケストラでバイオリンを弾いていたが、それがどう関係あるのか分からなかった」。たしかに日本の採用では、学業成績よりもその他の活動での定性的な評価が重視される傾向がある。学生側も、バイオリンをやっていたことを喜んでアピールするだろう。だが、留学生が期待しているのは、学業成績で平等に評価されることのようだ。

 シンガポール出身の曾オスティンさんも「大学の成績が採用に関係ないから学業を放棄して就活に走ってしまう」と手厳しい。大学の成績があまり重視されないことに違和感を覚える外国人は多い。日本の就活生も同じような矛盾を感じたことはないだろうか。学業の邪魔にならないようにと、経団連が毎年のようにスケジュールを二転三転させて混乱しているが、そもそも評価の基準を変えないかぎり、学業優先は実現しないのかもしれない。

 

 折に触れ書いてきたことですけれど、どこの国の大学生だって純粋に「勉強したいから」勉強しているわけではないと思うんですよね。「日本とは違って勉強している」とされる国の学生も「将来、立派な職業に就くため」に勉強しているのであって、本物の向学心の持ち主が占める割合は日本も他国も違いはないのではないでしょうか。そして「勉強しない」と詰られる日本の大学生はヨソの国の場合と何が違うのかと考えると、それはやはり上記に引用した類いの現実が大きく影響しているのだと言えます。

 この外国人留学生が日本の就職活動に対して感じた違和感は私自身も痛感してきたことで、その点で私は日本社会の物差しからは外れていたのだろうなと思うところですが、ともあれ「日本の採用では、学業成績よりもその他の活動での定性的な評価が重視される傾向がある」わけです。血液型ですとか体育会系の部活動への所属歴なんかは聞かれても、大学の成績なんかは一度も問われたことはありません。もし日本社会が「学業成績で平等に評価される」代物であったのなら私はエリートなのでしょうけれど、現実は正反対ですし。

 「大学の成績が採用に関係ないから学業を放棄して就活に走ってしまう」とシンガポール出身の留学生は語ります。ただし出身大学のネームバリューは割と重要ですので、「良い大学に入るため」に受験勉強を頑張る日本の高校生は多いわけです。しかし、その先は勉強しないのですね。理由は考えるまでもないでしょう。そこから勉強しても「良い仕事に就くため」には役に立たないから、ですよね。どこの国の学生も、大学を出た先をちゃんと見据えているのです。「大学を出た先」で求められるのが勉強なのかそうでないのか――それを日本の学生は実によく理解しています。

 日本の教育も行政の決める方針は二転三転していますけれど、結局はニンジン次第なのではないでしょうか。良い大学に入ることが良い会社に入ることの近道なら、教育行政が何を定めようと高校までは決められた教科を学生達は真面目に勉強するかも知れません。しかし、その先が学業「以外」を重視するのであれば、若者が勉強するのは大学入試まで、です。ゆとり教育をやめる、英語教育を早期開始する、プログラミングを教える云々と学校現場を振り回したところで、それを「大学を出た先」の社会で採用の権限を持った人々が評価するかは別問題なのですから。

 行政の決める「何を学ばせるか」なんかよりも、国内企業の「何を身につけた学生を採用するか」の方がずっと、学生が勉強するかどうかへのの影響力は強いように思います。しかるに日本の場合は企業側の求めるものがあまりにも曖昧すぎて「何を勉強して良いのか分からない」学生も多い、学生だけではなく大学関係者にも多いのが実態と言えます。そうして、何も学べないまま時間だけが経過してしまうこともあるでしょうか。おそらく教育行政がナタを振るうべきは教育現場の方ではない、変えるべきはぶら下げるニンジンの方であり、その権限を持った企業側にこそ改革を迫ること、それこそが日本の教育を変えることになるはずです。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

社会人の辞書に"不可能"はない

2016-05-15 21:56:00 | 雇用・経済

 この頃ですと三菱自動車の燃費偽装が話題ですが、少し遡れば東芝の不正会計なんかもあるわけです。そしてこのブログにも過去に書きましたが、私の勤務先でもカラ受注なんかは横行しておりまして、まぁヨソの国は知りませんが日本の会社なら多かれ少なかれどこでも見られることなのかな、という気がします。会社の偉い人の求めるままに実態からかけ離れた都合の良い報告をする、ってのはコミュニケーション能力によって選別された日本のサラリーマンにとっては当たり前の行動なのかも知れません。

 かのナポレオンは「"不可能"とはフランス語ではない」みたいに語ったそうで、これが「我が輩の辞書には~」と訳されて日本に普及しているのはよく知られていることですが、むしろ日本の場合こそどうでしょう? 「"不可能"とは社会人の使う言葉ではない」ぐらいに考えられている気がします。実際、会社で高く評価されている人はおろか下っ端でもマトモに就職できている人、非正規でも会社に完全になじんでいる人は決して「無理です、不可能です」とは口にしませんから。

 ……で、その結果が三菱自動車であり、東芝でもあると言えます。私の勤務先でも会社の偉い人が毎月、全国の営業拠点長に「どうして(予算を)達成できないんだ!」と電話会議で詰問しているわけです。もちろん各拠点で事情はありますし計画通りに受注が取れるとは限らない、それは当たり前のことです。しかし、会社で偉くなるような人の辞書に「不可能」はありません。なんだかんだ言って結局は「(予算達成)できます」と全国の拠点長が宣言し、それに基づいた事業計画が立てられて終わるのです。

 言うまでもなく予算目標が事前の宣言通りに達成されることはなく、蓋を開けてみた結果は当初の目論見からは大きくかけ離れた低い実績でしか出てこなかったりします。そんな結果があらわになって初めて「なぜ見込みと実績にここまで差があるのか」を分析すべく役員層からの厳命が飛び交い、本社の管理部署では上へ下への大騒ぎを繰り広げていたりするのですが――いやはや馬鹿の相手は仕事とはいえ疲れますね。

 私なんかは事前に不可能であることが分かっていれば「それは無理です」と適切に現実を伝えてしまうわけです。だから自分はまともに就職できないし会社でも孤立しがちなんだろうなと思うところですけれど、結局のところ実務に携わっている人間が最も正しく実態を把握しているもので、そこから上がってくる報告が歪められてしまえば将来の予測もおぼつかないのではないでしょうか。「やります」「できます」と言わせることは簡単なのかも知れませんが、実際にできるかどうかは別問題なのですから。

 気象予報士に「晴れ」の予報を出すことを強要することはできますが、翌日の天気を晴れにすることができるわけではありません。むしろ「雨」の予報を受け入れていれば、まだしも対策は取れるというものです。社員が正しく「そんな都合良くは行きません」「我が社では開発できません」「状況は厳しいです」と現状を報告し、偉い人がそれを受け入れることができれば最低でも「備え」ができます。しかし偉い人が望むがままに都合の良い報告を上げる/上げさせるのが当たり前になった会社にできるのは夢を見ることだけです。夢の中では燃費が他社を上回っている、利益は上がっている、計画通りに受注できているのかも知れません。しかし夢はいつか醒めるのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする