Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

OR は鳩山首相を救うか?

2009-10-26 07:05:11 | Weblog
周知のように,現首相である鳩山由紀夫氏は東大の計数工学科を経て,スタンフォード大学でオペレーションズ・リサーチ(OR)を学び、博士号を取得した。彼が学者から政治家へと転身したのは,OR 的な発想を政治に生かそうと思ったのか,OR に何らかの意味で失望したのか,そんなこととは関係のない,鳩山一族としての宿命だったのか。それはともかく,彼の直面する難問を,OR 的に解決できるかどうかを,素人ながら考えてみよう。

鳩山首相,あるいはその政権が抱える最大の問題は何だろう。いろいろな見方があるだろうが,ぼくにはそれは,沖縄・普天間の米軍基地移設問題であると思える。選択肢の1つの極に,公約に努力目標として掲げた国外・県外の移設の主張があり,その対極に,米国が国家間の約束を履行せよと迫る辺野古への移設受け入れがある。この両極の間に,県内移設のような妥協案が存在し得ないとしたら,これは解が2つしかない離散的選択問題になる。

鳩山首相は決定を延ばして妥協案を探る姿勢を見せつつも,流れとしては結局,日米同盟の悪化を恐れて,辺野古への移設を受け入れるタイミングを計ろうとしているように思える。それは,米国の怒りが爆発しない範囲で,連立を組む社民党がしぶしぶ受け入れる確率が1に最も近づくのはいつかという問題である。つまり,問題は離散型から連続型の最適化に変わった。ここで鳩山氏の本当の目的関数は,自身の政権の持続期間だと考えよう。

米国の姿勢が報道されるようにきわめて強固であるとしたら,米軍基地の普天間から辺野古への移設は,いつか必ず受け入れなくてはならない。しかし,そのとき社民党が,しぶしぶであれ,それを認めることはあるだろうか。その可能性はきわめて低いと思う。なぜなら,それを受け入れることで,社民党は少数だがコアな支持者たちを失うからだ。党の存続を求める限り,そのとき政権から離脱することが,社民党にとって唯一合理的な選択になる。

どのみちいつか米国に従わざるを得ず,そのとき社民党は高い確率で連立から離脱するのだとしたら,鳩山氏に選択の余地はない(優越戦略が1つだけ存在する)。彼は早晩,辺野古への基地移設を受け入れるだろう。その結果連立が崩れ,参議院で多数を失うことになる。新政権は法律を変えずに,予算措置だけで実行可能な政策しか実行できなくなる。あるいはせいぜい,いずれかの野党が個別に賛成してくれそうな法律を通すぐらいだろう。

そして来年の参院選を迎えることになる。民主党が,マニフェストを実現するために参院でも単独過半数を与えてくれといって勝利するか,あるいはこの1年間,大きな成果を挙げなかったことが失望されて敗北するか。民主党は後者を怖れて,社民党(あるいは国民新党)に気を遣ってきた。しかし,前者を目指す戦略もあり得るはずである。参院選に向けて明確な争点を打ち出し,野党を「抵抗勢力」に仕立て上げる,小泉氏に倣った戦術である。

もちろん,他のシナリオもあり得る。社民党に代わる連立相手を見つけ,参院で過半数を確保する(あと2議席あればよい)。あるいは,米国との交渉を決裂させ,日米同盟を解消する(そうなると民主党は分裂するだろう)。それとも,日本側からの妥協案に米国が譲歩するとか(ウルトラC)。結局社民党が妥協する可能性もなくはないが,その場合社民党は,事実上民主党に吸収されてしまったといえるだろう。わからない。一寸先は闇である。

いま鳩山氏の頭のなかには,ぼくごときが想像するよりはるかに複雑な(あるいは意外にも,もっと単純な)デシジョン・ツリーないし利得表が描かれ,確率や利得が付記されているのだろうか?もしそうなら,後年,情報公開の一環として,それをぜひ公開してもらいたいものだ。あるいは,そのような OR 的なるものは何もなく,全く別の図柄が描かれているのか・・・。それはそれで(いや,それならなおさら)どんなものか知りたい気がする。