Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

複雑なものは複雑に

2007-05-03 23:55:54 | Weblog
今日の日経「経済教室」に『理系の経営学』の著者,宮田秀明氏が「『複雑事象の単純化』は誤り」と題する一文を寄せている。いわく「経済現象に対するエコノミストの解説には、本来は十くらいの非線形な偏微分方程式に支配されていると思われる現象を二つ程度の線形方程式で説明するような場合が多い。結果として、エコノミストの解説をうのみにする人はほとんどいない」・・・なかなか辛辣である。

宮田氏は専門である流体力学について「線形的に説明できる事象は、大きく見積もって一割ぐらいでしかない」「非線形問題なので理論解が得られない」「一九八〇年以降は・・・コンピューターサイエンスによって問題を非線形なまま解く手法を獲得し」たと述べ,自然科学以上に非線形的な社会現象に対しても,大規模なシミュレーション・アプローチが有効だと示唆している。そして有望なフロンティアとして取り上げられるのが「サービスイノベーション」だ。高速道路や書店流通の例が紹介されているが,いずれも宮田研究室で実際に取り組んだ事例のようである。

主流派の経済学者が,宮田氏の議論に簡単に首肯するとは考えられない。複雑なものは複雑なまま扱えといっても,そんな「単純な話」じゃないよと反論するだろう。経済特有のロジックを,こちらは百年以上考えてきたのだと。あるいは,すでに「理系」のアプローチを経営領域で積み重ねてきた経営工学やORの研究者たちも反発しそうである。

まあしかし,宮田氏の主張のある意味「単純な」力強さは,魅力的に感じられる。詳細なデータをなるべく粒度を下げない形で分析し,複雑な相互作用をコンピュータのパワーで組みふせる。厳密な最適性の保証はなくとも,いまより明らかによい状態を探す。実際にはいろんな課題があるだろうけど,やってみることが大事だ。ともかく何か作って動かしてみるのが工学の精神のように思われる。

過去3年間を振り返る

2007-05-03 18:58:05 | Weblog
今日は科研費成果報告書の作成で終始した。まずは図書館で過去の報告書を参考として閲覧。そのあと自分の研究成果を整理しながら,過去3年間の「消費者選好の形成と変化に関する研究」を振り返る。

消費者選好の時間的変化をHBプロビットで計測する研究(ワイン),消費者間相互作用の測定(携帯電話),消費者間相互作用のシミュレーション(リーダー/フォロワー),すべて3年前には始まっていて,学会発表などもしている。

翌年,さらに範囲が広がり始める。いろいろなことを学会発表しながら,そのなかで最終的に論文までいったのは,傾向スコア法を用いた広告効果の実証分析だけである(全くの別系統のテーマはおいといて)。ただし,それさえディスカッションペーパーの次の壁が厚い。

最終年度,2段階選択モデルに取り組む機会があった。しかし,その後は再び選好の時間的変化,消費者間相互作用の計測(シャンプー),エージェントベース・シミュレーションへ・・・結局,論文の形になったのはシミュレーション研究だけであった(それとて,まだまだ課題は多いが)。

結局,研究の流れは消費者選好のダイナミクス=消費者間相互作用という方向に進んでいった。それは致し方ないことだが,一方で当初の構想に入っていた,選好の内的変化の研究が進展しなかったのが心残りである。Mktg. Sci. に今後掲載予定の論文名を見ていると,非補償型選好の研究がいくつか出てきそうだし・・・ううむ・・・。