朝起きて,旅館の最上階にある露天温泉に入る。よく晴れた朝。海が輝いている。朝食のバイキングを食べ終わったのが8時半。学会会場となる大学行きのバスが出た頃だ。しかし,大分経由でもギリギリ間に合う。午前~午後と主に認知科学系の研究発表を聞くが難しい。学際的な学会とはいえ,前提知識がないと他の分野のことはホントよくわからない。てことは,ぼくの発表も,意思決定理論や選択理論を知らない人には,何をやっているのかわからなかっただろう・・・。
午後,渡辺さんの空間的自己相関モデルの報告を聞く。渡辺さんは,この手法をひたすら追求している。行動計量学会には,こういうタイプの発表が少なくない。たとえば非対称MDS。それがいま流行っているとか,実際に使われているとかを気にすることなく,毎年のようにカイゼンし続ける一群の人々がいる。研究者人生とはそういうものかもしれない。そう考えると,ありとあらゆることに手を出している自分の愚かさが身にしみる。同じことを続ける根気が重要だ。
昨夜の懇親会では,何人かの方の挨拶のなかで故・林知己夫氏の名前が何度も出た。偉大な創業者がいて,死後もその影響が残る企業は一般に凝集力があり,組織として強いように思われる。ただし,優良な企業の場合,そうした強い文化を持つと同時に,つねに革新的であることがもう一つの条件となる。経営学で「独り」エージェントシミュレーションを追求している稲水さんに今回奨励賞を授与したことが,この学会が革新的であることの現れならいいのだが・・・。
林氏を中心に行動計量学会が創立されたとき,狭義の統計学を超えたデータ科学を,さまざまな人間の行動や社会現象に適用していこうというミッションがあったと思う。そしてそれはその後,かなり成功した。マーケティングリサーチ業界には林の数量化理論を皮切りに,さまざまなデータ解析手法が普及した。最近では SEM がよく使われるが,その普及にも,春の合宿セミナーなど,この学会の貢献は大きかったと思われる(ぼく自身が伴走してきたわけではないが・・・)。
この学会の今後について僭越ながら語るなら,人間・社会科学分野で汎用性の高いデータ科学的な手法を普及させるというミッションがまだ残っているかどうかが鍵となる。たとえば,この学会でもさかんに研究されている項目反応理論は,教育心理以外の分野でどれだけ応用できるだろうか。少なくともマーケティングでは,応用範囲はかなり限られていると思う。項目反応理論だけでなく,最近は,特定領域に固有の問題に特化した手法の研究が進むという流れにある。
これは,科学の発展段階としては自然な気がする。その領域で実証的裏づけのある理論が乏しい場合,データをして語らしめることが重要だ。そこで汎用的なデータ解析手法が活躍する。しかし,その領域が科学として成熟すると,領域固有の理論モデルが構築され,それをデータに当てはめる形になる。モデルは領域固有のロジックを強く反映する,そうなれば,行動計量学は計量心理学,あるいは計量ナントカ学へと分化する。既存の学問分野の下位に属することになる。
マーケティングは固有のディシプリンが弱いので,汎用的な計量手法がこれからも重宝されるかもしれない。しかし,心理学や経済学(その両者が融合した行動経済学)の理論がそれなりに発展してきているのに,あるとき観察された相関関係を束にしたものを「モデル」と称して報告するだけでいいのだろうか。現場のマーケティングリサーチならともかく,マーケティングサイエンスや消費者行動研究を名乗るのなら,やはり知識を体系化する努力を行なうべきではないか。
手法で領域を横断することの難しさは,エージェントベース・モデリングも同様だ。手法が同じだからといって,社会シミュレーションと交通シミュレーションでは,その原理は根本的に異なる。また,モデリングが容易だからといって,その領域の既存研究をほとんど無視したアドホックなモデルを作っても,その分野の研究にほとんど影響を与えない。学際的なエージェントベースモデリング学会を作っても,なかなかうまくいかないだろうと思われる理由は,そこにある。
