Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

不思議の国の商学部

2009-08-13 20:54:50 | Weblog
「商学部」に籍をおくようになり,もうすぐ1年を迎えようとしている。商学部(School of Commerce)という存在は,欧米でも100年近い歴史があるという。農学部があり,工学部があるわけだから,狭義には商業,広義には第3次産業に対応する学部として商学部がある,と理解すればいいのだろうか。

商学部にマーケティングや流通論があるのはわかる。商学部=経営学部という通念からすれば,経営学や会計学があるのも理解できる。だが,交通論,貿易論,保険論,証券論といった科目には初めて出会った。それらを交通経済学や国際経済学,あるいは金融経済学と一緒くたにするのは,経済学的偏見だろう。

商学が何であるかは,商学の各分野を広く学んだことがない,商学部出身ではない教員にはわかりにくい。しかし,各専門のさわりを簡単に解説してくれる本があれば,一種模擬的にそれを経験できる。同僚の先生たちが数年前にまとめた以下の本は,本来は受験生向けとはいえ,こんなぼくにも役に立つ本だ。

これが商学部!

同文舘出版

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ぼくが最も気に入ったのは「世界が注目するドイツ車の魅力とは?」というタイトルが掲げられた「経営学」の章だ。ドイツの自動車メーカーに焦点を当て,企業提携戦略,ブランド戦略,生産管理,コーポレートガバナンス,労使関係を論じていく。ふだん,日米の企業しか視野に入っていないことが多いだけに興味津々だ。

ドイツ車が,優れたテクノロジーとクラフトマンシップに支えられ,強固なブランドを築いていることは,いまさらいうまでもない。しかし,その背後にある経営の仕組みは,さほど知られていない。労働組合の経営参加など,ドイツ的経営システムは,米国を模範に日本企業が追求してきたものとはかなり異質な部分がある。

社会民主主義的な国家体制のもとで,企業がグローバルな競争力を持続させていることの秘密が何であるかは,今後の日本にとっても参考になるかもしれない。ドイツ経営学などと聞くと古くさいイメージがあるが,最新の経営理論も踏まえた,現代的な視点でのドイツ流の製品開発やブランディングを研究がないものかと思う。

さて,この本の続編が出るという。著者はある程度入れ替わって,実はぼくもその1人になっている。いくつか,上述のような面白い章が消えてしまうので,興味のある方はいまのうちお買い上げいただければと思います。