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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

アナウンスメント効果はいかに

2009-08-22 23:08:19 | Weblog
先週1週間,大学は一斉休業。この土日は研究棟が停電。まだ夏休みモードのなかにある感じだが,8月末までの課題を考えると,そうのんびりはしていられない。芸能界の麻薬騒動はそろそろ落ち着き始め,高校野球は準決勝へ,世界陸上は明日で終わる。総選挙は30日の投票日まであと1週間,ぼくの目の届かないところで,熱い戦いが繰り広げられているのだろう。

3日前にコメントしたクチコミ@総選挙の予測結果は,それを見たときは少し現実離れしているように感じたが,その後出た新聞各紙の世論調査の結果を見ると,そうでもないようだ。

「民主」300議席超「自民」100議席台 朝、毎、読、日経4紙世論調査

なお,この記事で紹介されている,今週実施された世論調査の結果を要約すると,以下の通り。
毎日新聞・・・ 民主党:320議席を超す勢い,自民党:100議席を割り込む
読売新聞,日経新聞・・・ 民主党:300議席を超す勢い
朝日新聞・・・ 民主党:300議席台をうかがう勢い
こういう結果になると,当然アナウンスメント効果が問題になる。つまり,報道された世論の動向を見て,勝ち馬に乗ろうとしたり,逆に負けそうなほうを応援しようとする投票行動が出てくるのではないか,と。朝日新聞社が発行する Journalism 誌での専門家による座談会では,その効果がどちらに働くかは一概にいえず,また,事後的にその効果を検証することすら困難だという。

確かに統制実験のような厳密な因果関係の検定はできないにしろ,選挙期間中の態度変容を同一個人から定点観測できれば,アナウンスメント効果の状況証拠をつかかめるかもしれない。もっとも, Journalism 誌に紹介された世論調査の現場を考えると,そうした負担の大きい調査に協力する有権者から得られた回答には,バイアスがかかっていてもおかしくない。

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複雑系として社会を見る立場では,アナウンスメント効果を含む,コミュニケーションがもたらす態度変容こそ興味深いテーマだ。何とかそこを分析できないかと思う。したがって,調査対象者に選択バイアスがあるとしても,社会的相互作用による態度変容(選好の形成や変化)に接近するという目的に照らして,上述のような定点観測調査は次善といえるのではないだろうか。

とはいえ,パネル調査にはそれなりの費用がかかる。そこで1つの簡便法として,ネット上で個々のブログの論説がいかに変遷したかを追跡するのはどうだろう。しかし,選挙期間中,自分の率直な政治的態度を何回も書き込む人がどれだけいるだろう。いたとしても,強固な政治的信念の持ち主だとしたら,書き込みはプロパガンダなので,この研究に対象には向いていない。

もちろん,この選挙の結果がいま出ている世論調査の結果とさほど変わらないことになれば,そのアナウンスメント効果はそう大きくなかったことになる。どうであるかは,約1週間後にわかる。

さて,クチコミ@総選挙の予想(8月22日時点)を眺めて,個人的に驚かされた例を挙げると―

・茨城県で小選挙区は自民党全滅・全員民主党 ・・・かつての住民としては信じられない。

・東京都で,小選挙区1位となる自民党の候補者は3人。そのなかで11区の下村博文氏の予想得票率が大きく 60.66%。一方,同じ区に新党日本から出ている,ジャーナリストの有田芳生氏の予想得票率が3.88%。幸福実現党や共産党に比べても,1桁小さい数字だ。一定の知名度がある候補であり,ちょっと信じられない。

・神奈川県でも自民党全滅。2区の菅義偉氏,11区の小泉進次郎氏,15区の河野太郎氏といった「大物」が小選挙区で落ちることになり,各種メディアの予測とは全く異なる。大方の予測に反して,クチコミ@総選挙の予測が的中することになれば,この方法はすごいということになる。

・注目選挙区の1つ,静岡7区では片山さつき氏(自民党)38.93%,斉木武志氏 (民主党) 33.3%,城内実氏(無所属)20.0% という予測。メディアの予想では,郵政造反組の城内氏が優勢であったはずだが,かなりの差で3位とは意外。

・前回の選挙では,堀江貴文氏の立候補で話題を呼んだ広島6区。ここは小島敏文氏(自民党)が 56.58% であるのに対して,カメイ静香氏(国民新党)は 8.72% で4位!これは正直,信じられない。クチコミのテキスト処理で,カメイと亀井を同義語扱いできなかったせい?

ネット上のクチコミだけで予想しているのだから,予測がうまくいく地域といかない地域があっても不思議ではない(その地域における CGM の活発度が影響する?)。他方で,通常の世論調査には乗りにくい若者の声を,この手法ならうまく拾ってくれる可能性もある。予想の当たり外れで,その地域のコミュニケーション特性がわかる,という副産物があったりして。