Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

政権交代が元気につながるか

2009-10-05 17:11:29 | Weblog
鳩山新政権はいまのところ「ムダな支出を減らす」ことに専念しているようにみえる。そのことは必要なことだし,千載一隅のチャンスだと思うが,それだけでは景気はよくならないし,夢もない。『経済界』という「渋い」雑誌で,経営者と並んで以下のような有名な経済学者が新政権に意見を述べている。

島田晴雄「理想と現実のタイムラグは経済を破綻に導く」
野口悠紀雄「著しく人材の質が低下した日本は教育こそ最重要課題」
八代尚宏「農業、医療、介護、労働市場の改革で成長軌道を描く」

「日本の国家ビジョン」というテーマなので,それぞれ大所高所からの提言が並ぶ。小泉内閣のブレーンでもあった島田,八代両氏はともに「健康」等々の新市場の成長性を説く。ただ,島田氏の注目する公務員の削減や八代氏の主張する労働市場改革を実行することは,民主党にはハードルが高いかもしれない。

野口悠紀雄氏は「最大の問題点は日本人の質が著しく低下していることにある」という。その証拠の一つとして提示されるのが,スタンフォード大学への留学生で,日本人の比率が低下していることだ(中・韓からは増加している)。ふーむ・・・ 野口先生の「超勉強法」を読むだけではダメなんだ・・・。

いずれにしろ,民主党のマクロ経済政策は,所得再分配による内需拡大一本槍で,成長戦略が欠けているという批判がある。一方,産業政策などよけいなことだ,という見解もある。この点で興味深いのが,後述の小野善康氏の議論である。小野氏は既存の学派分類に収まらない,個性的な理論経済学者である。

経済界 2009年 10/6号 [雑誌]

経済界

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小野善康氏と「派遣村」で有名になった湯浅誠氏の対談が『サイト』最新号に載っている。「ね!政権交代っておもしろい」という特集だが,「面白い」という基準を持ち出すことを面白く感じない人もいるだろうけど,ぼくはいいと思う。ただ,この対談はあまり面白いものにはなっていない。

SIGHT (サイト) 2009年 11月号 [雑誌]

ロッキング・オン

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小野氏の議論はありきたりの「通説」とは違うので,対談という形式では,その論理はきちんと伝わらない。その点で,やはり現在発売中の『現代思想』「政権交代」特集号に載った,小野氏の「新政権の経済政策を考える」という論文がおすすめである。コンパクトに,わかりやすく書かれている。

現代思想2009年10月号 特集=政権交代 私たちは何を選択したのか
吉本 隆明,姜 尚中,森 達也,雨宮 処凛,小野 善康,小森 陽一
青土社

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小野氏によれば,民主党がマニフェストで掲げる子ども手当にしろ農家の所得補償にしろ,国民の間の所得の移転であって,移転先の消費性向が相対的に高いのでない限り,景気を押し上げる効果はない。単に再配分するのではなく,市場を創出するような財政支出をすべきだ,というのがその主な主張である。

その点で評価すべきは,鳩山首相が国際公約とした,厳しい環境規制だという。それが家計にとって大きな負担増になるという議論に,小野氏はその分環境ビジネスに関わる家計の所得増になると反論している。そこに財政を投入する,というのは日本版グリーンディールに近い考えだと思われる。

週刊誌でもテレビでも,民主党政権対官僚の戦い,といった点にのみ関心が集中しているようだ。確かにそれは物語として面白い。だがもっと面白いこと,元気が出る話は,ムダの排除以上に,今後何を作り出すかだろう。再分配だけしてあとは市場に任せる,というのは一種の市場主義ともいえる。