Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

期待と妄想の心理学

2007-05-16 12:33:53 | Weblog
ダニエル・ギルバード『幸せはいつもちょっと先にある 期待と妄想の心理学』・・・原題 Stumbling on Happiness にこのタイトルはすごい。それはともかく,内容はぼくの関心に関係する部分が多く,ためになった。ポイントは,人間が現在感じている効用(満足や喜び)が,過去に予測したものと一致せず,またあとになって想起したものとも一致しないこと。それを示す実験が次々紹介される。その原因となるのが,実在論,現在主義,合理化と著者が名付ける心理的バイアスである。

実際に感じる効用を予測し損なうことで,人々は系統的に選択を誤る。それを避けるにはどうすればいいかが最後に論じられる。自分が将来満足するかどうかは,現在の自分の予測より,現在その対象に直面している他者に聞いたほうがより正確だというのだ。個人差があるだろう,自分と他者は違う,と誰しも思う。しかし,著者は,人間はお互いの差異を過大視しがちだという(お互いの識別のため,必要なことなのだが・・・)。

これは,消費者のレビューや相互の推奨が有効であることを示す,心理学的な根拠といえる。マーケティング・サイエンスでは消費者間の異質性・個人差が重視されているが,一方で消費者間の類似性を見直すことが必要かもしれない。そこで想起されるのが,Gershoff and West のいう Community of Knowledge だ。類似性の構造を把握することが,新たな普及戦略やリコメンの基礎となり得る。

もう一つ,この本で面白かったのが,情報伝播に関する思考実験である。正しいと思う情報だけ流すネットワークと,正しくないと思う情報も時々流すネットワークを比べ,どちらが正しい情報を行き渡らせることができるか? 必ずしも前者ではない,と著者は予想する。誤りを含んでいても,情報の流量自体を高めることが重要だと。

刺激に富んだ本だが,デイブ・スペクターばりの「アメリカンジョーク」が満載で,ぼくにはかえって読みにくく感じる部分もあった。また,紹介される実験についてもっと知りたいので,参考文献が掲載されていないのが残念である(原書には載っているのだろうか・・・)。