Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

批判精神無しに育たない

2018-10-20 | 文化一般
朝の車中のラディオニュースでドナウエッシンゲン音楽祭開催のアナウンスがあった。最も古く大規模な現代音楽祭と紹介していた。残念ながらその中心になっていた管弦楽団は解体されたが、合弁後にそこを穴埋めしている。実際には大管弦楽団が必要な委嘱作や演奏会は一部でしかなく、多くは中規模のクラングフォールムなどの客演アンサムブルが任を担っている。

ワイン街道に住むようになってからもこの音楽祭には毎年のように常連になるものと思っていた。しかし当時はネットも無くその情報すら逃していて、新聞評で初めて開催を知るようなことだった。要するに別世界の事なのだ。その点はやはり近所のシュヴェツィンゲン音楽祭との差が大きい。前者は旧SWFバーデンバーデンの主催、後者はSDR主催とその権益も違ったのである。同じ州であるが、前者は歴史的にヴュルテムベルクからクアープファルツであり、後者はバーデンの土地柄である。

実際に距離的にもワイン街道からは黒い森を対角線上に丁度反対側へと、つまりボーデンゼ―方面へと向かわなければいかず、遠く、バーゼルなどよりも行き難いのを知ったのはそこに出掛けてからである。そして一度だけお呼ばれで出かけたぐらいで、コンサートもそちら方面では二回ほどしか聞いていない。シュヴァルツヴァルト住人ほどに熟知している筈なのだが、どうしても放送局のバーデンバーデンとか友人の宿からの道程を考えていると、とんでもなく時間が掛かることを知った。つまり、アウトバーンで森の向こうへと回り込んでロートヴァイル周辺から森の方へと上らなければいけないのだ。ドナウの源流の街であるから勿論山の上なのだが、切り立った峰の上というよりも明らかに向こう側に下りたところで、これは幾ら黒い森の国道を整備しても遠い。

今回は偶々イヴァーン・フェデーレの名前を見かけたので興味を持った。今更作風は変わらないだろうが、一体現在どんな曲を書いているのか気になった。二曲目のスェーデンの女流マリン・バンクの作品も期待される。しかし後半はミュンヘンの放送局に移って、ヨゼーフ・スークの交響曲を聞いてみようかとも思う。

お昼の時刻にNHKホールからの生中継をやっていた。毎年大現象になっているブロムシュテット指揮N饗定期の続きである。今回はまともなコンサートマイスターが導いていたのでアンサムブルが引き締まって、管とのバランスも良かった。このハイドンだけを聞いていればどこの楽団か楽譜を見てじっくり聞いていないと分からないかもしれない。後半のマーラーの交響曲は先日ネルソンズ指揮ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏と比較になる。弦と管の間のアンサムブルは先日のブルックナーとは違い良いのだが、拍が不明瞭になるところが多かった。

楽譜から訳の分からぬところでのアゴーギクやまた独自のだが興味深いフレージングに苦心して練習していた様子もあり、その演奏解釈もよく分かった。そしてしっかりと拍数を数えているのも窺がえたが、やはり指揮が雑でよれよれしているのだろうと思う。その解像度が十倍ほど違うネルソンズとは比較不能なほど粗い爺の譜読みから、趣のある面白さを求めれば先日のキュッヒルが率いた方が良かったぐらいだが、崩壊を恐れたのだろうか。細かな部分は致し方ないとしても、指揮者お構いなしでやはり拍だけは整えるところまでアンサムブルを作って欲しい。

四楽章のヴィオラの歌いまくり部分をゲヴァントハウス管弦楽団と比較するのはとても酷なのだが、その指揮とは無関係に最もここに残念ながらこのN饗の性格と実力が出ていたと思う。つまり、なにもネゼ・セガン指揮とまでは言わないがその程度に近い指揮者が振ればしっかりした拍が刻めることも分かっていて、それは過去に何回も楽団自体が経験しているに違いない。マーラーの楽曲の指揮は同輩のハイティンクも充分に振り切れていなかったが ― それでも解像度は数倍あるだろうが ―、当然ブロムシュテットにも難し過ぎる楽譜だと感じた ― 一体マルケヴィッチ世代にマーラーを上手に振れる人がいたのだろうか。そして終演後の盛り上がり方を考えれば、会場での音響とか音量とかは想像するしかないとしても、首都一番の交響楽団での聴衆の程度を考えれば、やはりそれは無いだろうと思った。あれだけ超一流の交響楽団が競演して聴衆の耳が肥えていても、地元の交響楽団を厳しく批評出来ないようでは自身の文化として育たない。



参照:
音楽の伝道師の想い 2018-10-16 | 文化一般
音響の文化的な価値 2018-10-14 | 音
蒼空のグラデーション 2018-09-08 | 音

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