今後,学際性を追求するにしても,手法よりは(あるいは少なくとも,手法だけでなく),対象(人間や社会)をどう理解するかに踏み込んだものでないと,実り豊かではないと思う。その意味で,星野さん,竹村さんとともに参加する行動経済学会には,多少とも期待している(経済学者の頑固さを心配しつつも・・・)。ただし,自分にとってしっくりくる学会を探すという発想を捨てて(そんな場所はないと早く悟って),自分でなんとかするよう考えるべきかもしれない。
午後,渡辺さんの空間的自己相関モデルの報告を聞く。渡辺さんは,この手法をひたすら追求している。行動計量学会には,こういうタイプの発表が少なくない。たとえば非対称MDS。それがいま流行っているとか,実際に使われているとかを気にすることなく,毎年のようにカイゼンし続ける一群の人々がいる。研究者人生とはそういうものかもしれない。そう考えると,ありとあらゆることに手を出している自分の愚かさが身にしみる。同じことを続ける根気が重要だ。
昨夜の懇親会では,何人かの方の挨拶のなかで故・林知己夫氏の名前が何度も出た。偉大な創業者がいて,死後もその影響が残る企業は一般に凝集力があり,組織として強いように思われる。ただし,優良な企業の場合,そうした強い文化を持つと同時に,つねに革新的であることがもう一つの条件となる。経営学で「独り」エージェントシミュレーションを追求している稲水さんに今回奨励賞を授与したことが,この学会が革新的であることの現れならいいのだが・・・。
林氏を中心に行動計量学会が創立されたとき,狭義の統計学を超えたデータ科学を,さまざまな人間の行動や社会現象に適用していこうというミッションがあったと思う。そしてそれはその後,かなり成功した。マーケティングリサーチ業界には林の数量化理論を皮切りに,さまざまなデータ解析手法が普及した。最近では SEM がよく使われるが,その普及にも,春の合宿セミナーなど,この学会の貢献は大きかったと思われる(ぼく自身が伴走してきたわけではないが・・・)。
この学会の今後について僭越ながら語るなら,人間・社会科学分野で汎用性の高いデータ科学的な手法を普及させるというミッションがまだ残っているかどうかが鍵となる。たとえば,この学会でもさかんに研究されている項目反応理論は,教育心理以外の分野でどれだけ応用できるだろうか。少なくともマーケティングでは,応用範囲はかなり限られていると思う。項目反応理論だけでなく,最近は,特定領域に固有の問題に特化した手法の研究が進むという流れにある。
これは,科学の発展段階としては自然な気がする。その領域で実証的裏づけのある理論が乏しい場合,データをして語らしめることが重要だ。そこで汎用的なデータ解析手法が活躍する。しかし,その領域が科学として成熟すると,領域固有の理論モデルが構築され,それをデータに当てはめる形になる。モデルは領域固有のロジックを強く反映する,そうなれば,行動計量学は計量心理学,あるいは計量ナントカ学へと分化する。既存の学問分野の下位に属することになる。
マーケティングは固有のディシプリンが弱いので,汎用的な計量手法がこれからも重宝されるかもしれない。しかし,心理学や経済学(その両者が融合した行動経済学)の理論がそれなりに発展してきているのに,あるとき観察された相関関係を束にしたものを「モデル」と称して報告するだけでいいのだろうか。現場のマーケティングリサーチならともかく,マーケティングサイエンスや消費者行動研究を名乗るのなら,やはり知識を体系化する努力を行なうべきではないか。
手法で領域を横断することの難しさは,エージェントベース・モデリングも同様だ。手法が同じだからといって,社会シミュレーションと交通シミュレーションでは,その原理は根本的に異なる。また,モデリングが容易だからといって,その領域の既存研究をほとんど無視したアドホックなモデルを作っても,その分野の研究にほとんど影響を与えない。学際的なエージェントベースモデリング学会を作っても,なかなかうまくいかないだろうと思われる理由は,そこにある。
今後,学際性を追求するにしても,手法よりは(あるいは少なくとも,手法だけでなく),対象(人間や社会)をどう理解するかに踏み込んだものでないと,実り豊かではないと思う。その意味で,星野さん,竹村さんとともに参加する行動経済学会には,多少とも期待している(経済学者の頑固さを心配しつつも・・・)。ただし,自分にとってしっくりくる学会を探すという発想を捨てて(そんな場所はないと早く悟って),自分でなんとかするよう考えるべきかもしれない。