Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

環境配慮型消費

2007-05-12 10:04:38 | Weblog
エコ・マーケティング,グリーン・マーケティングへの関心を持つ,あるいは持たざるを得ない人々が周囲に増えている。つまり,ぼく自身,無関係ではいられないということだ。このテーマに関わるとしたら,どうすればいいか? マーケティング・サイエンス的には,消費者の選好関数に「環境」という変数を入れればよい。環境を選好する消費者は,環境負荷の低い消費を選択する(トートロジー!)。だから,そのような選好を持つ消費者を増やしましょう・・・それがマーケティングであり,選好誘導だと。

経済学者には,そんなことはつまらない話に聞こえるだろう。彼らにとって重要なのは,一人だけ環境配慮的行動をとっても,環境に対してほとんど影響を与えないという事実だ。それが故に合理的な消費者は環境配慮行動をとらない。その結果,環境が悪化する。典型的な社会的ジレンマの状態だ。そこで,「外的に」何らかの報償(あるいは罰)を与えて,社会的に最適な状態に導くことが問題となる。

だが,現実にはそのような目に見える報償(罰)なしに,環境配慮的行動を取る消費者が(多数かどうかは別にして)存在する。彼らの行動は,通常の経済学が仮定する私利の最大化原理では説明できない。では,そうした「利他性」がなぜ選好に組み込まれているのか・・・それを説明するのが進化ゲーム理論だ。個人にとって合理的でない行動であっても,それが「社会的に複製」される条件を満たしていれば普及する。

これは面白い研究プログラムだが,マーケターにとっては多少距離感があるかもしれない。彼らは,長期にわたってその行動様式が安定的に成立するかどうかより,キャンペーンその他によって,とりあえず短期に,人々の行動様式(あるいは選好)に影響を与えることに関心を持つ。利他的な選好を持てば環境配慮的に行動するのは自明なこと。だが,それを(ソフトな)コミュニケーションによってどこまで可能かするかが,マーケティングのチャレンジだ。

そう考えればすっきりするはずだが,ぼく自身は割り切れていない。人々の選好を変えるといっても,それが持続可能(sustainable)かどうかを無視できない。それを言い出すと話がぐちゃぐちゃになるが,マーケティング研究をより広い社会科学の文脈におく好機ではないかと思う。