Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

消費者行動のダイナミクス研究会

2009-10-29 12:52:20 | Weblog
昨日のJIMS消費者行動のダイナミクス研究部会は,エージェントベース・モデリング(ABM)を用いた発表が2件。まずは,北中さん他「消費者の広告想起と購買意図の形成における消費者間相互作用の影響について」。広告によって起きる態度変容が,消費者間のネットワークを通じて伝播し,広告効果が増幅されるプロセスをシミュレーションする。GRPや想起に関する実データを用いて,現実への接合を図っている。マス広告とウェブ広告の最適ミックスをどうするか,といったさらなる実践的な分析に期待がかかる。

次いで大堀さん他「テーマパーク問題における想起集合を考慮した来場者エージェントモデル」が発表された。従来のテーマパークのシミュレータを,来場者の選択行動をより現実的にするなどして拡張・精緻化している。そのポイントは,選択集合の形成とそのなかからの選択という2段階にしたこと。待ち時間が長くて選択肢がない場合,来場者は園内を回遊して新たな情報に接触,その結果選択集合が更新される。今後,質問紙調査を行って,実際の選択状況に近いパラメタ設定を行っていくとのこと。

いずれも,ABM を現実の意思決定に役立てていこうという,本格派の研究だ。そして,来週,中央大学@お茶の水で開かれる Complex'09 のマーケティングセッションで,この研究会を土台に組織した特別セッションで発表される。他にも,ぼく自身の独善的なサーベイを皮切りに,ABM以外にも社会ネットワーク分析や経済物理学など,さまざまな複雑系アプローチが報告される。招待講演を含め,楽しみな発表がいくつもある。

11/3 金 10:20-12:00

- Makoto Mizuno (Meiji University, Japan), Complexity in Marketing and Consumer Behavior: A Brief Review
- Yukie Sano*, Kimmo Kaski** and Misako Takayasu* (*Tokyo Institute of Technology, Japan, **Helsinki University of Technology, Finland),Statistics of Collective Human Behaviors in Blog Entries
- Yufu Kuwashima*, Tomohiro Fukuhara** (*Toyo University, Japan, **University of Tokyo, Japan), Social Network Analysis of Word of Mouth on the Internet A Case of Movies
- Isamu Okada*, Hitoshi Yamamoto** (*Soka University, Japan, **Rissho University Japan), A New Model on Consumer Behavior with Agent-based Simulation

11/3 金 14:50-16:30

- Takayuki Mizuno, Tsutomu Watanabe (Hitotsubashi University, Japan), Price Competition among E-retailers in Kakaku.com
- Kotaro Ohori, Hiroto Suzuki, Yosuke Saito, Mariko Iida, and Shingo Takahashi (Waseda University, Japan), A Visitor Agent's Decision Making Model with Evoked Set in Theme Park Simulation
- Hideaki Kitanaka*, Shirigu Kido**, Akira Suzuki and Jinya Nakamura*** (*Takushoku University, Japan, **Video Research Ltd., Goga. Inc. , The PR Effect of Consumers' Interaction and its Impact on Consumers' Brand Consideration

ところで昨日の部会後の懇親会は,社会人を含む大学院生比率が異様に高かった。それは非常にうれしいことで,自分は触媒として今後どういう役割を果たすべきか,いろいろ考えさせられた。いま(締め切りを過ぎたが)執筆中の,国内の実務家/研究者向けの啓蒙論文(タイトルは「消費者行動の複雑性を解明する:エージェントベース・モデルの可能性」)も,そこまでの道程の一里塚といえるだろう。そのうち,もっと詳しい内容を一冊の本にまとめてみたい(そこに収録すべき自分の研究が増えないとどうしようもないが)。