Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Kamenometrics: Another Statistics?

2009-10-12 16:13:37 | Weblog
前回のエントリと混同しやすいが,今度は KameNOMICS ではなく KamenoMETRICS,すなわち亀井流計量学を紹介する。亀の子算と話と違うのでご注意を。これも前回取り上げた,亀井氏と御手洗氏の対談でのあまりに有名になったエピソードに基づいている。
亀井静香金融・郵政担当相は5日、東京都内で行われた講演会で、「日本で家族間の殺人事件が増えているのは、(大企業が)日本型経営を捨てて、人間を人間として扱わなくなったからだ」と述べ、日本経団連の御手洗冨士夫会長に「そのことに責任を感じなさい」と言ったというエピソードを紹介した。御手洗会長は「私どもの責任ですか」と答えたという。
別の記事によれば,亀井氏はさらに「これはね、風がふけば桶屋がもうかるみたいな、その程度の因果関係じゃないよ。もっと強いから」と語ったという。

最初に確認しておきたいのは,そもそも日本で最近,家族間殺人が増えているかどうかである。警察庁の「平成21年上半期の犯罪情勢」に掲載されたデータを見ると(大西宏氏のブログで知る),親族間の雑人検挙数はここ 7~8 年,特に増える傾向にはないが,全殺人における比率にすると,2004 年あたりから増加傾向にあることがわかる。したがって比率で判断する限り。亀井氏の議論は事実を無視したものではないといえる。

では,親族間殺人が増加した時期に(あるいはそれに少し先行して)経団連に代表される日本企業が「日本的経営」を放棄したといえるだろうか。簡単化のため日本的経営を長期雇用の維持だと定義したとしても,そうした仕組みが各企業のなかでいつ変わったかを同定することはそう簡単ではない。しかし,亀井氏は日本的経営が放棄された背景に小泉改革を見ているはずなので,小泉政権の在任期間との関係を見ることにしよう。

小泉政権は 2001 年 4 月から 2006 年 9 月まで続いた。その半ばに親族間殺人の比率が増え始めたが,竹中平蔵氏なら,このデータから別の結論を導くかもしれない。この時期殺人件数自体は減少しており,むしろ社会の治安はよくなっている。一方,親族間殺人には個別の家庭事情が深く関係しており,社会の変化の影響を受けにくいので,その比率が増えただけだと。そのどちらが正しいか,統計学的に決着させることは容易でない。

そもそも,10 時点もない2つの時系列データから因果関係を推論することなど,できる相談ではない。では,亀井氏はどうしてあそこまで「因果関係」に自信を持つことができるのだろうか。彼の発言には,地元選挙区の支援者から聞いたという話がよく出てくる。それ以外にも,元の職場である警察からの情報や,噂される(あくまで噂でしかない!)アングラ経済とのつながりから得られる現場情報もあるかもしれない。

これは,数字だけ見てレトリックを組み立てる学者にありがちなやり方とは全然ちがう。マーケターとしては,おおいに見習うべきだといえるだろう。つまり,現場の声をナマで聞き,一方で客観的な数字と矛盾しないかを確認する。それが揃うと,確信が持てる。これは,現場の聞き込みと科学捜査を併用する,現代的な警察捜査とも一致する。現場感覚と数値による確認(検定ではない)。これが Kamenometrics の核心なのだ。

なお,以上の「論考」はすべて二次資料と想像に基づいており,その意味で上で述べた Kamenometrics の精神からみると,トンデモないものであることを申し添えておきたい。
ちなみに,上で引用した,御手洗会長が「私どもの責任ですか」と答えたというシチュエーション,どんな口調でどんな表情だったのか,興味がある・・・。