Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「巨人離れ」と選好の温度

2008-04-01 23:38:08 | Weblog

4月1日だから気の利いたことを書きたかったが,想像力が弱っている。今日は査読のコメントをだらだら書いて一日が終わった。「新学期」の抱負については後日,ということで。

プロ野球セ・リーグが開幕し,巨人4連敗,阪神4連勝という出だしである。わが広島は開幕で引き分けのあと3連敗。巨人の開幕戦はヤクルト相手に神宮球場で行われた。中継をちらりと見て,球場が満席でないのは雨のせいかと思っていたが,TV視聴率のほうも 11% (関東地区)で史上最低だという。ちなみに,阪神の開幕戦視聴率は 17% (関西地区)あった。チームもファンも,巨人は勢いを失っているのか…。

一昨年,あるシンポジウムで,市場のロングテール化(ニッチ需要の水平的拡大)が今後進むかどうかは,巨人戦の視聴率を見ていればわかると半ば冗談で発言したことがある。現在の状況は,巨人への一極集中的人気が失われきたことを如実に示している…といいたいところだが,現実はそんなに単純ではないはずだ。

 おそらく,潜在的な巨人ファンは相変わらずたくさんいて,別に他のチームを応援するようになったとか,Jリーグに夢中になっているということではないと思う。それは,「わが」広島カープが,中国地方では相変わらず多くの潜在的ファンを持ちつつも,球場に客が来ないのと似た状況である。つまり,ファンが「燃えていない」わけだ。

ここで思い出すのが,選挙の研究で開発された「感情温度」という概念である(以前当ブログで取り上げたことがある)。選好を序数的でなく基数的に測定すべきだと Kahneman らは主張しているが,感情の熱さを取り入れないと,政治もスポーツも正しく理解できないのである。モノやサービスのマーケティングだって同じだろう。

相変わらず巨人「ファン」ではあるが,球場に行ったり,(晩酌しながら?)ナイターの中継を見ているような時間はない,というのが実態だろう。なぜそうなるかというと,他にも選択肢がいっぱいあって,プロ野球観戦へかつてほど多くの時間を配分できないからである。そこにやはり,ロングテール化が影響していると考えられる。

そうした変化は全国で起きているにもかかわらず,なぜ阪神地区や福岡,札幌,仙台では燃えているファンが多いのだろう? その裏に球団の並々ならぬマーケティング努力があることを教えてくれるのが,以下の本である。この本の前半は楽天イーグルスの事例を詳しくレポートし,後半では福岡ソフトバンク・ホークスや浦和レッズ,千葉ロッテマリーンズ,そしてアイランド・リーグを取り上げている。

楽天が巨人に勝つ日―スポーツビジネス下克上 (学研新書 24)
田崎 健太
学習研究社

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楽天イーグルスの場合,そもそも放映権収入を期待できないことから,球場を徹底的に広告媒体化し,かつ周囲の公園を含めてテーマパーク化することで集客を増やすことになった。ほとんどセロからスタートし,従来の球団経営とは無縁の若い経営者を起用した。売上や収益で巨人に到底及ばないが,ライフスタイルの変化に合わせた新たなビジネス・モデルを目指している。

従来の選択モデルでは「感情」の強さは考慮されていない。本格的な心理学アプローチを導入しようとするとややこしいことになるが,百点尺度の「感情温度」のような簡便なアプローチをとれば,分析はむしろ楽になる(OLSで済むから)。そこまで簡便化するかどうかはともかく,今後「熱い選好」と「冷たい選好」のいずれも扱えないと,選択理論に未来はないだろう。

余談: 朝,日テレの「スッキリ!!」の最後で,出演者たちが揃って巨人への「熱い想い」を語っていたところ,局アナの葉山エレーヌさんが「私は広島ファンです!」と発言。加藤浩次が「えーっ!?」と叫んでいるうちに番組が終了。聞き間違いではなかったはず・・・。「感情温度」が15℃くらいから80℃近くまで急上昇。


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