Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ロングテールな広告

2009-08-24 23:46:46 | Weblog
クリス・アンダーソンの『ロングテール』の改訂版邦訳書を読む。「マーケティングのロングテール」という章が追加されている。そこで紹介される主なエピソードとアンダーソンの解釈が興味深い。

・GMシボレーのSUV「タホ」のキャンペーンで,消費者にCMを作らせるというコンテストをウェブ上で実施した。シボレーはビデオクリップや音楽を素材として提供,参加者は画像編集ソフトを使ってCMを作る。多数の作品の応募があり,それらの閲覧者の数も膨大であった。しかし,そのなかにはタホを揶揄した,ネガティブな作品が相当数含まれていた。

・デルのカスタマーサービスのひどさに憤慨した有力ブロガーが,その一部始終を「デル地獄」と題してブロクで公開したところ,膨大な数のアクセスと被リンクがあった。このことはマスメディアでも話題になった。これに気づいたデル・コンピュータは当人に謝罪するとともに,創業者が復帰してカスタマーサポートの改革を行なった。しかし,いまだに検索すると,この事件の情報が出てくる。

・マイクロソフトは独立したソフト開発者のなかであまり人気がない。これを打破するために,社内のある開発者が,実際のソフトの開発プロセスをビデオカメラで撮影し,動画をウェブで公開した。多くのアクセスがあったにもかかわらず,会社の公式見解と違う発言をする社員が現れたり,企業機密に触れる恐れもあったりして,社内の各部門から猛反発があった。

これらのキャンペーンが成功したかどうかの判断は,評価指標しだいである。シボレーとマイクロソフトのキャンペーンは,消費者間で波風を立てることで,ポジとネガの2つの感情をともに引き起こしている。しかし,いずれにしても大きな関心を呼び起こし,少なくとも一定数のファンを活気づけたことは間違いない。つまり,日本語に訳すのが難しいといわている,provocative なコミュニケーションだと呼ぶことができる。

たとえ規模は限られようと,熱狂的な顧客を獲得・維持できたなら,それは成功とみなすべきである。ただし,それがどれぐらいの確度で起きるのかは,従来以上に予測が難しい。なぜなら,これはキャンペーンといっても,顧客や従業員が参加し,そこで何を発言するかにかかっている。それを事前にコントロールできないし,そうしようとすると反発を招く。計算不能な不確実性をそのまま引き受ける態度が望まれる。

ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)
クリス アンダーソン
早川書房

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